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秋の葉の国の人


紅葉の季節になると
樹の下で落ち葉を待つ人たちが現れる
彼らは秋の葉の国の人

はらりと落ちてきた黄色の一枚を受け止めて
じっとその葉に目を落とす

そこには
かなしみに飽きた王子の物語の冒頭が。
王子が窓から外を見て
ため息をついたのを
渡り鳥の一群が見かけたところ

次に落ちてきた赤い一枚には
馬とロバが繰り出した冒険譚の一頁。
老いた馬が若いロバと
銀色に輝く湖の町にたどりついたところ

秋の葉の国の人たちは
葉っぱに描かれた物語をゆっくりと読んでいく

読み終わるとほうと息をつき
紅葉に覆われた色とりどりの空を見上げる

物語は秋の実りなのだ

秋の葉の国の人たちは
物語の一遍を落としてくれる季節に感謝の心を返し
染まった葉っぱをていねいに
厚いノートに挟んでゆく

これらは冬にまとめられ
王様に献上される
春には本になって住人の手に渡る

そうして春からまた新しい物語の芽が生まれるのだ

いまわたしたちが見上げている紅葉は
秋の物語の実りなのだ



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2020/11/10放送 chigusaの庭より


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