「演じること」を、私は手放す。
小さい頃から、「誰か」になることが好きだった。
だけどそれは、女の子が一通り経験するであろうおままごとの類や、アイドルや美少女に憧れるような変身願望、といえるほど、可愛らしいものではなかった。
「自分以外の誰か」になれるならなんだってよかった。
たとえそれが、
男だろうと老婆だろうと、動物や妖怪のような人外であっても、
「私じゃないなにか」になれるんだったら、
もう、なんだってよかった。
私はいつだって、
「私以外のなにか」になりたくて、
なりたくてなりたくて仕方がなかった。
生まれ変わるなら、とか、
生まれ変わったら、とか。
そんな悠長なことは言ってられない。
私は今生を、「自分以外」として生きていきたかった。
だから私は、東京に出てきた後、
それまで全くといっていいほど経験したことのなかった「芝居」という道に足を踏み入れたんだと思う。
元々は本当にひょんな事がキッカケとなって芝居を始めることになってしまったのだけど、今思えば、きっとそれも何かに導かれたんだろう。
それからは、芝居の世界、
もとい、「演じる」という行為に溺れていった。
こんなにも簡単に、「違う何か」になれる世界があったなんて…。
そしてそれを誰にも咎められることもなくて、
なんなら「凄いね」と褒められて、
更にはお金までもらえるなんて…‼︎‼︎
自己否定や劣等感が幼い頃から初期装備として備わっていた私は、「違うなにか」になっているときだけは、生きていても良いんだと思えるようになった。
そして "その瞬間"だけは、呼吸ができた。
だから、私にとって「演じる」ということは、
生きていく上で必要不可欠、なくてはならない行為だった。
だけど、そんな私に、
徐々に変化が現れた。
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