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ある日のガソリンスタンドで

仕事で車を使っているので、月に何度かガソリンスタンドへ給油しに行く。
店員が給油ついでに私の車をチェックし、時々ボンネットまで開けて不備がないか確認している。
その間、私は車の中から店員の動きをちらちらと観察している。車のことなど何も分からない女だと思われ何か買わされたりしないだろうか、とちょっと卑屈なことを思いながら。実際、私は車のことなど何も分からないのだけれど。

給油だけして一刻も早く家に帰りたいのに、何かを勧められると30分は待たなければならない。でも、オイルが汚れていて車体に良くない、タイヤに釘が刺さっているからこのままでは危ないなどと言われてしまったら、車から降りてよろしくお願いしますと全て委ねるしかない。

今日はクーラーのガスが半分に減ってるから補充した方がいいです、と言われた。
またか!と思ったが、仕方ないから待合室で待つことにした。殺風景でオイルの香りが微かにする部屋。
担当してくれた男の人は恐らく50代で、最初から腰が低く、申し訳なさそうに喋っていた。ガスの補充を勧めて来た時も、こちらでお待ちくださいと誘導する時も、作業終わりましたという時も、ずっと。何度か実際に申し訳ありませんとも言っていた。
これが彼の個性なのかしら、それともスタンドで働いてる間はお客さんの神経を荒立てず、下手に出る事で仕事をスムーズに進めようとしているのかしら?と思った。
もしそうだったとしたら、今まで横柄な態度のお客さんに沢山会ってきたのかも、それとも彼の心が弱いのか、など余計な事まで妄想し始めてしまった。
しかし、思い返せば、ガスが減っているので補充をと伝えられた時の私は
「え、またか、面倒だな」という気持ちがあからさまに顔に出ていて、
「分かりました、それじゃあお願いします。」の声は暗かった。

ただ単に、私がイライラした客に見えたからあの態度だったのだろうか。そう思ったら少し恥ずかしくなったので、お会計の時も申し訳なさそうに
「15,000円になります。」
と言った彼に対して、私はさっきより優しく
「はい、カードでお願いします。」と言い、払い終わったら
「ありがとうございました。」と丁寧に伝えた。
それでも彼の顔色や態度は全く変わることなく、最後の最後まで申し訳なさそうだった。
同じスタンドの中にはいつもにこにこ顔で気さくなおじさんがいる。
その人から以前タイヤ交換を明るく勧められた時、面倒臭いなと思いながらも、
えー!全部交換ですか!と私も明るくぶつぶつ文句を言った。
もし、あのにこにこおじさんが明るくガス減ってますよ!と補充を勧めてくれていたら、私も「えー!ガス高いですね!」とか明るく文句を言って待てたんじゃないか。
そう思うと、客に対して申し訳なさそうに下手に出る方法はベストじゃないのでは?とあの彼に伝えたくなった。
どんなやり方で世の中と向き合うのかを決めるのは自分だから、きっととんでもなく余計なお世話だろうけれど。

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