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17歳の時に言われた言葉

パソコン仕事をしながらピーター・バラカンさんのラジオを聴いていたら、曲のリクエストメールが読まれた。
「僕の息子が今年17歳になります。ついに受験生となりますが、受験にストレスを感じる事なく、今後自分の好きな道へ進んでいくためのステップとして前向きに楽しんで欲しい。」

リクエストはエルビス・コステロの1曲だった。優しく落ち着いた目線で子供を応援し、エルビス・コステロを息子のためにリクエストする親。
すごいな、どんな素敵な親なのよと曲を聴きながら思った。
こんな人が自分の親だったらどんな気分だろうかと妄想したところで、私は自分の高校時代の三者面談を思い出した。
17歳の私は随分ぼんやりした高校生だった。当時は特別打ち込めることもなく、勉強も部活もつまらなかった。学校はバイトも禁止。当然彼氏などおらず、将来どうしたいのかも全く見えていない。
往復18キロの田んぼ道をひたすら毎日自転車で通っていた。何にも出来なかったくせに、こんなところを出てどこかもっと広い世界へ行きたいと思っていた。

高校3年生の春、母親が進路を話し合う三者面談のため学校へやって来た。母は当時保険会社の営業で、売上も良かったらしく県の代表になるほど猛烈に仕事していた。教室前の廊下に置かれた椅子に座り、母と並んで自分たちの順番を待つ10分の間、何を具体的に話したのか覚えていない。これからどうしたい?と聞かれ、まだ分からないとでも私は答えたのだろうか。一つだけ覚えているのは、母がまっすぐ私の目を見て言った言葉だ。

「智早。これから先、なんだって好きなことをやっていいのよ。やりたいことをやりなさい。」

そう言われて、私はぽかんとした。本当に口が空いていたかもしれない。
やりたい事がわからず勉強も楽しくない劣等生の17歳にその言葉は強く眩しすぎて、私は曖昧に返事をして目を逸らした。母はいつでも本気の人だった。

その後時間をかけ、私はなんとかやりたい事を見つけて進んできた。母のあの言葉をずっと胸に抱いていたわけではない。でも今思えば、それは幸福な言葉だった。言われた瞬間心に染みていって、私をずっと支えていたのだと思う。

素敵なラジオ番組に洋楽をリクエストするおしゃれな親はいないが、やりたいことをなんでもやれと17歳に全力で言う母が私にはいたのだった。
あれは娘への言葉であり、同時に母が自分自身へ向け続けてきた言葉でもあったのかもしれないと、あの時の母の年齢と同じになった今は思う。


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