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新しい時代の意味を見た気がした

ある俳優さんの取材で、映画配給会社へ行った。
ロビーに集まったのは3つの雑誌からそれぞれ集まった編集者、ライター、カメラマンのチーム、合計9名。
30畳くらいある映画配給会社のエントランスを3人のカメラマンで場所分けし、それぞれが撮影用にストロボを立てたり背景紙を設置する。
ぱっと見てすぐ誰がカメラマンなのか分かる。目を合わせて会釈し、よろしくお願いしますと言いながら場所どうしますか?と相談しすんなり場所が決まっていく。私以外は、若い男性のカメラマンだった。恐らく30歳前後。

準備を終えた一人がふらり歩きながら別のカメラマンの撮影機材を眺めていた。
ずいぶんリラックスしてるなと思って見ると、彼と目があった。お互い軽くぺこりとしながら、私は「機材チェックしてましたね」彼は「はは、してました」と目で語った後、実際に彼が話しかけてきた。
「何かお手伝いする事あれば言ってくださいね」と。
私はめちゃくちゃびっくりした。
「ありがとうございます、大丈夫です!」と私は慌てて返した。
びっくりした。同業者にお手伝いしますなんて声をかけられるのは初めての事だった。

もう10年以上前、私はこうした合同取材を今より頻繁にやっていて、現場で他のカメラマンと一緒になる事が多々あったが、同業者同士で気さくに声を掛け合う事など無かったし、それぞれのカメラマンが
「自分がいい写真を撮る。」とギラギラしていて、現場はもっと殺伐としていたような気がする。若かった私も、自分のことで精一杯だった。

声をかけられたことに動揺したまま準備を続けていると、さっきとは別のカメラマンが近づいて声をかけてきた。
「僕、立ちましょうか?」
驚愕した。
準備がほぼ終わった私を見た彼は、撮影のテストのためモデルとしてカメラ前に立つことを買って出てくれたのだ。

更に動揺しながら、ありがとうございます、お願いします、と言ってライトの前に立ってもらった。するっとマスクを外しまっすぐカメラを見る彼の姿を撮った。
これから撮る俳優の事も一瞬忘れるほど、彼の行動に私は驚いていた。撮り終えて
「ありがとうございました、助かりました」と伝えると、彼は自分の場所へと戻っていった。

優しい。優しすぎる。私はどちらかと言えば気さくな人間だと思うけれど、現場で他のカメラマンを進んで助けるなんて事考えつきもしなかった。
なんなんだろうこの優しさに溢れた世界は!!!
ぐるぐると考えているうちに自分の順番がやってきて、持ち時間の5分で俳優の撮影を終えた。俳優さんは印象通りに、芯があるとても素敵な人だった。

撮影が終わり、帰り道でも私の頭に浮かんできたのは私に声をかけてきた2人のカメラマンだった。
単に私がモタモタ準備して見えたから手も空いてるし助けよう、と思ったのかもしれない。普段の生活で誰かが大変そうにしていたら、私もきっと声をかけて助ける。ただ、それが自分の仕事の場になれば話は違う。自分の仕事を上手くやることに集中する現場で、競争相手の同業者に声をかけるなんて。声をかけることはむしろ失礼だとも思っていた。
人は人。自分は自分。それぞれの責任。自分が上手く行っていれば良い、人は関係ない。人を蹴落としてでも上手くやらねば。右肩上がりの仕事に右肩上がりの人生。

そこまで考えて、この考え方はきっと、いや絶対に、ものすごく古いのだと思った。

これが生きた時代は確かにあった。でも今は違う。助け合って、皆が成功していくのが今なんだ。そうして、いわゆる若い世代の人たちはすでにそういう世界で生きている。多分。
風の時代、新しい世代、新しい時代、と、あらゆるところで言われているけど、この出来事で私は本当の意味で新しさとは何なのか、自分の腹に落ちて分かった気がした。


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