第27号 2022.02.01:15年ぶりの手紙は難しい|『Between the Door and the Street』

■ 15年ぶりの手紙は難しい

中学生の頃、スマホはまだ存在しなかった。携帯といえば二つ折りのものだった(いつからガラケーと呼ばれるようになったんだろう、あれ)。友達の中には携帯を持っている子もいたけれど、母が専業主婦だった私には必要ないもの、とされていた(当然欲しかった)。

そんな私にとって、ほとんど唯一とも言えるメディアは手紙だった。かわいいメモ帳、ルーズリーフ、破ったノート、色とりどりのペン、時々シャーペン。○○©️へから書き始め、ギャル文字でぎっしり埋めたら、お決まりの方法で畳む。出てきた白い面を、色とりどりのペンやシールでこれまたぎっしり埋める。書き終わったら学生証に挟んで制服の胸ポケットへ。もらえばどんなものでも嬉しかったけれど、交換相手の胸ポケットからかわいくデコられた手紙が出てきたときの嬉しさは格別だった。

あの頃、手紙は友情の証だった。みんなかわいい手紙を作れる子と手紙を交換したいから、かわいい手紙を作れることは人間関係を築く上でのアドバンテージですらあった。

来る日も来る日も複数人に向けてせっせと書いていたけれど、一体何をそんなに書くことがあったのだろう。手紙の外側のことは思い出せるけれど、中身についてはまったく記憶がない。


文通をすることになった。文を認めることがしたくて、と大好きな友人に誘ってもらったのだ。嬉しくて、すぐにオッケーした。そして今日、1月にもらった1通目に返事を書いた。

お礼でも挨拶でもない手紙なんて最近書いていなかった。テーマも文体も何もかも自由に決めて良い、そしてそれを友達と交換する。本当に久しぶりだ。今度は学校で渡すのではなく、ちゃんと住所を書いて切手を貼ってポストに入れるんだけど。

何を書けばいいんだろうか?書くことがあるだろうか?なんていう心配を他所に、ペンはどんどん進んでいく。気づけばたっぷり2枚分を文字で埋めていた。

とはいえ、読み返してみたらまるで内容がないのでびっくりした。内容がなくても紙は埋まるんだ。あの頃みたいな書き方をしちゃったと、書き終わってから気づく。さて、この手紙を受け取った友人は嬉しいだろうか。まったく自信がない。

今度書くときには、今回のものより少しでも喜んでもらえるようなものにしよう。その友人に伝えたいことを見つけて書こう。そう考えたら、日々を過ごすことにまでなんだかわくわくしてくる。文通、嬉しいなと改めて思った。

■ 摂取エンタメ記録

Watching:

- Between the Door and the Street:  A Performance Initiated by Suzanne Lacy

Reading:

- 「女性は老いると“見えないもの”にされていた」──アートとコミュニティをつなぎ、社会に訴えるアーティスト、スザンヌ・レイシー。【世界を変えた現役シニアイノベーター】

- 71歳から105歳までの女性作家16人が集結。森美術館「アナザーエナジー展」に見るアーティストの力|美術手帖

- 女性たちを突き動かすものとは――
森美術館『アナザーエナジー展』 - T JAPAN:The New York Times Style Magazine 公式サイト

友人からの手紙に「アナザーエナジー展」、なかでもスザンヌ・レイシーについて書かれていた。ソーシャリー・エンゲージド・アート(Socially Engaged Art=社会変革のための、対話やコミュニティ形成などを通じた芸術的または創造的な実践)という言葉を初めて知った。

美術に疎い私は、アートというと絵画や彫刻を想像してしまう。いずれにしても、コツコツと時間をかけて0から作り上げていくような。なるほどこの作品『Between the Door and the Street(玄関と通りのあいだ)』のような、そのときに偶然起こった瞬間や物事を捉えたものもアートなのだな、と気づかされた。

- 『文藝 2022年春季号』水村美苗 「「母性神話」と私の母」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?