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アート×子ども事業、公的にはどんなものがあるの?

小学校のころ、学校の課外授業で、よくわからず能を観に行って寝たり、狂言を観劇しにいって、「ぶすーぶすー、うははー」などと言っていた記憶がある方もいるのではないでしょうか。(私はあるのですが)

アート×子ども事業、公的にはどんなものがあるのでしょうか。

私は仕事上、芸術文化事業による子ども支援に関して、評価を担うことが多いのですが。特に、課外活動における芸術文化活動に関心があって、部活動消滅の危機などの話もある中、音楽や美術に、より多くの子どもが触れる時間を作るためには何ができるだろう?とよく考えています。

そこで今回は、「アート×子ども」の事業が、公的になぜ必要で、どのようなものがあり、今後、どのようなものがあるとよりよいのだろう?

ということについて、考えていければと思っています。これを機に、小中学生の皆さん(やその親御さん)から声がもらえたら、すごく嬉しいなぁと思います。

1.なぜ、アート×子ども事業、公的に必要なの?

なぜ、そもそも公的に子ども向けのアート事業が必要なのでしょうか。

日本の場合、芸術に触れる機会はまず、義務教育の中で担保されています。

全国どこで教育を受けても、一定水準の教育を受けられるようにするために、文部科学省が定める「学習指導要領」。小中高とそれぞれ決められていて、ほぼ10年ごとに改訂されてきています。

平成29年~30年(令和2年度より、段階的に実施)に改訂された中では、

「生きる力」の育成を目指し資質・能力を三つの柱(※)で整理、社会に開かれた教育課程の実現
※「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」

と、書かれています。表現力という点は、アートに関わりがありそうですよね。具体的には、主な改訂のポイントの中に「伝統や文化に関する教育の充実」という項目があり、「県内の主な文化財や年中行事の理解」、「我が国や郷土の音楽、和楽器」といったことも明記されています。

改訂ポイントだけではなく、そもそも、例えば小学校の学習指導要領の中には、音楽、図画工作といった教科(中学校は音楽、美術)が定められています。そして、学校教育法の中では、下記のようにアートについて、言及されています。

生活を明るく豊かにする音楽,美術,文芸その他の芸術について基礎的な理解と技能を養うこと。

その他教育課程においても、

地域の図書館や博物館,美術館,劇場,音楽堂等の施設の活用を積極的に図り,資料を活用した情報の収集や鑑賞等の学習活動を充実すること。

という文言があります。

日本国民は、日本国憲法第二十六条で、教育を受ける権利を有すること、そして無償で教育を受ける義務があることが定められていますので、つまり、学習指導要領の基、無償で音楽、美術等の芸術について学ぶことの権利を有していることになります。

2.どのようなものが、あるの?

学習指導要領には、教科としてどのように教育を進めるかが書いてあるのですが、その他具体的な事業として、公的に予算がついているものもあります。

例えば、文化庁の文化芸術による子供育成総合事業

小学校・中学校等に個人又は少人数の芸術家を派遣し、質の高い文化芸術を鑑賞・体験する機会を確保するとともに、ワークショップ等を実施する事業。鑑賞や体験の機会が提供され、子どもたちの創造力・想像力や、思考力、コミュニケーション能力などを養うとともに、将来の芸術家や観客層を育成し、優れた文化芸術の創造に資することを目的としています。(一部省略)

巡回公演事業、芸術家の派遣事業、子供夢・アート・アカデミー、コミュニケーション能力向上事業の4つがあり、それぞれ自治体や学校が、申込可能となっています。

なかなかイケている仕組みで、例えばコミュニケーション能力向上事業については、学校が芸術家等を選定するパターンである「学校公募型」と国から委託を受けたNPO法人等と学校をコーディネートする「特定非営利活動法人等提案型」の2種類があり、各学校の多様な状況に対応可能となっています。

「通常の学校生活では得られない刺激がある」、「本当にいいものに触れることが一番の情操教育」として学校からの良い声も集まっているようです。


公的支援ということで、文化庁以外にも、各地方自治体が独自に事業を実施しているケースもあります。詳細は述べませんが、例えば調べた中だと、平塚市の芸術文化子ども体験事業などがありました。

3.もっとどういうものがあると、良いの?

文化庁の事業もとてもよいですが、単発的な事業のため、その1回における、子どもたちの興味や団体の質に大きく左右される可能性があります。実際、単発的な芸術文化事業の評価を仕事で担うこともありますが、その評価自体がやはり短期的なものになってしまい、子どもたちの変化など、長期的に考える必要のある部分と重ね合わせるのが難しかったりもします。(単純に楽しかった!で終わってしまうなど。)

もう少し長期的に、子どもたちの表現力を豊かにする、生きる力を育むのに、有効な方法はないのだろうか。

単純に言って、もっと長期的に、あるいは綿密な計画が可能な形で事業が行われれば、成果がより出てくると考えます。

そこで、長期的・継続的に実施している取り組みとして、①海外の事例と、②国内の事例を一つずつ紹介したいと思います。

一つ目は、イギリスのおけるドラマティーチャーの仕組み。イギリスには演劇の授業があるそうです。演劇を教える人はいわゆる専科の先生なんだそう。このドラマティーチャーという人がが媒介役となり、プロの人たちが学校を訪問した時に、やり取りがうまくできるそうなんです。

実際、日本の小学校における、芸術家によるコミュニケーションワークショップの事業評価をさせていただいたことがありますが、重要な事の一つに、「学校の先生がその意義を理解し、うまくアーティストと連携できているか」という点がありました。

イギリスのようにドラマティーチャーが常時いれば、学校とアーティスト間のコミュニケーションが非常にスムーズになる。それから、日本の「文化芸術により子供育成総合事業」のようなものが、授業として常時、どこの学校でもある、ということで、より長期的・広範囲な成果が生まれるのではないかと考えます。

二つ目は、国内事例。福島県富岡町で、たまたま出会った事例です。inVisibleさんという団体の行う、「PinSプロジェクト/Professionals in School Project」というものです。

これが本当にすばらしい。

2018年4月、東日本大震災・福島第一原発事故から7年ぶりに再開した福島県双葉郡富岡町立小中学校を舞台に、各界のプロ、特にアーティスト、建築家、音楽家、職人などクリエイティブな職種の人が、「プロフェッショナル転校生」として、教室を仕事場としながら子供達と学校生活を共にする機会です。(inVisibleホームページ)

ということで、学校に、常時アーティストが転校生として在籍し、子どもたちと一緒に遊んだり、授業を受けたり、給食を食べたりするのです。

小中合わせて20人ほどの、再出発したばかりのこの学校を拠点に、場所特有の個性を生かした富岡町の未来を描くためにも、既存の枠の外で物事を考えることを得意とするクリエイティブな思考を持つ人たちが関わることは必要不可欠だと考えます。

まさに、本当にそうだと思います。これは何も被災地に限ったことではなく、今後人口減少が加速する各地域で、子どもたちがクリエイティブな大人と出会うことの意味はとても大きいと思います。

転校生だから教えないし、子どもたちも対等にコミュニケーションをする。でもその中で、そのスタイルだからこそ、子どもたちが受け取る「創造力・想像力や、思考力、コミュニケーション能力」等がある。

イギリスの事例も福島県の事例も、より長期的に、点ではなく線として、アーティストと子どもが直接触れ合う機会が増えること、学校との連携が滑らかになっていることが特徴的であり、今の公的な事業に不足している部分だと考えます。

全ての学校に一律に、広く深い事業の実施を想定するのは難しいかもしれませんが、まずは各自治体レベルで、福島県富岡町のように、取り組んでいけると良いのではないでしょうか。

STEAM教育という言葉もある中、多くの人が同じ情報にアクセス可能になり、処理能力等はコンピューターにとって代わられる時代。

子どもたちの「生きる力」の育成のために、子どもたちへの公的なアート事業の充足が、より真剣に、広く考えられることを期待します。

読んだ方が、自分らしく生きる勇気を得られるよう、文章を書き続けます。 サポートいただければ、とても嬉しいです。 いただきましたサポートは、執筆活動、子どもたちへの芸術文化の機会提供、文化・環境保全の支援等に使わせていただきます。