志馬なにがし『夜が明けたら朝が来る』(8/18読了)

当たり前が崩れた日々に戸惑う彼女が、必死に駆けた先で迎える朝の鮮やかさが忘れられない。
異なる県ながら海峡を挟み近くに位置する福岡県門司港と山口県下関を舞台に、子の取り違えが発覚した二家族の葛藤や再構築を描く。

主人公のアサは、門司港に住み、下関の学校に通う高校生。歌の配信等をする同世代の「Yoru」を推しています。
でもある日、自身が出生時に取り違えられ、本当の両親が下関にいることが発覚してしまった。

一緒に暮らしてきたママに似ていない部分、実のおかあさんに似ている部分に、血の繋がりを感じてしまう反面……ママといたからこそ築かれた自分の一面にも気づいていく。
ボーカルレッスンにも通わせてくれる下関の家で将来の選択肢が広がる一方、自分という負担がなければ門司港のママは都会へ行く選択肢があることも知ってしまう。

それに、ママが本当の子への感情を、下関の両親が育てた子への気持ちをアサの前で素直に出せないように、アサも飲み込んでしまうことがあって。
各々の想いがうまく繋がらないどころか、こんがらがってゆく。だって、本人の中でさえ整理がついていないのだから。

夜が明けたら朝が来る――それは当たり前に訪れるものだと思っていた。

でもママとは血の繋がりがなくて、本当は下関で育つはずで、神と崇めた推しと思わぬ繋がりが生まれて。当たり前が崩れ去った混乱と困惑の中、アサは二つの場所と家族を行き来し、これまでを見つめる。これからを考えていく。
その間ずっと傍にあったのは、直接会うことが叶わない推しの、歌で――。

離れた場所にあっても力になれることを示す希望に思えたし、Yoruに救われてきたアサが、Yoruの隠れた想いを救い出して届けた場面が印象的だった。
アサ自身が衝き動かされるまま駆け、想いをぶつける姿もまた。

そして迎える夜明けは、鮮やかで輝いていて。朝の訪れを強く感じるシーンでした。

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