知愚之庵

ロマンティック愛好家

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最近の記事

あなたが大切で尊い理由

己れを造り生かしてくれている大きな存在が、自分と同じように造り生かしている他のものは、自分と同じように有難く尊く疎かにはできぬ。お母さんの作ってくれたお道具入れのバッグとか、ぬいぐるみの服の刺しゅうとか、大切だったのと同じく、全ては、全宇宙を包んでくれるお母さんのような、有難い存在が同じく造ってくれたものだ。みんな同じく、みんな大切で、かけがえなく、尊く、有難いのだ。私のこの体も。あなたのなにもかも全ても。

    • 塞下の曲――李白の詩の詩

      塞下の曲 白馬がいる。黄金の塞がある。 雲のごとく舞い上がった砂けむりに 夢のような想像を繞らせている。 (こうして美しい想像を繞らせてみないで) どうして堪える事ができようか、 こんなに苦しい愁いの季節を。 遠く辺境の地に暮らす我が子を憶えば、 蛍の光は秋の窓辺へ飛んで満ちあふれ、 月が霜のかかる寝屋の上を ゆっくりと進んでいるのも感じられてくる。 (だが夜が明けてみると、) 梧桐の葉は破れ散っていて、 沙棠の枝が、物寂しい音をさせて 風に吹かれていた。 私はいつでも独り

      • 秋、宣城のまちの謝朓が築いた北楼に登って――李白の詩の詩

        秋、宣城のまちの謝朓が築いた北楼に登って 川辺のまちはまるで、画に描かれた風景のようである。 山は夕暮れ、晴れた空を望んでいる。 二すじの川は、この地を挟んで澄明な鏡のように流れ、 二つの橋は、向こう岸へ架け落とされた虹のように並んでいる。 人家から立ちのぼる煙に、蜜柑は寒々と、 秋の色も深まり、梧桐の木が老いてゆく。 誰か、(謝朓の築いた)この北楼の上で、 (今の私と同じように)思ってくれる人がいるだろうか、 風に臨んで、 (風のように生きた詩人)謝朓先生の存在を感じつつ

        • 友を送る――李白の詩の詩

          友を送る 青い山並は、北に外郭(外側の城郭)の如く横たわり、 白く光る水は、東に内郭(内側の城郭)の如くめぐっている。 この地で、ひとたび別れてしまえば、 君は一本の、風に飛ばされた蓬草のように、 万里の道をゆくだろう。 浮き雲は、旅人(君)に似て、 沈む夕日は、見送る友(私、李白)の心を表してくれている。 手をふって、君はここから去ってゆく。 さびしい風に吹かれて、別れの馬は、嘶いた。 友人を送る 青山 北郭に横たわり 白水 東城に遶る 此の地 一たび別れを為せば 孤

        あなたが大切で尊い理由

          江夏で宋之悌に別れて――李白の詩の詩

          江夏で宋悌之に別れて 楚の国を流れる長江の水は清く透き徹って、 さながらそこには何もないかのようであるが、 この流れは、遥かに遠く、青くて深い海へと通じている。 同様に、人の流れも、千里の遥かな道の先で、 それぞれが広い世界に分れてゆくものであるが、 (この茫漠とした大海原を眺めて 別れを悲しんでばかりいては、 人生の意味と価値とを見逃してしまいかねない。 然れば、) 生きる楽しみは、今、己れが手に持つ、 この一つの盃の中にこそ在る。 (まずはこの一盃の輝きをよく見つめるの

          江夏で宋之悌に別れて――李白の詩の詩

          秋の思い――李白の詩の詩

          秋の思い 燕支の山は、黄葉の落ちる季節になりました。 わたしはここから、 (かつて我が匈奴の民の王・単于が颯爽と戦った) 白登山の高台を望んでいます。 今では、湖の上に、清々しかった青雲も消え、 王の単于はいつかの若き勇猛の影を失って、 匈奴の地には、冬枯れへと向かう 寂しい秋の気配が漂いはじめています。 貴方たち、我が胡の民の兵士たちが 砂漠の塞に集結したのを嗅ぎ付けて、 漢の国の知らせの使いは、(国境の要塞)玉門関から 王朝へと急ぎ戻ってゆきました。 (もうじき、漢の軍

          秋の思い――李白の詩の詩

          南の僻地 夜郎に流されて妻に寄せる――李白の詩の詩

          南の僻地 夜郎に流されて妻に寄せる 夜郎という最果ての地から 君と暮らしていた日々のことを 遥かに遠く、憶い望んでいる。 まるで、月の澄みきった閑かな夜、 君は楼閣の中に居て 戸口を閉ざしたかのように 僕には連絡を、殆んどくれなくなった。 雁は、未だ春の季節にある北の地へと帰り去り、 みるみるうちに、あちらへ消えてゆく。 その姿をただ南から見送っている僕は、 こちらに来て欲しいものを得られないでいる、 君の住む、豫章からの手紙を。 南のかた 夜郎に流されて内に寄す 夜

          南の僻地 夜郎に流されて妻に寄せる――李白の詩の詩

          長門宮の物思い――李白の詩の詩

          長門宮の物思い 天は、北斗の星々をめぐらせて、 西の楼閣の上へかけた。 今では、この美しい宮殿に人は無く、 闇の中を、蛍火が流れゆく。 月の光も、まさにさしかかろうとしている 長門の宮殿ではあるが、 これら(めぐる北斗、流れる蛍火、さしかかる月)は、 (かつて帝の愛を失って ここへ退いていた或る皇后の 光と時間とをなくした物思いに対照をなして 私の想像の中で―) 格別に、一段と深いものにしている、 この宮殿の奥の部屋に一人、 しのんでいた人の愁いを。 長門宮の物思い 天

          長門宮の物思い――李白の詩の詩

          春の夜 洛城に笛の音を聞く――李白の詩の詩

          春の夜 洛城に笛の音を聞く 近頃、誰かの家の玉の笛が、 何処からか、夜の闇に音を放つようになった。 音は飛び散り、春風に溶けて、 洛城中に響き亘ってゆく。 この夜、笛の音の奏でる曲の中に、 旅立つ人を送る「折楊楊」が聞こえて来た。 あの時、果たして起こさなかった人がいただろうか、 故郷を思う心を。 春夜 洛城に笛を聞く 誰が家の玉笛か 闇に声を飛ばす 散じて春風に入りて 洛城に満つ 此の夜 曲中に折柳を聞く 何人か起さざらん 故園の情 春夜洛城聞笛 誰 家 玉

          春の夜 洛城に笛の音を聞く――李白の詩の詩

          蘇台で古を覧た――李白の詩の詩

          蘇台で古を覧た 遠い昔に使われていた庭。 楼台は荒れ果てて了っているが、 今も新緑の楊柳には、更なる風が起こった。 (巡る季節の命の息吹きに、 次第に埋もれゆくこの旧跡に) 菱の実を摘む少女の歌声は、 何とも若く春らしく、春を盛んに唱うから、 私の心は、どうしても表現に尽くせないほど 満ち満ちてこの春をいっぱいに感じて耐え難く、 (庭の景色は変わっても、 ふっと夜空を見上げれば) ただ今も、私の目の前には、 ただ確かに変わらず有る、 この長江の西の月。 この月がかつて、全く

          蘇台で古を覧た――李白の詩の詩

          旅の途中の作――李白の詩の詩

          旅の途中の作 蘭陵で造られる美しい酒、鬱金香。 玉の椀に、なみなみとつがれてもてなされた、 この琥珀のような光。 ひたすら、この宴の主人に、 旅人(私、李白)を酔わせさせる事ができれば、 (私はすっかり楽しくなって) もう関係のない事だ、 (どこが故郷で) どこが他郷であるかなど。

          旅の途中の作――李白の詩の詩

          山中で俗世の人に答えて――李白の詩の詩

          山中で俗世の人に答えて その人は私に問うた。 (李白、あなたは詩人として)何を意図して この様に青々と深い山の中に住んでいるのかと。 私は笑って答えなかった。 心は自然と閑かであった。 桃の花は、いま流れる水にのり、 遥か遠くへ去ってゆく。 人の住む世界とは違う、 この天と地には、 詩人の容易な表現を拒む、 格別に深遠なものが有るのだ。

          山中で俗世の人に答えて――李白の詩の詩

          黄鶴楼から孟浩然が広陵にゆくのを見送って――李白の訳

          黄鶴楼から孟浩然が広陵にゆくのを見送って 旧知の友(孟浩然)は、 西のかた、この黄鶴楼に別れを告げて、 花も霞む三月、揚州へ下った。 その一艘の遠い帆影は、 ついに碧玉のような青空へ消えて見えなくなったが、 私はただ見続けていた、 舟が去った後、 遠く長江が空に接して、 天との境界線に流れているのを。

          黄鶴楼から孟浩然が広陵にゆくのを見送って――李白の訳

          汪倫に贈る――李白の訳

          汪倫に贈る われ李白が舟に乗り、 まさに旅立とうとしたその時、 忽ち岸壁の上から、 地を踏み鳴らす歌声が聞こえた。 (見れば、歌い踊るは 心親しき汪倫のはからいである) この美しい桃花潭の水深は千尺。 及ばない、汪倫が私を送別してくれる 無垢な情けの深さには。

          汪倫に贈る――李白の訳

          峨眉山 月の歌――李白の訳

          峨眉山 月の歌 峨眉山がある、月は半輪、秋である。 月光のなす山影は、 平羌を通る長江の水面にかかって流されている。 夜、舟で清渓を発ち、三峡に向かう。 君を思ってみても、何故だか今夜は、 記憶の中の面影すら (長江に流される この峨眉山の影のように) ぼんやりとして、 君を見たくても、見ることができずに、 ただただ僕は、渝州へと下っていく。 (おぼろげな影は次第に、さらに僕から遠のいてゆく)

          峨眉山 月の歌――李白の訳

          越の乙女のうた――李白の訳

          越の乙女のうた 鏡湖の水、月の如く、 若耶渓の乙女は、雪のようである。 そめたての化粧が清漣に映えて、 ともに織り成す この妙なる光景は、 今この瞬間の、私の感覚にしか立ち現れないものだ。 この先、絶えて出遇えぬこの奇跡を、感動を、 留められるなら、留めておきたい。

          越の乙女のうた――李白の訳