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映画「ヘルドッグス」感想

 一言で、岡田准一さんらキャストのアクションの凄さに驚きます!バイオレンス描写多めですが、ノワールやブロマンスが好きな人は嵌るかもしれません。一方で、作劇の微妙さ・台詞の聴き取りにくさはありますが、全体的には見応えのある作品です。 

評価「C」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

 本作は、『関ヶ原』や『燃えよ剣』などの原田眞人監督と、岡田准一氏が3度目のタッグを組んだ警察・潜入捜査作品で、深町秋生氏の小説『ヘルドッグス』シリーズの第1作目、『ヘルドッグス 地獄の犬たち』のストーリーを基にしています。
 尚、本作の映倫レーティングは「PG12」となっており、バイオレンスシーンとやや下品な言葉が多い内容となっています。本感想でも、一部それらに値する言葉を使いますが、出来るだけ伏字を用いますので、ご理解宜しくお願いいたします。

・主なあらすじ

 かつて警察官だった出月梧郎は、管内で起きた強盗殺人事件によって、愛する人を喪いました。彼はそれを悔やみ、自ら犯人に復讐することを決意します。一人、また一人と実行に移し、遂に強盗殺人事件の首謀者であるマッド・ドックを闇に葬るも、警視庁組織犯罪対策部特別捜査官の阿内将に捕らえられます。出月の歪んだヒーロー願望と心の闇、狂犬ぶりを見抜いた阿内は、彼を関東最大の広域暴力団・東鞘会に潜入させます。
 兼高昭吾と名を変えた出月は、東鞘会七代目会長の十朱が率いる精鋭部隊「ヘル・ドッグス」の一員となり、「98%」の相性のバディとなった室岡秀喜とともに、東鞘会系神津組にて着々と力をつけていきますが…

・主な登場人物

・東鞘会系神津組

・兼高昭吾(かねたか しょうご) / 出月梧郎(いでづき ごろう)(演: 岡田准一)
 東鞘会の二次団体・神津組の若頭補佐。性格は真面目で、神津組に入ってまだ3年半ですが、汚れ仕事をこなしてスピード出世します。
 その正体は潜入捜査官で、本名は出月梧郎。警視庁組織犯罪対策部特別捜査隊所属で、やくざ撲滅のために暗躍します。一方で、交番勤務時代に遭遇した「事件」に向き合うために、「贖罪」を続けます。

・室岡秀喜(むろおか ひでき)(演: 坂口健太郎)
 神津組の組員で兼高の弟分。過去に父から虐待や人体実験を受けたことで、精神は壊れ、どんな状況下でも食欲旺盛な身体になりました。(作中では、タ○無しとの発言あり。)
 任務では、どんな状況でも常に「笑顔」で、サイコなキャラです。兼高を慕い、「98%」の相性のバディとして、任務をこなしますが、その正体には気づいていません。

・土岐勉(とき つとむ)(演: 北村一輝)
 神津組三代目組長(神津組の現トップ)で東鞘会執行委員。兼高と室岡のボスで、人情に厚い性格です。熊沢、大前田と共に「三羽ガラス」と呼ばれ、十朱を支えます。

・三國俊也(みくに としや)映画版では三神國也(みかみ くにや)(演: 金田哲)
 神津組の若頭(神津組ナンバー2)。東鞘会の三次団体・三神組の組長。格闘は苦手な経済ヤクザで、表向きはIT会社の社長。どんどん出世する兼高に対して、激しく嫉妬します。 

・吉佐恵美裏(きさ えみり)(演: 松岡茉優)
 土岐の愛人ながら、兼高とも関係を持つ、肝の座った極道の女。何故かアフリカゾウの象牙に興味を持っています。

・東鞘会系熊沢組

・熊沢伸雄(くまざわ のぶお)(演: 吉原光夫)
 東鞘会の二次団体・熊沢組の組長で、東鞘会会長秘書。「三羽ガラス」の一人。

・大前田忠治(おおまえだ ちゅうじ)(演: 大場泰正)
 鞘盛産業の社長。東鞘会理事長(東鞘会ナンバー2)。「三羽ガラス」の一人。肝炎と胃癌を患い、闘病生活を送っています。以前の抗争で鼻を噛みちぎられ、顔に鮫のノーズガードを装着しています。

・東鞘会&その他

・十朱義孝(とあけ よしたか)(演: MIYAVI)
 東鞘会七代目会長(東鞘会の現トップ)で、神津組二代目組長。約4年前、東鞘会と和鞘連合の抗争終結宣言を出し、会長に就任しました。兼高のターゲットで、警察の秘密ファイルを隠し持っています。

・ルカ(演: 中島亜梨沙)

 東鞘会に差し向けられたスパイの女。新人ホステスとして潜入し、十朱の暗殺を試みます。接近戦が得意で、軽々とした身のこなしで、兼高と戦いますが、力の差で屈服させられます。アジトにて拷問を受けますが、口が固く、情報は漏らしませんでした。

・警察&その他

・阿内将(あない まさる)(演: 酒向芳)
 兼高の上司で、組織犯罪対策部特別捜査隊の隊長。東鞘会に潜入した兼高と定期的に連絡を取り合います。

・衣笠典子(きぬがさ のりこ)(演: 大竹しのぶ)
 「池の端リラクゼーションサロン」のセラピスト・マッサージ師で、多くのヤクザを顧客に持ちます。しかし、その正体は阿内のエス(内通者)で、息子を曳舟連合の組員に殺された恨みから、阿内にヤクザから得た情報を流しています。

1. とにかく展開が速く、スピード感が半端ない。

 本作も、前作の『燃えよ剣』に引き続き、とにかく展開が速く、スピード感が半端なかったです。
 まず、主人公兼高がスピード出世していく過程を見ていると、まるで彼が生き急いでいるように思えました。
 展開も、10分おきくらいに目まぐるしく変わり、常に誰かと誰かが理由をつけて戦うので、どちらが生き残るのか予想がつかず、終始ハラハラドキドキしていました。

2. アクションは凄いし、俳優の新たな面を引き出している。

 本作、とにかく俳優さんのアクションが凄すぎて、息を止めてしまうほど、見入っていました。
 岡田さんはさることながら、坂口さん・MIYAVIさん・吉原さんなども、ガシガシ動いており、今までのイメージとはまた「違った」一面を見ることができました。序盤の兼高と室岡なんて、普通にトレーニングしているみたいでした。普段の積み重ねがあるから、いざというときもしっかり動けることを裏付けるシーンでした。
 特にルカ役の中島亜梨沙さんがMVPですね。アクション未経験だとは全く思えない程の身のこなしで、元タカラジェンヌ娘役のイメージを革新しててビックリしました!御本人のTwitterでは、実際の稽古の様子をアップされていましたが、その時点で「暗殺者キャラ」が完成されていました。
 きっと、他の俳優さん達も、皆「岡田道場」に入門されたんですかね?(岡田さんは、カリ・ジークンドー・USA修斗の師範資格をお持ちです。)
 ちなみに、エンドロールで、アクション指導に岡田さんの名前があり、妙に納得しました。
 もう、岡田さんには、トム・クルーズみたいなアクション俳優になってほしいですね!いつか共演してほしい。

 一方で、俳優さんが凄いとは言えど、やはりバイオレンスシーンはキツかったですね。痛そうを超えて生死が心配になりました。少なからず、好きなシーンではないですね。
 ちなみに、岡田さんは小柄なので、他の俳優さん達(坂口さん・MIYAVIさん・吉原さん・金田さんら)と並ぶと、見事に「身長差萌え」になっていました。ここは、『燃えよ剣』時の鈴木亮平さんとの2ショットでもそうでしたが。それでも、ズッシリとした体幹の強さは感じられましたね。

 後は、吉原光夫さんの美声が響いていました。原作の熊沢は特に美声設定はないようですが、ここは監督の裁量ですかね?『美女と野獣』・『ピノキオ』・『エール』に続き、このファンサービスは嬉しかったです!だから、作中にて「途中退場」になったときは悲しくなりました。しかも、ウ○コとオ○ラネタを何度も連発するので、その度に草が生えました(笑)。

3. 相変わらず、BGMには拘りがある。

 本作も、『関ヶ原』や『燃えよ剣』と同じく、BGMにクラシック音楽やなど、様々なジャンルを使っており、監督の拘りを感じました。また、バイオレンスシーンに敢えて緩やかな音楽を流して状況のギャップを出す工夫もなされていました。※人によっては、音楽がミスマッチとの意見もあるかと思いますが、私としてはこれはこれで悪くないです。

4. キャラの関係性に「ブロマンス」が滲み出ている。

 監督曰く、本作ではとにかく男同士の三角関係(ブロマンス)を意識されたそうです。兼高×室岡、兼高×土岐、兼高×三神、兼高×熊沢、兼高×十朱と、ある意味「兼高総攻め、でもリバの関係(兼高総受け)もアリ」みたいな状況になっていました。もっと具体的な言葉にするなら、「戦い愛」みたいな感じでしょうか?
 そして、ノマカプは土岐×恵美裏→兼高×恵美裏ですね。彼女は、土岐と繋がりを持ちながらも、最後は兼高の男になります。組織でのし上がっていくのは、彼女も同じでしたね。欲を言えば、恵美裏のバックグラウンドをもっと掘り下げて、2カプのラブシーンをガッツリ入れた方が、そこに説得力が増したかなと思います。(多少の絡みはありましたが、もっと恵美裏が色気を出しても良かったかもしれません。)

5. 本作は、フィルム・ノワールを意識した作品である。

 パンフレットより、本作は「日本的フィルム・ノワール」を目指した作品であるとの記載がありました。

 「フィルム・ノワール」は、虚無的・悲観的・退廃的な犯罪映画の総称で、一般に1940年代から1950年代後半にハリウッドでさかんに作られた犯罪映画のジャンルです。
 アメリカ社会の殺伐とした都市風景やシニカルな男性の主人公、その周囲に現れる謎めいた女性の登場人物(ファム・ファタール)などを主な物語上の特徴とし、第二次大戦前後のアメリカ映画を分析したフランスの批評家によって命名されました。
 映像面では照明のコントラストを強くしたシャープなモノクロ画面や、スタイリッシュな構図が作品の緊張感を強調するために多用されます。
 こうした物語・映像表現上の特徴を受けついでヨーロッパや香港など世界各地で制作された映画を指して、「ネオ・ノワール」などと呼ぶこともあります。(Wikipediaページより)

 実は、私は画面が全体的に「暗い」と思っていましたが、このような手法によって、日本社会の闇を深く描こうとする工夫がなされていたのだと知りました。加えて、本作は、フィルム・ノワールの特徴である、「シニカルな男性の主人公」=「兼高」、「謎めいた女性」=「恵美裏」の構図にも当てはまっていますね。

6. 作劇は微妙で、シーンの繋ぎが不明な点あり。

 一方で、本作も今までの監督作品と同じく、「繋ぎ」が上手くないのです。
 スピード感があって、目まぐるしく展開するのは良いのですが、作中にて各々の関係性が殆ど説明されておらず、前後の繋がりがぶつ切りになっているせいで、どのシーンがどこに繋がっているのか、今誰と誰がどういう関係なのか、非常にわかりづらかったです。正直、何度も「これは誰の話?」と戸惑うことがありました。特にルカの出処と、恵美裏の象牙の件は唐突だったかな。
 また、俳優の人数が多くて、顔と名前を覚えるのが大変でした。とてもじゃないけど、観ている間には、相関図は書けないですね。

 もしかして、映画は「ダイジェスト」で、「詳しくは原作やパンフレット読んでねパターン」でしょうか?これはもう、原田監督作品との相性の問題なんですかね?

7. 台詞が長い&一部聞き取りづらい点あり。

 後は、一つ一つの台詞が長く、また早口で不明瞭に話すせいか、一部聞き取りづらい点はありました。ただでさえ作劇がわかりづらいのに、加えて何を話しているかもわかりづらいので、とにかく言葉を聞き取るのに必死になり、常に頭をフル回転させていました。だから、鑑賞後はかなり疲れてしまいました。

 個人的には滅茶苦茶嵌まった作品ではなかったですが、レビューサイトでは、原田監督作品の中では一番高評価のようなので、嵌る人には嵌る作品なのかもしれません。

出典:

・映画「ヘルドッグス」公式サイㇳhttps://www.helldogs.jp/

・小説「ヘルドッグス 地獄の犬たち」Wikipediaページ

・「フィルム・ノワール」Wikipediaページ
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB