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不登校:「行く-行かない」から脱する、はじめの一歩〜予兆期について〜

マガジンシリーズ【不登校の回復までの4つの段階と道のり~子どものカウンセリングと保護者相談から見えてきたこと】を書いています。

この記事は3作目です。以下を書いていきます。1作目や2作目はマガジン内にあります。


はじめに

 不登校の状態というのは一様ではなく、ひとり一人の歩んでいく道は十人十色です。しかも回復とは何を指すのか、皆さんそれぞれ違います。ただ、出口の見えない森の中に何もない状態で入っていくのは不安になりますね。ゴールや目的地が描かれている地図があるならば、少しは気持ちが楽になるものです。

 そこで、みんなそれぞれ道のりは違うということと、直線的な道ではなく行きつ戻りつであることを前提にしながらも、先を見通せる地図を持っておくことは助けになると考えました。

 ここでは地図のようなものとして、一般的に言われている不登校の段階の名前や内容に、これまでお会いしてきた子どもたちや親御さんたちの様子など経験からくるものを加えて、まとめてみました。それを『不登校の道のり〜回復までの4つの段階』と名前をつけてお渡ししていきます。参考になれば嬉しいです。

「子どもの状態」 「その時、家族は?」 「各時期ごとのポイント」一覧を、それぞれの時期ごとに色付きの画像で載せていきますので、整理する時などにお使いください。

不登校の道のり〜回復までの4つの段階

▼① 予兆期

不調のサインが見られる予兆期。

からだの症状の訴え・生活習慣の乱れ・集中や注意力が落ちる、などです。

なんだかおかしいなと早い時期で気付く場合もあれば、全く気づかない場合もあり、家庭の状況や子どもにもよります。

この時、学校に強く押し出した方がいいのか、それとも無理に行かなくてもいいよと接したほうが良いのか、迷う時期でもあります。

発熱などの病気以外で理由もなく学校を休み始めた時、身体の検査をしても特に異常が見られない時、どうしたのだろうかと思いますね。環境と合わないのだろうかとか、精神的なことが原因なのではと考えると思います。

「原因探しはしない方がいい」「無理矢理、学校に行かせない方がいい」そのような情報が入ってきますが、実際に我が子が不登校になっていく状態では、「そうか。休みたいのね。わかったよ」とすぐに受け入れることは難しいことです。

親にも、現状を受け入れるための段階があるということです。

子どもの不登校の予兆期に、親側に起こる心の反応は、「どうして?まさか、きっと違う。どうしよう。何が悪かったんだろう・・・」焦りやイライラなどです。

「今後、一切、登校は無理なの?」「いや、大丈夫」と自問自答したり、また、「一度、許してしまって甘えを受けれてしまったら、このままずっと行けなくなるのではないか」と不安が湧いてきたりもあると思います。


「行くー行かない」という二者択一から抜け出す

行くか、行かないかという、白か黒かという考えから少し抜け出していくために、行くことが○、行かないことが✖️という考えを一旦、脇に置いてみましょう。

そして、本人に、何をしている時が気分がよいのか、どんなことが好きなのか、少しでも気分が楽になるような会話から始めると心を開いてくれやすくなります。学校のことについても触れても大丈夫な状態であれば、何の授業なら気が乗るのか、何かの行事ならOKなのかなども聞いてみるとよいかもしれません。

子どもにとってOKな話から始める、ということです。

そして、子どもの様子を見ると、どんな話になると顔が曇るか、塞いでいくかなどがよくわかります。

あまり負荷がかかりそうな話題は、あえて触れず、話すタイミングを見ていくのが大切です。焦って「嫌なことはなんなの?何が原因なの?」と聞き出したくなるのですが、話し合えるような状況ではないお子さんの場合、

まずは元気になるような話題や活動でエネルギーチャージをすること、誰か話せる大人(親でも、親以外でも)との信頼関係をより深めていくこと、それが遠回りなようで、一番の近道です。

子どもの特性によって受けるダメージ

知能検査(WISCなど、いくつかの発達の凸凹についてを知るための検査)などを取ると、かなり学習についてくのが大変だったことがわかったり、凸凹が大きく、得意と苦手のギャップが本人を苦しくさせていることがわかったりします。

それくらい我慢すればいいじゃないかと思えるようなことでも、子どもにとってはかなりダメージを受けていることがあるのですね。

みんなが当たり前にできていることに、

「無理やり合わせなさい!」「合わせられないあなたがダメ!」と続けていくと、心が潰れていってしまったり、からだの不調が悪化していく可能性があります。

そうならないように、あなたを理解したいよという姿勢を持つこと、発達の特性はあるのかどうか客観視すること、そしてどんなストレス解消法があるかなどを考えていきたいところです。

心の風邪と怪我の違い

 頑張ってきた心は時に風邪をひきます。疲れてしまった、元気がなくなって体調がすぐれない、などです。この場合、休息をとって、エネルギーが充電されたら回復して登校を始めることが多くあります。つまり、心の風邪は養生していたら治るということです。

そして、注意しなければならないのは、心は怪我もするということです。

心の風邪と怪我違いは、何でしょうか?

怪我の場合は、心の傷つき体験なので、回復したように見えても、環境に対する怖さが残ります。あの場所で怪我をしたから近づきたくない、というような具合にです。

休んでも回復して行かない場合、心の風邪ではなく心が怪我を負っている可能性があります。周囲から見たら、もう治っているんだから大丈夫でしょと言いたくなるかもしれませんが、そうはいかないのが心の怪我の場合なのです。

恐怖感や不安感が強くなっている状態で、これ以上、傷が深くならないためにその場所から逃げるという、自然な自分を守っている反応でもあるのです。

『逃げる』のは悪いこと?

逃げるのは悪いこと、わがままと思われていますが、カウンセリングの世界では『逃げる力がある』と捉えられます。

よくぞ、逃げましたね。

と言うことです。

実際に、ASD(自閉スペクトラム症)の疑いと言われ、空気が読めないけれど、人一倍繊細の子が、”集団で前へならえ”の毎日を過ごすことは、本当にしんどいことです。環境に耐えて、耐えて、耐えて、精神を壊してしまう可能性、いじめのトラウマが積み重なって感覚が麻痺していく、命まで危うくなってくる・・・そんなことも実際に起きることもあります。

人一倍エネルギーを使うわけですから、みんなにしたら当たり前のことが、その消耗はかなりきついものです。命まで危うくなってまで学校に固執するよりも、その環境から身を引くことは、本当に大切なことなのです。

厳しい社会環境の中では、いじめてくる子もいます。そんな環境から身を守るために逃げて、何が悪いのでしょう。

自分が壊れる前に、間引いて学校に行く時間や日にちを調整できると言うのは、実は力がある証拠なのです。中には、かなりストレスを抱えていて、これ以上ストレスがかかって潰れてしまわないように、調整するためのエスケープをする子もいます。家を出たのに、どこかで時間を潰して学校には行かない、というような場合です。


お正月、彦にゃんに会いました。


何番目のストレス対処法を使ってる?

ストレスを受けた時に、私たちは3つのF(エフ)で対応すると言われています。3つのF(エフ)と言うのは、fight・flight・freezeの頭文字をとって3F戦うか逃げるか、凍りつくかと言う=自分を調整する力がある証拠でもあります。

戦う(Fight)
逃げる(Flight)
凍りつく(Freeze)


逃げるのなんて良くないこと、と大人は思うのですが
逃げるというのは技というか、真っ当なストレス回避方法とも言えます。

最も深刻な状態が、凍りついているような状態で、そこから徐々に上の段のFになっていけるよう、まずは元気を貯めることです。そのために、

【苦手なこと、嫌いなこと】<【得意なこと、好きなこと】になっていくように工夫をしていきます。

苦手なことや嫌いなことというのは、得意なことと、好きなことで元気を溜めてからではないと、やってみようという気持ちにはならない、それは大人でも同じですね。

環境調整とスケジュール調整

この時期ではまず、休息を取って、風邪なのかどんな怪我なのかを見守りましょう。原因を問い詰められたり、何があったのかを聞き出そうとすると、この急性ストレス反応のような状態では、さらに口を閉ざすことになります。無理矢理に聞き出すことはせず、様子を見守るということがポイントで、もし子どもの方から話をしてきたら共感的に話を聞いて、環境調整やスケジュール調整をして生活の中に余白を持つように心がけます。

具体的には、こんなことを振り返ってみるとよいです。

忙しすぎないか?
学習につまずいて強い拒否感になっている?
友達関係で傷つきやコミュニケーションのつまずきがないだろうか?
周囲に気遣いすぎて疲れている?
家庭環境などで疲弊する原因になっていることはないだろうか?

そんな心配がよぎる場合、思い当たることがあればその環境を調整していくために周囲に協力を求めましょう。または危険と思われる場所から避難をして、安心して安全な環境で休むことを第一に過ごします。

では、この時期『予兆期』のまとめです。


一点だけ、例外について

を、追記でお話ししておきます。

早めにサインに気づいて、気持ちを察していくことが大切なのですが、実は、そうとは言えない場合があります。お子さんの不安に寄り添いすぎることが逆効果の場合もあるということです。

家から出ること自体が不安になっているお子さんと、外に出すことが不安になっている親御さんの組み合わせの場合などは、「行ってらっしゃい!」と潔く送り出したり、感情に焦点を当てすぎずにやるべき行動を促した方が、気持ちのスイッチが切り替わり、途端に元気になるなどもあります。

その判断を含めて、早めに担任に相談したり、カウンセラーや相談員に相談したりすることで、状況を客観的に見ることができるようになり、親御さん自身の不安を軽減していくことが結果的に子どもの不安軽減につながります。

書いている人=相山智美。公立の幼稚園〜中学校のスクールカウンセラーを20年以上担当。並行して教育相談員、子育て支援ワーカー、発達療育主任など務める、子ども専門の臨床心理士。公認心理師、トラウマの身体指向療法:S E®︎プラクティショナー2022年【一般社団法人この花舎】を立ち上げ、聴くだけではないカウンセリング、心と身体の関係を重視する身体指向性の心理学を取り入れた、保護者向け子育てプログラムや支援者育成にも力を入れている。


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一般社団法人この花舎
聴くだけではないカウンセリング、これから学ぶなら「からだの声を聴く心理学」がお勧めです。保護者向け子育てプログラムや子ども支援者研修・育成を行なっています。

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