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【レビュー】 Diablo Ⅳ は正直買ってほしくない 【感想】

約束された神ゲーβ批評


これはもうダメかもわからんね。

そもそも約1万円のフルプライスにバトルパスを組みあわせた価格システムはどうなんだ?おなじ仕組みでやれているのは Activision Blizzard の Call of Duty シリーズしか思い浮かばないんだが。おなじ会社なんだが。

それに CoD はいわば FPS の入門編という位置付けだけど Diablo はそうじゃない。アイソメトリックのアクション RPG というマイナージャンルで Diablo 新作を待ちわびたユーザーはひとつの RPG を数百時間、数千時間もプレイするコアなひとたちだ。季節物の CoD とはそもそもの客層の質と制作周期がちがう。

だいたい、Free to Play の価格システムで成功した Path of Exile を開発はどう受け止めたのか。パラゴン盤という PoE のパッシブスキルツリーを模したものを導入するらしいこともあり、今も人気の PoE と比較されるうえでこの強気な価格設定は致命的だと想像しなかったのか。あるいはたんにファンの足もとを見ただけか。

Diablo Ⅳ はひょっとしたらカジュアル向けのシンプルな作品かもしれない。今も根強い人気の DiabloⅡ ではなく、Blizzcon 2018 で発表直後「これは季節外れのエイプリルフールジョークですか?」と煽られた Diablo Immortal の系譜なんじゃ?原点回帰を表明した約束された神ゲーだったんじゃ?

今回のオープンベータをプレイした僕の印象がこれだった。

Diablo Ⅳ はアクション RPG に何の洞察もこだわりもない開発チームがマス向けに制作し、ブランドの話題性だけで初動からの逃げ切りを狙ったよくある AAA 級タイトルだ。プレイングの快適さを優先してプレイヤーの考える余地を排除したクリーンなゲームデザインにみえる。

幸か不幸か僕は Diablo ファンでもハクスラ好きでもない。せいぜい Diablo Ⅱ と Grim Dawn と Path of Exile を「かじった」程度だからさほど失望せずに済んだ。ガチガチのファンはベータ版をどう受け止めたのか気になるけども Diablo Ⅲ の失敗と変遷からいわゆる「面構えが違う」のかもしれない。

結論からいうと Diablo Ⅳ はおもしろい。

ただしそれは、ヴィジュアルワークやプレイヤーキャラクターの着せ替えによるもので、アクション RPG としてのゲーム性は褒められたものじゃない。リリース直後に30〜50時間程プレイして「おもしろかった、じゃあ、次のゲームにいこう」という楽しみ方だ。数百時間、数千時間もひとを虜にする深みや複雑さがあるとは思えず、コンテンツだけはやたら多いものの70ドル分の価値があるかはかなり疑問だ。

だから、本作にありがちなアクション RPG 以上のやり込みを期待するひとは購入前に少し考えた方がいい。Diablo の知名度とウェルメイドな完成度だけでもう絶賛する腹積もりのメディアライターや動画制作者も自分の胸にきいてみてほしい。

本当にこのゲームはおもしろかったか?

フルプライスにバトルパスという価格システムは妥当なのか?

ひとの好き嫌いはもちろん自由だ。しかし、コンテンツクリエイターはひとに毒を食わせる後押しも薬を飲ませる手助けもできるため、その評価、批評、レビュー、あるいは「推し」には責任がともなう。Diablo Ⅳ には絶賛ムードがはやくも漂っているがそれはどこまで作品分析を踏まえたものか。

それにしても、今秋製品版リリースを控える Baldur’s Gate 3 といい、古典的なアイソメトリック RPG の新作がマス向けにカットシーンを挿入してカジュアル化する流れはよくわからない。ファンが望んでいたのはそうじゃないだろ!


ふんだんなカットシーン

Diablo Ⅳ の問題


ベータ版からわかることはもちろん限られている。

レジェンダリーのドロップ率はベータ向けに調整されたものだし、課題構造としての戦闘の難易度や多様さは最序盤ではなんともいえない。だから本作の問題を基本的な部分にかぎって考えよう。

僕がはやばやと「これはマズいのでは?」とふるえたのは最初にステータス画面をひらいたときだ。(ネクロマンサーの場合)本作の基礎値には以下の4つがある。

  • 筋力:防御力が上昇する

  • 知力:スキルダメージが上昇する すべての属性に対する耐性が上昇する

  • 意志力:リソース生成量が増加 回復量が上昇する オーバーパワーダメージが上昇する

  • 敏捷性:クリティカルヒット率が上昇 攻撃回避率が上昇する

問題はこの基礎値がプレイヤーキャラクター(PC)のステータス以外の要素と結び付いていないことにある。わかりやすいのは装備の条件や重量制限などだ。レジェンダリーですら参照するのはキャラクターレベルだけ。ドロップのアイテムレベルはキャラクターレベルを参照しているので開発はトレード品での無双をなくしたいのだろう。

そのため、Diablo Ⅳ にはステータス振りが存在しない。レベルアップ時にはクラスに応じて基礎値も自動的にあがる。ステ振りに悩んだり、様子見でポイントを貯めてみたり、ユニーク装備の条件をわざわざ調べたりする必要もない。しかし、この素晴らしい快適さはプレイングのプログレッションが装備依存なことと表裏一体である。

ゲームを楽しむには成長や上達の実感が欠かせない。だから、ほとんどのゲームが過剰なまでに褒めたがるし、対人戦ゲームではチーターやスマーフやマッチングシステムがいつも論争の火種になる。

問題は Diablo Ⅳ ではプログレッションの「柱」が少なく嚙みあってもいないことだ。

つまり、本作のプレイングにもっとも大きなインパクトを与えるのはスキルの選択とレジェンダリー装備のシナジーで、それ自体は良いが、あまりに強力なためハンドスキルの上達に意味がなく、バラゴン盤を解放するまではキャラクターの成長もない。装備品のトレードも部分的に制限されているためクラフトに要する以上に資産を増やすこともあまり意味がない、だろう。

要約すると、いかにレジェンダリー武器をたくさん掘ってより理想的な状態にクラフトしてスキルを組み合わせるか、つまりは武器のプログレッションにプレイング全体のプログレッションが依存している目算が高い。そこでは、ハンドスキル、キャラクター(パラゴン盤の出来による)、資産(経済システムによる)のプログレッションの結び付きが欠けている。そのため、プレイングが単調で、プログレッションを実感しにくかったり飽きやすかったりする可能性がかなり高いのだ。

Diablo Ⅳ とおなじ MO/MMO ベースの Escape From Tarkov とくらべるとこのプログレッションの貧しさはあきらかだろう。キャラクター、装備、友好度、資産、ハンドスキルなどのプログレッションがうまく絡みあった稀有な例だ。

また、本作の基礎値がほかの要素と結び付いていない快適さは RPG のリアリティも犠牲にしている。そのため、プレイングのプログレッション(実質的には装備の更新)が着せ替え人形のコスプレになってしまっているのだ。

たとえば、両手持ちの武器をもとうと片手持ちの武器をもとうとそこに本質的な違いはない。だから筋力が低いネクロマンサーがグレートソードを抱えてスペルを撃つという奇妙な事態が生じている。また、おなじように軽そうな防具と重そうな防具にも違いはない。装備重量による変化などあるはずもなく、アイテムごとのサイズの違いによるインベントリ管理も消えている。

たかが PC の基礎値がほかの要素と切り離されているだけ。

しかし、たったそれだけのことがプログレッションを貧しくさせ、ビルドの奥行きをなくし、RPG のリアリティも失わせているといったら言い過ぎだろうか?

頼みの綱のスキルツリーも正直心許ない。

迷いようがないスキルツリー

一定のスキルポイントを費やしてクラスターを順次開放していく仕組みは単線的でカスタマイズ性が低いようにおもえた。Path of Exile のジェム方式はもちろん、Diablo Ⅱ のプレイヤーレベルに制限されながらもツリーの起点をある程度自由に選べる仕組みの方がよく出来ている。

というのも、この手のゲームではいかに無駄なリソースの消費をなくし、ひとつ、ふたつのスキルに特化させるかがビルドの胆だが、Diablo Ⅳ のスキルツリーからはどうしても余計なものも選ばされている感覚が拭えなかった。


オシャレ度の高い着せ替え

Diablo Ⅳ の達成


Diablo Ⅳ で徹底しているのはいかに選択肢を減らし、意思決定の機会をせばめ、ハクスラの爽快感をスムーズに体験させるかというシンプルさだ。

その意味で、マニア向けの高難易度アクションをベースに「救済措置」でプレイヤーの敷居を下げることに成功した Elden Ring とはちがう。難易度の問題ではなく、Diablo Ⅳ はより単純でカジュアルなデザインであり、残念ながら深みをもった想定客層のレンジの広さはないだろう。

メインストリーム向けの作品ではだれがどのようなプレイをしてもクリアできるデザインになりがちだが『エルデンリング』は違う。マニア向けの高難易度アクションがベースにあり、そこに NPC の召喚や遺灰による招霊、戦技システムなどでカジュアル層も楽しめるようにできている。素の難易度を楽しみたければ自主的に縛ればいいわけだ。

つまり、『エルデンリング』はマニア向けながらも世界観にマッチした「救済措置」を組み込むことで AAA 級タイトルとして成功した。

「エルデンリング以後」のゲームに何を夢見るか

個人的にもっともこたえたのは物語や世界観がインタラクティブでないことだ。

たとえば Diablo Ⅱ では PC のクラスに応じた会話が NPC に用意されていた。が、本作ではクラス固有の会話とおぼしきものがひとつも見当たらないのにはおどろいた。ネクロマンサーという嫌われがちなクラスにもかかわらず(まだ実装されていない、僕が見つけられなかった可能性もある)。

もっというと、サイドクエストの依頼を受けるか受けないかもなく、揉め事をどのような立場で解決するかの選択肢もないし、複数ある報酬から何かひとつを選ぶこともなかった。質問形式での会話の選択肢はあってもなんらかの決断を要する選択もない。プリメイドの主人公を操作するシネマティックな物語ならまだわかるが、PC のクリエイションとカスタマイズが前提の Diablo 4 ではさすがに物語の雲行きも怪しいといわざるをえない。

本作はその意味で Hogwarts Legacy とおなじ問題を抱えていると想像できる。

ひとことでいうと、ロールプレイ前提の着せ替え人形をなぜか映画の主人公に起用してしまったのだ。「ホグワーツライフ・シミュ」を実現するには素体に魂を吹き込む柔軟な物語とゲームデザインが必要なのにもかかわらず。

その奇妙なボタンのかけちがえは主人公のサイコな虐殺っぷりに顕著にあらわれている。古代魔術に目覚めた転入生が、無法者の野営地でひと狩りおえたあと「ランロクの従者がひとり減ったね」「動物が安心して眠れるようになった」とつぶやきながら次の目的地に向かうさまは恐怖を通り越してギャグであろう。

オタクを沼に沈めるデザインの功罪、『ホグワーツ・レガシー』批評的感想

世界観のテイストが真逆なためあのようなシュールさはないが、物語や世界観がプレイヤー主導でないことはゲームとしての面白さとリプレイ性を大きく損なっている。ロールプレイ前提の作品でその物語展開を自分のものと感じられないこと、ライブサービスを予定している作品ですでにリプレイ性の低さを予想させる要素が多いことはかなり致命的だ。

そして、20年以上前の Blizzard North に成しえたことができなくなっている、あるいは意図的に消した今の開発にいったい何を期待すべきか?

僕の考えだが、アイソメトリックやトップダウンのゲームの強みとは、厳密なアクション性、緻密なタクティクス、カスタマイズ性の高いビルドシステム、世界観や物語展開の柔軟さを煮詰めやすいことにある。つまり、AAA タイトルの主戦場であるサード/ファーストパーソンのゲームが没入感の高さを実現をするために犠牲にしたさまざまな要素だ。

Diablo Ⅳ が残念なのは、ハクスラのスタンダードを築いた歴史的神ゲーとして今も遊ばれている Diablo Ⅱ を祖にもち、Path of Exile などの精神的後継作もありながら没入感重視のよくあるマス向けタイトルになってしまったことだ。それも、祖の威光を借りた強気な価格システムをファンに吹っかけようとしているようにすらみえる。

つまり、今回のオープンベータでわかったのは、本作が大きな後退であり、形骸化であり、ドル箱狙いの集金装置だということだ。まあ、Diablo Ⅲ で見切りを付けた元ファンには当然かもしれないけども。


ヴィジュアルデザインは良い

何が書かれるべきか


Diablo Ⅳ を正直買ってほしくないというタイトルにはこういう気持ちが裏にある。

たしかに世界観や装備の着せ替えやスキルベースのアクションは楽しめるが、プログレッションが貧しいうえに RPG としてのリアリティも薄く、物語や世界観もインタラクティブではない。そのため、自分のビルドを追求し、自分の物語を味わうための土台(デザイン)が脆弱なせいで長時間のやり込みに耐えられるかはかなり疑わしい。もちろん、アイソメトリックやハクスラの入門編としては逆に良いかもしれなくはないかもしれない。

もちろん、そうはいってもあくまで限られた内容とプレイ時間のベータ版なのでここからはいれる保険もまだあるだろう。

ひょっとしたら着せ替え装備がめちゃくちゃ充実しているかもしれないし、シネマティックな物語として高く評価できるかもしれないし、Lv. 50 で解放されるパラゴン盤が神システムかもしれない。あるいは PvP がメインコンテンツになるほどおもしろい可能性もあるにはあるはずだ。

正直僕自身はなにも期待していないが、このゲームを買ってプレイすることからは逃げられない。今の雰囲気からすると Diablo Ⅳ は絶賛される流れにある。だとしたら、だれかひとりは面白くないと感じたものを面白くないとしてちゃんとした作品分析を世に残すべきだろう。

余談だが、僕自身は Diablo シリーズのファンではない。世間的にもあまり評判のよくない Diablo Ⅲ に言及できていないのはそのためだ。

少し調べたかぎり、本作のカジュアル路線はこの Diablo Ⅲ でのさまざまな議論とアップデートによるゲーム性の変遷が大きな影を落としているようにおもえた。もちろんそこには World of Warcraft の成功もあるし、Activision Blizzard の商業主義への路線変更も関わっている。Diablo Ⅳ の全貌はそうした通史的な視点でのみとらえられるだろう。

いつか日本語で読みたいのはそうした分析と批評と知識が噛みあった文章だ。ゲームメディアの褒めるだけの提灯記事やプレイフィールを書き連ねただけのレビューなど火にくべてしまえばいい。

このゲームは本当におもしろかったか?

強気な価格システムに見合うほどの深みを垣間見れたか?

僕はもちろん No である。

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