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Münchner Philharmoniker 26.02.23 コンサートの記録:ロレンツォ・ヴィオッティ指揮ミュンヘン・フィル(2月26日、ミュンヘン・イザールフィルハルモニー)、グスタフ・マーラー作曲《交響曲第6番〈悲劇的〉》

2月26日ミュンヘンのイザールフィルハルモニーでロレンツォ・ヴィオッティ指揮ミュンヘン・フィルのコンサートを聴きました。11時からのマチネーでした。
プログラムはマーラー《交響曲第6番〈悲劇的〉》。

この日の朝、雪が積もっていました。それほどの積雪ではありませんが、路面が凍っていて、滑りやすくなっていました。

ホールの横のレストラン「GAIA」が新しく山小屋風になって営業しています。

さて、この《交響曲第6番》の作曲年は1903〜1904年。
世界初演は1906年5月27日、エッセン。マーラー本人の指揮によるものでした。〈悲劇的〉という副題がついていますが、これは1907年1月4日のウィーン初演時のプログラムに掲載されました。マーラー本人はこれを承認したものの、印刷スコアには出ていません。

この日のプログラム。
表紙は第4楽章で使用されるハンマーです。

コンサート開始前。

マーラーは《大地の歌》と未完の《交響曲第10番》を併せると全部で11の交響曲を作曲しています。
《第6番》は、ちょうどその真ん中です。
そして2、3、4番と歌付きの交響曲を作曲した後の、歌のつかない5、6、7番の交響曲の真ん中でもあります。

マーラー解釈と指揮で有名な指揮者、故ガリー・ベルティーニは、オーケストラと初めてマーラー演奏に取り組む時、そしてマーラー・チクルスをする時はこの6番から始めていました。その理由を聞き逃してしまったのですが・・・

《6番》は旧来の交響曲の『4楽章構成』をとっています。
そしてイ短調で始まり、イ短調で終わる枠構造を持っています。
マーラーの交響曲入門としてはとっつきやすいかもしれません。

しかし・・・

長い。演奏には80分ほどかかります。
そして大編成です。世界初演時、エッセンのオーケストラだけでは足りず、エッセンから近いオランダのユトレヒトのオーケストラ団員をよび、総勢110人を確保したという事情があります。

また、通常、オーケストラでは使用しない打楽器があります。それは、
・カウベル
・グロッケン
・巨大なハンマー
です。

ここで余談です。
あるオーケストラがツアーでスイスでのコンサートを予定していました。そこではスイス人の作曲家に委嘱した作品の世界初演をすることになっていました。
カウベルを使うことは前もって知らされていたそうですが、スイスだからカウベルは簡単に入手できると思ったらしく、持参していないことがわかりました。
これが大きな間違い。
クラシックのコンサートで使うカウベルはその辺のカウベルとは違うんです。
そこでスイスのオーケストラに「カウベルを貸してください。ほら、マーラー《交響曲第6番》で使う、あれ」と頼んだことがあります。

さて、ハンマーです。
当初、マーラーは5回使用するつもりでしたが、3回になり、現在は2回使用するのが通常です。
マーラー夫人のアルマが3回拒否の理由を日記で述べていますが、論理が疑わしい。なお、音楽学的にはアルマ・マーラーの日記は信憑性に乏しいことも多い。

このハンマー演奏(叩き)がとてもむづかしいのです。両手で頭上に振り上げ、相当なスピードと力で叩かねばなりません。
私も録音では《第6番》にハンマーが使われることは知っていたのですが、実際に初めてコンサートで聴いた(見た)時には度肝を抜かれたものです。

このコンサートでは長髪の男性がハンマーを担当しました(下の写真で最後列の右)。彼の少し右側に横にした茶色の巨大なハンマーが見えます。
奏者の容貌からイエス・キリストがハンマーを振り上げているような想像をしてしまいました。

ハンマーは破壊の象徴です。
そしてハンマーが使われる第4楽章、オーケストラは凄まじいフーガに突入していきます。

ところで、フーガ、対位法は作曲上、とてつもなく厳しい規則なのですが、クラシック音楽ではカオスやカタルシスに使われることがよくあります。
例えば、ワーグナー作曲《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第二幕第7場、『喧騒フーガ』。ニュルンベルクの良き市民たちはちょっとしたことから殴り合いを始め、町中が巻き込まれ、大カオスに陥ります。

さて、80年代CDの普及もあり、マーラー作品の録音が増え、以前より楽に家で聴くことができるようになりました。

今、コンサートのストリーミングも増えました。

しかし音楽は演奏者と聴衆の共通空間を必要とするものです。

コンサートでは私の斜め前に6〜7歳くらいの女の子がいました。
ステージ上に見えないカウベルやグロッケンが聞こえてくると、周囲を見回し、最初のハンマーにはびっくりしたものの、2回目、奏者がハンマーに近づくと、そちらを凝視していました。

クラシックのコンサートで寝てしまう人もいます。
しかしマーラー《6番》で寝ることはできない。
うかうか寝ている間に世界は破滅してしまいます。

それに6〜7歳の子供でも寝ないで集中して聴いています。

《第6番》は悲劇的です。莫大なエネルギーで破滅に向かってまっしぐらに突き進んでいきます。

ぜひ、コンサート・ホールで聴いてください。


FOTO:©️Kishi

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