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映画「スージーQ」感想

 一言で、女性ロック歌手のパイオニア、スージー・クアトロの半生を追ったドキュメンタリー映画です。ロックの一時代を築き上げたパワフルな歌声と格好良さの外面と、繊細な内面のギャップにやられました。

評価「B-」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

・主なあらすじ

  本作は、女性ロック歌手スージーQ(スージー・クアトロ)の半生をドキュメンタリー形式で辿る映画です。本人映像と関係者インタビュー(娘・息子・アーティストなど)を交えた内容となっています。

1. スージー・クアトロってどんな人?

  スージー・クアトロ(Suzi Quatro, 出生名:スーザン・ケイ・クアトロッチオ Susan Kay Quatrocchio, 1950年6月3日 - )は、アメリカ合衆国ミシガン州デトロイト出身の女性ロックミュージシャン・シンガーソングライター・ベーシスト・ラジオDJです。
 「クアトロッチオ」という苗字より、父親がイタリア系アメリカ人で、母親がハンガリー系アメリカ人です。音楽一家かつカトリック教徒の家庭で、幼少期から音楽の才能を発揮しました。10代の頃、「ビートルズ」のアメリカ上陸フィーバーに影響を受け、姉妹でガールズバンドを組み、ベーシストとして、地元デトロイトを拠点にアメリカ各地をツアーで回っていました。
 やがて、音楽プロデューサーのミッキー・モストによって高い評価を受け、1971年末に彼を頼って、単身渡英します。
 最初はフォークソング調のファーストシングル「Rolling Stone」を発表するも、今一つ売れなかったので、ハードロック路線に大胆にイメージチェンジしました。
 彼女は、身長152cmというアメリカ人女性ではかなり小柄な体格で、童顔な見た目でしたが、それと相反して、パワフルな歌声にレザースーツといった「当時一般的だったガールズバンドとは一線を画す」スタイルが大ブレイクし、セカンドシングルの「キャン・ザ・キャン」は、イギリスを含むヨーロッパ及びオーストラリアでナンバーワン・ヒットを記録しました。
 続いてリリースされた「48クラッシュ」(1973年、UKチャート3位)、「デイトナ・デモン」(1973年、UKチャート14位)も大ヒットし、この年のイギリスBest Selling Artist/Female/Singleにて第1位となりました。
 1980年代に入ると女優業にも本格進出し、主にテレビドラマやミュージカルの分野で活躍しました。代表作には、テレビドラマ「ハッピーデイズ」のレザー・トスカデロ役や、ミュージカル「アニーよ銃をとれ」のアニー・オークレイ役などがあります。
 尚、本作では触れられていませんが、1987年、日本のロックバンドBOØWYのシングル曲「Marionette」のB面曲として「THE WILD ONE」を、BOØWYのボーカリスト氷室京介氏とデュエットしています。※これは同時レコーディングではなく、日本で録音したオケをイギリスに送りクアトロに歌わせ、その後日本に送り返しミキシングするという手法で制作しました。
 2010-2011年には、かつて姉たちと共に率いていたガールズバンドの「プレジャー・シーカーズ」や「クレイドル」のコンピレーションをリリースしました。
 2022年現在でも、現役のミュージシャンとして活躍しており、総売上は5,500万枚以上と言われています。

 本作では、アリス・クーパー、シェリー・カーリー、キャシー・ヴァレンタイン、ジョーン・ジェット、デボラ・ハリー、ドニータ・スパークスなど、彼女と同世代で活躍したロック歌手がインタビュイーとして出演しています。それにしても、彼らのファンキーなメイクとタトゥーが凄すぎて、驚きました。

 ちなみに、スージー・クアトロは、荒木飛呂彦先生の漫画「ジョジョの奇妙な冒険」第2部「戦闘潮流」のヒロイン「スージーQ」の元ネタとなっています。
 私は、彼女については、漫画で名前を知っているくらいで、曲や半生については無知でしたが、観てよかった作品でした。

2. その類まれなるカリスマ性から、時代を象徴する「アイコン」に。

 スージー・クアトロは、上記よりその類まれなるカリスマ性から、時代を象徴する「アイコン」になりました。
 まず、女性達が髪型やファッションを真似したり、彼女に続いてロック音楽に進出するソロ歌手やガールズバンドが増えたり、一時代を築き上げた存在となっています。
 また、彼女がブレイクした1960〜1970年代は、「ウーマンリブ」を始めとする女性解放運動が盛んになっており、彼女をその「アイコン」にしようとする動きもありました。
 しかし彼女は、それにそのまま乗っかるのではなく、フェミニンではない、「性」を超えた存在になることを望んだのです。

 時代の「アイコンになる」という意味では、オードリー・ヘプバーンやトーベ・ヤンソンと似たところはあるかなと思います。
 前者とはイメージはまるで異なりますし、後者とは活躍したジャンルは違いますが、今までに無かった独自路線を切り拓いたところは似ているかなと思います。

3. ロック音楽のベースは軽快で、リズムにノリノリになった!

 正直な話、本作については、映画「オードリー・ヘプバーン」と同じく、前半はスローテンポ故に乗り切れず、若干眠くなってしまいましたが、後半のロック音楽のノリの良さや、彼女の生き様に触れたとき、シャキッとなりました。※ドキュメンタリー映画が苦手な訳ではありませんので、あしからず。
 ロックな楽曲はテンポに乗りやすく、思わず手拍子をしたくなるほどでした。
 ちなみに、彼女はベースはピックは使わずに弾いていたそうですが、それでいてあそこまでの指さばきは凄いです!

4. 外見はロックだけど、内面は真面目で繊細な人である。

 このようにスージー・クアトロは、外見はとてもロックな人でしたが、内面は真面目で、破天荒な生活は好みませんでした。
 飲酒や喫煙はバリバリするけど、ドラッグやセックスには嵌まらない、仕事のオンをオフを大事にして、自分を律していらしたそうです。これは、彼女が厳格なカトリックの家庭で育った故かもしれません。
 だから、本作にアメリカのアーティストにありがちな「センセーショナルで波乱万丈人生」な内容を期待してはいけません。

 一方で、彼女は10代の若い頃から音楽の道を志したため、学校は中退し、学業や友達との生活よりも、音楽の仕事で成功することを選びました。
 やがて姉妹のバンドからも離れ、単身で渡英し、成功するまで帰らなかった意志の強さも見せます。
 しかし、そんな彼女が久しぶりに帰省したら、実家には自分の居場所が無くなっていて、姉妹とはギクシャクしてしてしまった時期がありました。
 ここで彼女は、「私は早く大人になりすぎた、近くにあったものを手放してしまった故の『寂しさ』があった」と話しています。

 このように、彼女は自分の決めた道を邁進する意志の強さは持ちつつも、一方で周りを振り返り、内省される繊細な性格の方だったのかもしれません。

5. 色んなアーティストから影響を受け、また影響を与えた存在である。

 彼女が女性ロックンロール歌手の草分け的存在になったきっかけの一つは、かの世界的ロック歌手の「エルヴィス・プレスリー」です。
 幼少期、周囲の女子がエルヴィスに「恋」する中、彼女は「恋」ではなく「彼になりたい」と決意し、ロックなベーシストの道を志します。
 ※ここは、映画「エルヴィス」との関連性がありました。先に観ておいて良かったです。

 また、彼女はディスコ音楽も手掛け、クラブに通う若者達からも絶大な支持を得ました。この辺は映画「サタデー・ナイト・フィーバー」を思い出します。 
 そして、彼女の活躍により、その後多くのガールズバンドや女性ロック歌手が世に輩出されました。

 このように、彼女は色んなアーティストから影響を受け、また影響を与えた存在となりました。
 だから、あのアーティストや作品と繋がっているんだ〜とわかったときの爽快感が半端なかったです。

6. アメリカでは「早すぎた」女性アーティストだった。

 ヨーロッパやオーストラリアでは売れっ子だったスージー・クアトロですが、意外にも祖国アメリカでは売れるのが遅かったです。
 アメリカでは、彼女のスーツスタイルのパフォーマンスがあまり受けず、思ったよりも売れませんでした。
 そこで彼女は、女優やラジオパーソナリティーなど、新たな仕事に挑戦します。
 そして、アメリカのテレビドラマ「ハッピーデイズ」のレザー・トスカデロ役で、元不良少女であるミュージシャンを演じ、知名度を上げて、売れるきっかけを掴みました。※尚、このシリーズは、1974〜1984年の10年間に渡って続く大ヒット作品になりました。

 ちなみに、彼女は何度も来日しており、何と日本酒「サケロック大関」のCMに出演していたのです。
 また、バンドメンバーのギタリストのレン・タッキーと結婚し、何と日本で和装・神前挙式を決行したのです!しかし、それには「とある真相」がありました(笑)※やはり、海外の方からすると、着物は「ゲイシャ」のイメージなんですね。
 何と、作中でこの話を語った方の苗字が「有働さん」でした。※アナウンサーの方との繋がりは不明です。
 その後、2人の子供に恵まれるも、夫とは離婚しました。やはり、スターの家庭の維持は難しいんですね…尚、現在は再婚されています。

 本作では触れられていませんが、彼女は女優シェリリン・フェンの叔母に当たります。

7. 自分と周りを愛し、己を貫く生き方に惚れる。

 彼女は、沢山の成功を手にしていますが、その反面手放してしまったものも多かったと語っています。
 また、祖国アメリカで売れたのは遅く、「アメリカで売れるには、世に出るのが早すぎた」と言われる程でした。
 それでも、彼女が道を外さなかったのは、「厳格な家庭の育ち」と、「音楽への並々ならぬ情熱」、「圧倒的な自己肯定感の高さ」だったのではないかと思います。
 本作にて、彼女はこう言っています。「どんな人生でも、結局は自己愛。周りを愛し、愛されるには、まずは自分を愛さなくちゃね。」と。
 この自分と周りを愛し、己を貫く彼女の生き方には、思わず惚れました。

 最後に、彼女の生き様を見ていると、ジョジョの「スージーQ」ではあるけれど、同時に「リサリサ」だなとも思いました。

・映画「スージーQ」公式サイトhttps://ttcg.jp/movie/0842800.html

※ヘッダー画像は、公式サイトより引用。

・映画「スージーQ」公式パンフレット

・「スージー・クアトロ」Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%AD