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サザビーズ(Sotherby's):どこの美術館でも見れない名画を、タダで見る方法
むかし、イギリスに六年半住んでいたのだが、その間に、じっさいに人生が変わるような経験をした、とおもう。そのすくなくともひとつは、芸術一般に対する経験値と感性が、ぐぐっと上がったことだった。
なにしろイギリスからヨーロッパ諸国へは、日本でいえば国内旅行の感覚でいける。ロンドンからパリへ行くのにかかる時間は、東京から新大阪まで行くのにかかる時間と、まったく同じである。
だからパリへは、しょっちゅう行った。他にもベルリンへ行き、ハンブルグへ行き、フィレンツェに行き、と、呼んでもらえるままに、あちこち移動した。
当時のわたしの観光のメインイベントは、どこへ行っても、美術館めぐり。ロンドンもそうだが、ヨーロッパはどこに行っても、美術館が充実している。
こっ、こんなの一度にぜんぶ見ていいんですかっ、と口からよだれが止まらない日々を、送ることができるのだ。
そして日本の美術展に比べると、圧倒的に空いている(ルーブルのモナリザ前とか、そういうのはもちろんべつ)。
しかし、これだけまわりが美術館だらけでも、じつは見ることができていない名画というものがある、という事実を、わたしは昨日、サザビーズ(Sotherby's)・カフェでお茶していて、教えてもらった。
そう、個人所有の名画。
盲点だった。
展覧会に貸し出されたりするものもあるだろうが、これらを見る機会は、通常はない。そして世界最古の伝統を誇るオークション会社、サザビーズのギャラリーでは、これらの絵画が売りに出される前に、展示されている、というのである。
今見ることができるのは、2月26/27日の、印象派と現代美術、シュルレアリスムのオークションで売られる作品。昨日は時間がなかったので、今日さっそく見に行った。
同じ名画のオーラにかこまれる至福感でも、やはり美術館での体験とは、二味も三味もちがう。
なんせ、ポスターでも複製画でもなく、正真正銘のホンモノが、
うちの壁にかかっている!!
という妄想に浸れる、空間なのだ。
えっ、ルノワールも、モネも、シャガールも、え、え?これぜんぶ売りモノなんですかっ?ウォーホルのキャンベルスープ缶も?ジャコメッティも、ピカソも?買っていいんですかっ?え、これうちのカベ?(違)
いや、2LDKのマンションの壁じゃなくて、家全体が美術館のような邸宅なんでしょうけど、それにしても。
うちに帰って、改めてお値段を確認して、さすがに驚いた。モネは数十億円。でもキャンベルスープ缶は、ものによって二千万円とか五千万円とか、確かにお金持ちなら、ぱっと買えそうな値段ではある。都心のマンションよりは、安い。ミネストローネの缶だけは、二億円。一個なのに。
上品でリッチで優美なサザビーズのギャラリーは、一般庶民も分けへだてなく、ウェルカムしてくれる。ポイントは、ここである。前でウロウロしていると、制服のドアマンが、どうぞ中へ、とニッコリ微笑みかけてくれるのだ。そういうところがほんとうに、うれしくて、ほっこりする。
カフェのちょっとスコーン?っていうくらい厚手のクッキーも、おいしい。紅茶も、イギリスでは普通だが、ポットにお湯を足してくれる。これで600円、安い。
実際には資産家にしか買えない名画やダイアモンド(もある)だが、それらを買う人と同じように「ウインドーショッピングする」という経験は、タダで誰にでも開かれているのである。
この文化の身近さが、ロンドンの、ヨーロッパ都市の、やめられないところなのだ。ロンドンにお越しの際は、オークション前のサザビーズへも、ぜひどうぞ。
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