読書:神岡鳥乃『空冥の竜騎』(7/10読了)

深い絶望の底から飛び立ち、駆けてゆく姿に惹かれた。
感覚を同期させた《竜》に乗り、空を戦場とする兵士が本格導入された世界大戦の終結から数年。エースパイロットのロナードは、任務の失敗から士官学校へ左遷されてしまう。

仲間を死なせ、生き残ってしまった罪悪感。大戦後の急激な世界の変化についていけぬ疎外感。取り残されたロナードは居場所を失い、死に場所を求めているんです。空に。
その広さを高く速く駆ける印象とは裏腹に、過去によって空に縫い留められているようだった。

そんな彼が士官学校で出会うのが、「やれることを続けていけば、そこが居場所になる」と教鞭を取る同僚や、竜に乗り大空を飛ぶことに目を輝かせる教え子で。彼らとの交流が、ロナードの視界を、世界を、開いてゆく。
きっとやり直せると、希望が湧いてきた。

でも……過去がそれを許さない。
その上、ある事実を知ってしまって。

堕ちて。墜ちて。落ちて。
ロナードは、心の深淵を、自身の根本に何があったのかを認めることになる。
空、戦場が自分を受け入れてくれる場だと彼は考えていたけれど、受け入れていないものがあったからこそ、彼は空を飛び続けていたんですよね。

それからロナードが、自身に似た存在と並ぶ場面はとても印象的でお気に入りなんです。
一緒に墜ちることはできないけれど、一緒に飛ぶくらいはしてやると。
絶望に墜ちるのではなく、苦しみながらも希望を探そうと。

かつて刷り込まれるまま“正しさ”を信じて戦い、大戦後は軋轢に苦しんだロナード。その彼が自らの選択で一歩を踏み出すラストが眩しい。

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