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saki.
2017年2月27日 23:25
それから、約半年後。私と紗菜は、ある村に住んでいた。夫に別れを切り出したのは、紗菜を追いかけたあの日から、比較的すぐのことだった。すんなりいくと思いきや、意外にも夫は手のひらを返したように私をなだめ始めたが、紗菜の瞳を見たとたん、彼は何も言わなくなった。今は、紗菜と私の、二人きりだ。父と母が残してくれたこの別荘と畑を使って生計を立てていくことが楽ではないことは、誰の眼にも明らかだっ
2017年2月20日 22:18
母の日記は、そこで終わっていた。それは、「日記」というよりも、母の「懺悔録」に近かった。ほとんど全てのページは、私の知らない「菜々美」で埋め尽くされていた。 母はこのノートを、どうするつもりだったのだろうか。「あの世」に持っていきたい、と言っていたが、本当にそうだったのであろうか。 最後の数行は、明らかに私に向けられたものであった。最後の一言が、只々私を哀しくさせた。 それでも、これ
2017年2月7日 22:53
菜々美は近頃、以前のような快活さを急速に失っていた。歳のせいもあるはずだが、それでも私はそのことを自分のせいにし、そうして私自身を苦しめていた。菜々美はそれでも、変わらずよく私の部屋にやってきては私の体調を気遣い、私によく話しかけてくれた。それでも、ふとした拍子に彼女が黙り込むことが増えた。そのようなとき、私はたまらなく不安になった。どうしたの、と尋ねても、勿論笑顔で何でもない、と答える。
2017年2月1日 21:16
「…お父さんは」と夕食中、珍しく紗菜が話しかけてきた。 「今日も、遅くなるんだって」と私は何でもないかのように答えた。 わかりきっていたかのように、紗菜は再び黙り込んでしまった。 ふいに、紗菜がこちらを見上げた。その透明な、何も映していないが故にこちらを見透かしていそうな瞳に、私はふいに身体の奥底から這い上がってくる寒気を感じた。 紗菜が、口を開きかける。 止めたかった。その