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理想の恋人(ヒト)②

近未来に間違いなく訪れる新たなツール。イノベーションは生活を変え、格差を広め、分断を生みますが、それはまるで夢見心地のまま孤独へと誘う新世界の麻薬のようにも感じます。今回はそんな新製品に溺れていくヒトの姿を描きました。

結構ヤバメの記事ですけど、でもコレって結構確かな未来予測だと思います。悲しいですけど。


理想の恋人ヒト、贈ります つづきです。…


「できた…」
思わず声が漏れた。時計は明け方の4時を過ぎていた。衣服の選択を済ませて、ようやく第一段階が終了した。どうやら初日にいきなり最後まではたどり着けない設定になっているようだ。確かに出会った初日に相手の全てを知ってしまえば、逆にすぐに興覚めしてしまうものだ。オトコの本音をこのシステムは十分に把握しているようで、今日は初回で外観と服装まで。それ以上は何をしても画面は動かなかった。保存ボタンをクリックすると、僕は興奮冷めやらぬまま寝付くこともできず、シャワー室で熱いお湯を浴びながらもうすぐ訪れる出会いの日をひとり妄想していた。どうやら僕はすでに理想の恋人ヒトに恋してるような心地すらした。

翌日も僕は彼女に夢中なままだった。彼女に早く会いたい一心で、日中は必死に仕事をこなした。面倒な営業先との交渉もひたすら頭を下げて必死にお願いした。同席した上司は僕の変わりように驚いていたが、決して心を入れ替えたわけではなかった。僕はただ一秒でも早く彼女のもとに向いたかったのだ。その日の業務をこなし終えると、僕は就業時間を待って飛び出すように会社を出た。電車の中ではモーネッド社のホームページをくまなく読み漁り、理想の彼女ヒトに関する情報をSNSの中で探していた。部屋に戻ると、ネクタイも外さないまま、僕はPCの電源を入れた。

このアプリの世界観はまるでRPGロールプレイングゲームのようだった。モーネッド社が開発したこのネット版アプリは、僕が出会いの場面から満喫できるように様々な工夫が施されていた。場所と時間から、会話の内容に至るまで、自分の好みを伝えても良し、予想外の相手の反応を楽しむも良しなのだ。画面選択の巧妙さもあって、体験したことはないが2次元恋愛モノのアプリの実体験版とでもいえるような仕様になっていた。僕の選んだ行動やコトバをもとに、僕の性格や心的要素が分析されていくようだ。何かの性格分析のように結果が表示される訳もないのだが、様々な「自分好み」の詳細がここのデータ解析から得られるのだろう。気づけば僕は2週間連続で、毎晩このアプリに相当な時間をつぎ込んでいた。寝不足で仕事に差し支えないか当初は心配だったが、興奮しきった精神状態はまるで僕を覚醒剤中毒者のように元気にしてくれた。2日目以降は時間単位で課金されたのだが、課金額がデート代として表示されるのでそうそうケチることもできなかった。そうやって経済状況や資産の概要まで把握しているのなら、開発者は相当なマーケティング能力を有しているのだろう。

彼女との会話のなかで、時々ナレーションのような注意画面が表示された。そこには開発者からのメッセージが書かれていた。
「もしも初期段階からの入力項目に間違いや訂正のご希望があれば、下のアイコンより設定画面に戻って下さい。リアルな入力設定をすることで、今後よりリアルな世界観を作っていくことができます。」

理想の恋人ヒトと出会うためには、本当リアルであることは何よりも大切だ。そうだ、何をためらうことがある。僕はこれから真の出会いを迎えるのだ。僕は既に盲目どころか、冷静な判断も何もできないようになっていた。



(イラスト ふうちゃんさん)


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