【徒然なるままに、千癒のこと】一瞬の物語/オリジナル短編小説

【はじめに】

この短編小説は、大学生の頃に書きました。

社会人になって、とあるコンテストに投稿し
『審査員特別推薦作品』という
少しだけ評価を貰えた物語です。

Wordで2ページ分の文章量ですが、
改行はnoteの携帯から閲覧向けに変えてます。
文章はそのままにしています。
ご興味ある方は読んでみてください。
少しでも世界観が伝われば、嬉しいです。

※タイトル絵はお借りしました。
ありがとうございます♪

【一瞬の物語】

学校からの帰り道。
いつもの電車に、いつものように
乗り込むために、ホームで電車を待つ。

携帯を弄りながら、
ふと視線を上げて周りを見渡すと、
そこに、同じように
電車を待っている男の子がいた。

私が知っているあの人とよく似た、男の子。
もちろん、そこにいるのはあの人ではない。
あの人は、この街にはいない。
それなのに、予感にも似た胸の高鳴りを感じる。

プァーンという音と、
駅員のアナウンスが入り、 電車が来た。
私はさりげなく彼と同じ車両に乗り込む。
彼は、少し間をあけて、 
私と同じ向きの椅子に座った。
まだ帰宅ラッシュ時間ではないから、
席は大分空いている。

私は鞄の中に仕舞っていた本を手に取り、
読んでいるフリをした。
私の正面には、 帰宅部なのだろうか、
女子高生達が楽しげに話をしている。
ひどく、ひどく五月蝿い。

各駅停車の電車は、 ゆっくりと進む。

彼は携帯を手に、
メールを打っているようだった。
私と彼の間には老婦人が静かに座っていて、
そのせいで彼の表情までは見えない。

この距離は、まるで、
私達を表しているみたいだ。

一駅一駅、 彼が降りるか心配で気にしていた。
私が降りる駅は、終着駅。
そこはこの街ではそれなりに栄えている場所で、若者が集まる場所。
地上を走っていた電車は地下へ入り、
ガラス越しに彼が見えた。
私が降りる一つ駅の前で、 彼が前を向き、
ガラス越しに目が合った気がした。

ああ、あなたも、気付いてくれている。

そして終着駅に着き、 彼は降りた。
やっぱりあなたは同じ場所で降りてくれた。
今日はどこに連れて行ってくれますか?
期待を胸に、後を追う。
彼は早足で歩いていく。
待って、 私はここにいるよ。
ねぇ、 蛍、 手を繋いで、 一緒に...


ふと、彼のジーンズのポケットを見ると、
見慣れないブランドのお財布が見えた。
手には、どこかで買い物をしたのだろう、
小さめの紙袋を持っている。

ああ、あれはあの人じゃない。
あの人はブランド物のお財布は持っていない。
あの人が買う洋服のショップは決まっている。
あんな紙袋じゃない。
それに、あの人は私が歩くのが遅いからと、
いつも笑って歩みを合わせてくれる あの人は、
一度も振り返らずに、
自分のペースで歩いたりしない。

あの人は... あの人なら・・・

その人は、地上へと続く階段を上っていった。
私はそちらへ行く用事はない。

気がつくと私は
他の人の歩行に邪魔な場所で一人佇んでおり。
いつの間にか様々な喧騒が聞こえてきていて、
ひどく混乱した。

先ほどまで物語の主人公だった私は、
人々の物語の風景に、 溶けてしまっていた。

【最後に】

この作品は、自分の経験を文章化しました。

書いた数年後に、
初めてコンテストに応募して
初めて少しだけ評価して貰えたという
淡くてあったかい想い出として
私の心の中にだけ、長らくしまっていました。

noteという場所なら公開していいかなと思い、
この度文章を引っ張り出してきました。


が、オットットくんに
コンテスト企画した会社名を見せたときに
『ここ、自費出版の会社だよ。たぶん、特別推薦って言いつつも、営業だよ。』
と言われました。

淡いアッタカイ想い出砕け散るオチも添えておきます。笑

まぁでも、
15年くらい前の文章だけど
自分の気持ちは表現できてるなと
自画自賛しておきます。♪


ここまで読んでくれてありがとうございました!
スキしてもらえると励みになります。
次回もよろしくお願いします。

稲葉千癒🍀

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