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中ジョッキアレイ #ポケットエッセイ VOL.9

「お前の代わりはいくらでもいるからな!!」プレッシャーをかけられる。
身を守るために仕事をブラックボックスにしてやり過ごす。

ひどい世の中だった。

10年以上のブランクを経て環境を変えて障害者雇用で働き始めた。

年の瀬にロッカールームで年配のYさんとIさんの会話を聞いた。

以前、同じ部署で働いていて、異動になって別々に、そしてまた異動で同じ部署で品質を管理することになった二人。

「またYさんとご一緒できてうれしいです。」とIさんが声をかける。
Yさんも「私もだよ。また一緒に働けると思わなかったもんね。」とさりげなく答える。

コツコツと信頼を深めていった二人の会話はどんな映画のワンシーンよりもかっこよかった。

この夏、商品の全数検査が行われることになり、人手不足から総務の事務員の私も臨時で品質管理の現場に駆り出された。

YさんとIさんとご一緒できる機会が巡ってきた。

ラインに入り流れ作業で検品された商品をがむしゃらに梱包する。

案の定、どんどん商品がたまっていき、どんくさい私は完全にボトルネックになってしまう。

すかさずみんなからフォローがあり助けられる。

ベストは尽くした。
ヘトヘトになった3日間だった。

みんなに「またよろしく頼むよ」と声をかけられる。
誰かに必要とされる喜びを噛みしめながら「勉強になりました。ありがとうございます。」とお礼をする。

フラフラになりながらいつもの中華屋さんに立ち寄る。

重労働で失った握力で握る中ジョッキは鉄アレイのようだった。

大好物の麻婆豆腐といっしょに流し込む。

心身に染み渡る。

品質の潤いは情緒によって養われることを学んだ最高の夏だった。

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