【感想】 今年の GOTY 候補 Spellforce: Conquest of Eo を始めよう 【解説】
ファンタジー好きなら垂涎もの
どうも、Diablo 4 β の批評記事で自分のアンチが誕生する瞬間をコメント欄で目撃した僕です。
Atomic Heart の批評をプレステ版の発売にあわせて完成させるとか、イェスパー・ユール著『ハーフリアル』の続きを読むとか、4月に書きたい文章は色々とあったのですが、あるゲームに熱中しすぎたせいで総崩れしてしまいました。すべてはオーストリアの Owned by Gravity が開発した Spellforce: Conquest of Eo の責任です。自称「過集中系ゲーマー」だからしかたないネ。
この記事では、本作のメインシステムの紹介と解説をしていきます。
ゲームレビューを書いてもいいのですが、日本国内はおろか英語圏でもあまり情報が充実しておらず、僕自身120時間ほどプレイしてもまだデザインのコアを掴みきれていないので(執筆開始時)、あたまの整理もかねてまずはプレイングの敷居を下げることにいちばん書く意義があるかな、と。デスマス調をめずらしく使っているのもそのためです。
実際、本作のシステムは複雑ではないものの、ものの見事に無駄がなく、1度クリアしただけではその創発的なおもしろさを汲みきれない「神ゲー」です。ストラテジーというジャンルやリソース管理の要素はなにかとひとを選びますが、ファンタジー愛好家の方にはぜひお勧めしたいですね。
ちなみに、Spellforce は RPG と RTS を融合させた有名なファンタジーシリーズで、現在はおなじくオーストリアのパブリッシャーである THQ Nordic が所持しています。今回同シリーズのスピンオフを開発した Owned by Gravity の情報は少ないですが、Fantasy General 2 という作品ですでに相応の評価を得ているので実力派と考えてよいでしょう。
また、本作には残念ながら日本語翻訳が実装されていません。
ですが、XUnity Auto Translator を使うとかなり快適な日本語環境で遊べるようなのでその導入手順を詳述した方のページをリンクしておきます。
正味な話、年末のアワードやメディアの GOTY は「今年最も話題になったで賞」なので本作が獲ることはまずありません。ですが、私的 GOTY にははやくもノミネートされ、僕がめずらしく「推す」ほど良い作品なので PC ゲーマーでかつ頭を使うのが好きな方、ファンタジー愛好家の方はぜひチェックしてみてください。
僕自身は Spellforce シリーズはもちろん、ストラテジーもこれがはじめてだったので骨太でありながらプレイヤーの間口はじゅうぶん広い、はず!
たとえば、レーザービームを眼から撃つゴーレムにロマンを感じたり、
グリフォンをいちから育ててエース格にまで強化したり、
リッチで敵の死体からゾンビを一斉召喚して圧殺したりなど、
ハイファンタジーならではな戦術やユニットが好きなかたはハマること間違いなし!
どんなゲームと物語?
まず、Spellforce: Conquest of Eo には3つのシステムの柱があります。
プレイヤーのメイジとしての成長システム
アーキタイプごとにことなるクラフトシステム
位置操作ありのターン制の戦闘システム
もちろん、これらを維持&向上するための資源管理が基盤にあり、穀物と鉱物の2種類のクラフト資源、さらには Allfire と呼ばれる魔力の資源を確保することが本作の基礎であり物語の目的となっています。いずれもクラフトシステムや成長システムと結び付いているので説明はあとにしましょう。
世界観としては、メイジたちがきわめて大きな力を持ち、それを恐れ、ときに頼りながら、人間やエルフ、ドワーフ、オーク、デーモン、アンデッドをはじめ、さまざまな動物や魔法生物が争いあう世界 Eo が舞台です。プレイヤーはそのメイジのひとりから独立した弟子として、ある日、師から制御困難な Allfire をコントロールする方法をついに見つけたと手紙を貰うところからはじまります。
しかし、プレイヤーが師の塔に駆け付けるとそこには戦闘と略奪の痕が残されているだけでした。師の手紙に添えられたフルートからその場の記憶をたどり、のちに仲間としてくわわる兄弟弟子 Apprentice の話を聞くと、どうも、師の研究を危険視した評議会 Circle of Mage が襲撃したようです。
そして、師の遺志を継ぎ、接収された Allfire の研究と散逸した師の魔導書 Grimoire を集め、身の安全を守るためにおのれのメイジとしての実力を評議会に証明する冒険がはじまります。
課題構造として考えると、クエスト進行でも、資源の確保でも、部隊 Stack を操作しての戦闘が欠かせません。もちろん、選択肢によっては戦闘を回避し、アーキタイプやユニットの属性、魔導書の進行などで戦闘以外の解決法をとれることもありますが、外交などの要素はなく、あくまで戦闘ベースなことには注意が必要です。
特に、キャンペーンごとに設定される4人の競争相手のメイジは時間経過とともに友好度がさがるうえ、好戦的なメイジは序盤からこちらの資源を奪ったり拠点を襲撃したりとなかなか厄介な存在です。4人全員を倒す必要はないにせよ、敵の本拠地をこちらから潰して資源を奪うのはなかば必須の動きでしょう。
メインストーリーをある程度進めると、魔導書にこのような勝利条件のページが追加されます。
英雄のレベルを15に上げて物語を終わらせる
42個の呪文を収集して調査する
7つの都市から尊敬される
5つのランドマークを支配下に置く
5人の見習いを有する
評議会のメイジを全員倒す
ここまで辿りついたあなたなら、ゲームの流れもシステムもある程度理解できたはず。いくつかの勝利目標に的を絞るもよし、腰を据えて勢力を拡大させていくもよし、自分なりのプレイスタイルを見定めて評議会へのアセンションを目指しましょう。
メイジとしての成長システム
アーキタイプと魔導書
次に、キャンペーン開始前の設定画面から Spellforce: Conquest of Eo の成長システムを紹介します。
プレイヤーが最初に選ぶのはアーキタイプと出発地点のたった2つ、カスタマイズするならさらに魔導書 Grimoire のメインとサブの学派 School を追加した4つです。
アーキタイプには、ポーションを精製するアルケミストと、アンデッドのユニットを生成するネクロマンサー、ユニット強化のグリフと装備品を製作するアーティフィサーの3種類があり、大きな違いはそのクラフトシステムと専用のスペルページです。
ゲーム内の説明を引用しましょう。
アーキタイプの違いはクラフトシステムに関係し、同様の素材、同様のシステムを使いながらもまったくことなるプレイフィールを味わえます。詳細は次の章で解説しますが、クラフトの観点ではアルケミストがもっともベーシックでしょう。ポーションの精製は、召喚・回復・範囲攻撃を意識しておけば間違いはないですね。
ネクロマンサーとアーティフィサーはそれぞれユニットの作成と強化に関わるため、どういうユニットと強化がより効果的かを知っておくと序中盤の動きに無駄が生まれません。
また、プリセットとしてアーキタイプを選ぶと、魔導書のメインとサブの学派が自動で決まります。アルケミストは自然とエンチャントメント、ネクロマンサーはいずれも死、アーティフィサーはアースマスターとガーディアンです。もちろん、カスタマイズで好きなアーキタイプに好きな専門をふたつ組み合わせることもできます。
本作の呪文は戦略レベルでのユーティリティが主です。たとえば、部隊をテレポートさせたり、回復したり、ユニットの攻撃属性を変えたり、本拠地である魔術師の塔を浮かせて移動させたり。
ユニークなのは、ストーリーを進めることでメインとサブのスペルページを回収して魔導書を拡張できる一方、ほかの専門に関しては、街の友好度を上げて購入したり、ランダムエンカウントで適切な選択肢をとったり、評議会のメイジを倒したときや協力したときの報酬としても入手できること。ただし、それらはある程度ランダムで、スペルページのどの呪文からアンロックされるかもランダムなのが「ミソ」でしょう。
もっとも、魔導書の各学派のページにはゲーム性を一変させるほど強力でかつ便利な呪文が秘められています。街の友好度をマナで高めたり、資源を生成する森を作ったり、モブとしては最高のティア4ユニットを製作できたり。
最序盤からいかに魔導書を効率的に充実させるかが本作の攻略のカギとなります。
Allfire の配分バランス
ここで Allfire について説明しましょう。
Allfire という資源の確保が物語として重要なことはすでに述べましたが、戦略的にもきわめて重大な意味があります。というのも、毎日の収入としてこの Allfire をマナ・リサーチ(研究)・プロフィシェンシー(習熟)の3つへ好きな配分に変換して受けとれるからです。
マナはゴールドとおなじように比較的簡単に確保できますが、ゴーレムやアンデッドといった非生物のユニットの維持にくわえ、先程述べた呪文のキャストにも必要なのでゴールドとならぶもっとも基礎的な資源です。Allfire 以外の土地からの収入はだいたいが日数経過で消滅する一方、有用なユニットや呪文がふえるにつれて日々必要なマナはどんどんかさむので Allfire からの補充は欠かせません。
また、リサーチはアンロックした呪文を実際に使えるようにし、プロフィシェンシーはメイジとしてのレベルを上げることで自身の領土 Domain を拡げ、部隊 Stack のユニットと仲間にできる見習い Apprentice の枠をふやします。
しかも、土地から得られる資源としてはマナよりもリサーチの方が貴重であり、さらにはリサーチよりもプロフィシェンシーの方が貴重なため、Allfire はその確保だけでなく配分がきわめて重要です。特に、メイジレベルは10・25・50・100の到達でさまざまな恩恵があるので、序盤はメリハリのある思い切った分配が有効でしょう。
要するに Allfire から必要なマナの補充分を差し引いた量があなた自身の成長のリソースです。
そのため、ひとりめの競争相手をうち倒し、そのメイジが専有していた Allfire を奪うまでの序中盤にどれほど効率的にメイジレベルを上げ、魔導書を拡張し、有用な呪文を使えるようにしておけるかが腕の見せどころです。日数でいえば10週目を過ぎたあたりでしょうか。
まとめ
本作の成長システムの基盤にあるのはアーキタイプと魔導書です。
アーキタイプは、アルケミスト・ネクロマンサー・アーティフィサーから選択し、クラフトシステムと専用のスペルページに大きな違いをもたらします。魔導書は、プリセットを選ぶのでなければ、死・アースマスター・エンチャントメント・ガーディアン・メンタリズム・自然からメインとサブの学派を決め、クエストやイベントの報酬、ショップでの購入をとおして拡張していきます。
すでに述べたように、魔導書の呪文には便利なものからゲーム性を一変させるものまで揃い、ページの収集と呪文のアンロックにもある程度のランダム性が作用するところに本作のリプレイ性の高さがあるでしょう。
また、プレイヤーのメイジとしての成長のリソースは主に Allfire の変換収入です。リサーチはアンロックした呪文を使用可能にしてさらなる呪文のアンロックに繋げ、プロフィシェンシーはメイジレベルを上げることでさまざまな恩恵を得られます。
本作のストラテジーとしての面白さは、毎日のランニングコストとしてマナに補充するぶんを除いた Allfire をいかに効率的に配分し、メイジレベルを素早く上げ、より多くの呪文を使えるようにして魔導書を拡張できるかにあります。
根幹のクラフトシステム
アーキタイプごとの違い
次に Spellforce: Conquest of Eo のクラフトシステムを紹介しましょう。
下の画像を観てもらうとわかるとおり、本作のクラフトはいちばん左の特殊スロットと3つの素材スロット(専用のスペルページを完成させることで4つめをアンロック可能)を使用し、各エッセンスを3の倍数に組みあわせて作成します。エッセンスには、緑のライフ・紫のデス・橙のエレメンタル・青のアーケインがあり、ライフとデスはおたがいに打ち消します。
たとえば、ファイヤーゴーレムを戦闘中に召喚する強力なポーション Sealed Fire Golem はエレメンタル9とデス3で精製でき、
ネクロマンサーが作成できるもっともタンキーなアンデッド Haunted Armor はエレメンタル6とアーケイン3、
アーティフィサーが近接特化のユニットにいちばんもたせたいであろう最高級のグリフ Guardians はデス3とアーケイン3とエレメンタル3で製造できます。
と、基本システムは共通ですが、特殊スロットの仕様にはアーキタイプごとの違いがあります。
まず、アルケミストではこの特殊スロットは触媒 Catalyst 専用となりますが、触媒なしでもクラフトできるので、僕のプレイ環境では実質的な追加スロットとして機能します。英語の攻略記事ではこの触媒がないとクラフトできないとあったのでひょっとしたらリリース後に易化したかもしれません。
ただ、この触媒スロットにポーション水 Potent Water を使うと、精製時の使用エッセンスがそれぞれ1つ減る(つまり1つずつ多く要求される)代わりに2倍のポーションを入手できるのは覚えておいて損はないでしょう。
ネクロマンサーではこの特殊スロットはソウル専用になり、クラフトにはかならず必要な素体となります。
ユニークなのは、ソウルには3段階のティアがあり、作成可能なユニットのプールがことなるうえ、ティアごとのソウルの種類の違いでユニットへ付与する能力が変わることです。ライフの組みあわせは許されないので、たとえば「フェラル・レイジ(+10ダメージ)」を付与する強力な「ピュア・フェラル・ソウル」を素体にする場合、ソウル自体にライフ3のエッセンスがあるため通常のレシピにくわえて打ち消し用のデス3〜5が追加要求されることは要注意です。
アーティフィサーではこの特殊スロットが鉱石専用になります。
鉱石にもソウルと同様に種類があり、銅 Mountain Copper と鉄 Sky Iron と破損したアダマンチウム Corrupted Adamantium に アダマンチウム Adamantium の4種類です。この鉱石の違いでおなじ配合でも成果物は変わるのでレシピがほかより格段に多く、こまかいマネジメントが必要な反面、ていねいなユニット強化ができるのが特徴です。
僕個人の使用感としてはやはりアルケミストは縛りの少ないぶん「入門編」という印象ですね。そのぶん、プレイングにあたえる影響も大きくはないのでとりあえず本作の基本システムに慣れるのに向いているでしょう。
ネクロマンサーは僕がいちばん好きなアーキタイプです。ソウルのティアの違い、種類の違い、さらにはイベント報酬で獲得できるユニークソウルまであるので、ユニットをいちから愛をもって育てたいひと、何かのシナジーに特化した「最強の軍団」を作りたいひとに向いています。ネクロでプレイするならマップ中央南部の沼地 Dark Vale のメルデック城をはやめに攻略して支配下におくことをお勧めします。
アーティフィサーはすでに完成したユニットをさらに強化することに長けています。レベル15の成長キャップに到達したユニットもですが、ゴーレムやメデューサ、デーモン、ワイバーンなどの非成長ユニットも強化できるので「最強のユニット」を作りたいひとに向いています。もっとも、アーティフィサーの真価はアダマンチウム次第ですので、マップ中央北部の街 Silver Drift Hollow の友好度をはやめにあげることをお勧めします。
拠点の開発なくして勝利なし
もうひとつ、どのアーキタイプもおなじクラフトシステムを用いる重要な要素があります。それが、自身の拠点である魔術師塔の開発です。
画像からもわかるとおり、塔の開発スロットは横に3部屋、縦に5列あり、メイジレベルを上げる(1・10・25・50・100)ごとに1列ずつアンロックできます。最序盤から少なくともメイジレベル10、できれば25まで一気に上げたい理由のひとつがこれですね。
部屋自体はマナとゴールドで開発でき、その効果も日々の収入や塔で雇えるユニットのプールをふやすなどプレイングの基盤に関わるものです。たとえば、ゲーム開始直後から建設できる研究室 Study はリサーチ+5という優秀さで、最序盤からいくつか造ると魔導書の拡張がだいぶ楽になるでしょう。
もっとも、拠点開発の真骨頂は、メインクエストを進めるとこの部屋自体もクラフトで拡張できるようになることと、街の知名度を高め、各学派のスペルページを進めることでより強力な部屋の設計図をアンロックできることです。
たとえば、死のスペルページから得られる死者の井戸 Well of Shadows は、それじたいでプレイヤーの領土内の戦闘に「ダークネス」をエンチャントし、プレイヤーのユニットに死のダメージ+2を追加する破格の性能ですが、さらに3つの拡張スロットと5種類の拡張レシピが付いています。
このように、部屋の拡張はさらなる収入・戦術・ユニット強化を可能にし、プレイングの面白さを加速させます。マナの収支に不安があるなら「魔法陣」を、メイジとの戦闘を強化したいなら「死の光線」や「恐怖のワンド」を、非生物のユニットをメインに戦わせるなら「毒の泉」を、ユーティリティを上げたいなら「領域拡張器」を、といったふうに。
ここで思い出してほしいのが魔導書の拡張です。
魔導書は、最初にメインとサブの学派を決めて3ページ分を解放したあとは街やイベントの固定報酬以外はある程度ランダムな入手と考えられます。また、魔導書からどのスペルがリサーチによってアンロックされるかもランダムです。それはつまり、いつ、どの部屋の設計図を魔導書でアンロックできるかはコントロールしきれないことを意味します。
本作を中盤あたりまでプレイすると「もっと効率的なプレイングができたな」と反省するでしょう。それは、見過ごしがちなさまざまな要素がゲーム性を変えるほどのインパクトをもつからです。キャンペーンを終える頃には「これとこれを組み合わせるともっと面白いことができそうだな」と次のコンセプトが思い浮かぶしょう。けれども、その青写真をそうやすやすとは実現させてくれない手強さがあります。
本作のリプレイ性の高さの秘密はまさしく各要素のインパクトの大きさ、密接な噛み合い、そしてほどよいランダム性の採り入れなのです。
楽しい育成&戦闘システム
メイジの領土の役割
塔の開発により領土内の戦闘にさまざまなバフやデバフを与えられることを紹介しました。プレイヤーの領土とは、僕の知るかぎり、移動式の本拠地である塔の周囲、見習い Apprentice が設置できるロッヂの周囲、飛行船 Airship の隣接マスの3つです。
領土はプレイングの基盤を形成します。
ゴールド、マナ、リサーチ、プロフィシェンシーの収入にくわえ、建設現場 Construction Site は部屋のクラフトをより安く早くし、いくつかの建物は特定のユニットを塔で雇用できるようにします。勝利条件でもあるランドマークもおなじように領土内におくことで固有の効果を発揮します。たとえば幽霊船 Ghost Ship は亡霊戦士 Phantom Warrior を雇用可能にしたりなどですね。
また、領土内の戦闘はその所有者に有利なエンチャントを発生させます。とりわけ競争相手のメイジには固有のエンチャントがあるので戦力差や相性によってはしっかりした対策が必要になるでしょう。
自分の領土にさまざまなエンチャントをクラフトできることはある種の救済措置でもあります。事実、好戦的なメイジほど Allfire やロッジに部隊を送り込みんできますし、戦争状態になってしばらくすると、僕の難易度「バランス」ではティア4ユニットのタイタンまで投入した強力な部隊で本拠地を襲撃してきました。もちろんそれを一定期間撃退できなければ敗北です。
しかし、本作の面白いところは拠点と領土の移動がかなり自由であり、資源の枯渇からもそれが戦略的に推奨されていることです。ですから、メイジの領土に殴り込むという戦術的にはかなり不利な状況も、その土地を自分の領土にかさねて係争地にすることでおたがいのエンチャントが発生した戦闘に持ち込めます。具体的には、ロッジを前線基地として付近に建てる、飛行船で侵略する、自分の塔を着地させて全面戦争にはいるなどですね。
戦術的に最適なプレイングがファンタジーとしてそのまま「アツい」場面になるのは本作の大きな美点のひとつです。
戦闘のコツは「受け」
ファンタジーの面白さにふれたからにはその醍醐味である戦闘と育成にもふれましょう。実際、多様なユニットとランダム性のある育成要素はほかのシステムとあいまってユニークな中毒性を作りだしています。
本作の戦闘システムは、ヘキサタイルでアクションポイントを消費するタイプのターン制戦闘といえば慣れたひとならわかるでしょう。
ただ、このアクションポイントのシステムにはやや癖があります。
まず、各ユニットは3つのポイントを保有し、スキルやアイテムでターン中に回復できてもふやすことはできません。また、ほとんどの攻撃が残りのポイントをすべて消費してその回数分だけ攻撃し、反撃を誘発し、自分のターン終了後に回復する仕様です。
そのため、一般的なアクションポイント制の戦闘ではいかにポイントをちょろまかしてターンを渡さないかが鍵になりますが、本作ではいかに死なずに(あるいは失ってもいいユニットで)攻撃を受け切るかが肝になります。というのも、反撃にも機会攻撃にもポイントを消費するうえにその回復は相手のターン終了後ではなく、自分のターン終了後なため、手強い敵でも先に3回殴って反撃を誘発すれば実質的に1ターン無力化したことになるからです。
アクションポイントの回復は自分のターン開始時ではなく終了後であることを意識すると、さまざまな不利状況でもよりスマートな勝ち筋を見つけられるはずです。
もっとも、相手の攻撃を受け切ることが前提のデザインであり、相手も自分とおなじルールとユニットプールで戦うことから戦闘面はややマイルドな印象がぬぐえません。たとえば、僕が去年のベストゲームのひとつに挙げる King Arthur: Knight's Tale のような少人数パーティーによる XCOM ライクな殲滅戦の面白さはないでしょう。
むしろ、本作の戦闘は好きなユニットで部隊を組むロールプレイと、自分の思いどおりにはなるとはかぎらないランダムな育成システムのバランスにこそ面白さがあります。
多様で「不自由」な雇用
本作では、アーキタイプのフレーバーから、人間(アルケミスト)とアンデッド(ネクロマンサー)とドワーフ(アーティフィサー)がフィーチャーされています。
それぞれの種族には強力な近接ユニットも、キャヴァリエ(騎兵)も、アーチャーも、スペルキャスターもひと揃いある一方、ユニットプールにはゴーレムやデーモンやビーストやオークなどの種族も用意してあるのが嬉しいところ。僕の体感ではかならずしも多いといえないものの、2、3周しただけでは味わい尽くせない量でした。
というのも、本作はストラテジーであるためどこから出発してどのように開拓を進めるかでプレイ感が変わるからです。
興味深いのは雇用方法でしょう。
基本的なユニットは特定の建物を領土内にいれることで雇用可能になり、主要種族のユニットは対応した部屋の拡張で雇えるようになりますが、面白いのはそれ以外です。クエストやイベントの報酬、ランドマークの攻略、街の知名度上昇によるアンロックにくわえ、戦闘中に意志力 Willpower を減らした敵にあるスキルを使ったりすることで奴隷 Slave として仲間にできます。ただし、奴隷状態ではステータスにマイナス修正がはいりますが。
もちろん、ゲーム内の時間も重要なリソースなため、雇用したいユニットが決まっている場合にはある程度計画を立てたうえでないと行き当たりばったりになりがちです。
とりわけ、敵対的なユニットを仲間にする場合、意志力を下げること、奴隷にすること、奴隷から従者 Follower にしてデバフを外すことにはそれぞれことなる手段が必要です。しかも、アーキタイプによっては呪文のアンロックやグリフの入手といったランダム性が介在するのでかならずしも「敵ユニットを自由に捕獲する能力」を得られるとはかぎりません。
つまり、好きなユニットの雇用には、本作の要素やシステムを学ぶこととそれに基づいたキャンペーンの戦略計画が必要であり、しかもそれが想定通りにいくとはかぎらないところに中毒的な面白さが生まれています。
ランダム要素のある育成
おなじことはユニットの育成にもいえます。
本作にはスキルツリーがありません。
その代わり、レベルアップ時に一定のプールからスキルをふたつ抽選していずれかを選ぶ仕組みで、見習い Apprentice 以外のモブユニットは、レベル5、10、15でより強力なものを覚えます。おもしろいのは、このスキルがものによってはかなり強く、1体を育てただけでは目当てのスキルを引けないこともあるほど種類が多いことです。
つまり、どのユニットが強いのか、その真価を見極めるには1、2体を育てただけではわかりません。
たとえば、アーキタイプや出発点次第ではかなり序盤から入手できるエルフのレンジャー Elven Rangers というユニットはティア2ながら強力な性能をしています。というのも、エルフの弓術 Elven Archery を覚えると最大3体の任意の敵に矢を放つ技を使えるようになるからです。僕の知るかぎりほとんどのユニットは範囲攻撃でないと複数体にダメージを与えられないので、味方の攻撃で体力がミリ残しの敵を効率的に刈りとるフィニッシャーの役割をもたせられるのですね。
入手難易度の低さと安定感から僕はこのユニットを愛用してきましたが、アーティフィサーで雪山スタートしたときはしかたなくセントリーというクロスボウのティア3ユニットを使いはじめました。クロスボウはダメージが高く、アクションポイントをひとつしか消費しないので攻撃する前の移動量にダメージを左右されない強みがありますが、2ターンに1度しか攻撃できないというピーキーな性能をしています。
そのため、クロスボウはずっと避けていたのですが、2体目のセントリーがレベル10に達したときになんと改良クロスボウ Modified Crossbow というスキルを覚え、 いちいちリロードする必要がなくなり、1ターンに1度移動距離に関係なく大ダメージをあたえる遠距離砲に化けました。もっとも、結局改良クロスボウを覚えたのはこの1体だけでしたが。
このように、強力なスキルを覚えられるかどうかでユニットの性能と評価が一変することは本作ではよく起きます。
あらゆるゲームのビルドの面白さとは、スキルや呪文の組み合わせなどで DPS や CC の効果が一気に跳ねあがることで生まれます。アーキタイプや魔導書ですでに紹介したようにこのパワースパイクをもとめて「他にもなにかあるんじゃないか?」と試行錯誤させられるからですが、本作では同様のことがユニットでも味わえます。
もちろんそれは、ランダム性を飲み込めるならですけどね。
まとめ
ストラテジーとして本作の基盤にあるのはやはり領土の管理と拡張です。
毎日の収入もそうですが、領土内の戦闘にはそのメイジに有利なエンチャントが働くのでしっかり対策し、クラフトしたうえで、前線基地を立てる、飛空艇で侵略する、魔術師塔で殴りにいくなど「アツい」展開を演出すると有利な戦闘に持ちこめます。もちろん、拠点と領土の移動はふだんの収入に負担をかけるので戦略的観点と要相談ですが。
戦闘じたいはよくあるヘキサタイルでのターン制バトルといえます。慣れているひとなら、反撃や機会攻撃にもアクションポイントが消費されることと、ポイントの回復は自分のターンの開始時ではなく終了時であることの2点を押さえればスムーズに進められるでしょう。
本作の成長システムとならぶ魅力は幅広いユニットの雇用とランダムな育成です。
ユニットの種類と雇用方法はすでに述べたようにさまざまですが、いずれも一筋縄にはいかず、攻略にかける時間もまた重要な資源なので「自由」なプレイングはできません。だからこそ、各地の雇用可能なユニットとその方法を学び、自分のプレイスタイルにあった戦略計画を立てることに意味があり面白さがあります。
ユニットの成長にはスキルの抽選というランダム要素があります。魔導書の拡張と同様にここは好き嫌いがわかれますが、いくつかのスキルが戦闘にもたらすインパクトの大きさと絶妙に引けそうで引けないプールの広さの塩梅は僕はちょうど良く感じました。ユニットへの愛着をもちやすいゲーマーほど、個々の可能性の模索を刺激されて次のキャンペーンとあたらしい戦略計画へ誘われるでしょう。
創発的なゲームの面白さを味わう
いかがだったでしょうか。
本記事がより多くのファンタジー愛好家に届き、初見ではかなり歯応えのあるプレイングの手助けになることを願います。
完璧な作品ではないですが、システムの噛みあわせとランダム要素の採り入れかたが素晴らしく、ゲームの創発的なおもしろさの何たるかを味わえます。今後の DLC で大型のコンテンツアップデートがあれば画竜点睛で「神ゲー」になるでしょう。
もっとも、何度か強調しているように本作はランダム要素を飼い慣らすことがもとめられます。
そのため、すべてを思いどおりにコントロールしたいひとや、腰を据えてプレイし、さまざまなシステムや要素を学びながら新しい戦略計画をもとに試行錯誤できるほど時間に余裕がないひとは向いていないかもしれません。ゲームよりも物語への没入感をもとめるひともそうでしょう。
けれども、西洋のハイファンタジーの世界観が好きで、自分であれこれ組みあわせて面白さを発見したいタイプのゲー厶好きには Spellforce: Conquest of Eo が特別な作品になるはずです。
ファン待望の Age of Wonders 4 の発売当日という奇妙なタイミングですが、今年最も過小評価されているこの隠れた傑作が日本のユーザーに発見され、愛されることを祈ります。
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