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映画『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』(7/14鑑賞)

照らす光のやわらかな煌めきが忘れがたい。
かつての同僚から、ホスピスに入院中で別れを告げる内容の手紙を受け取ったハロルド。返事を投函するつもりが、このまま歩いて会いにいくことに。その距離800キロメートル!

最初は身勝手にすら感じたんです。十分な装備も計画もなく歩き出し、妻に知らせたのは後のこと。夫に連絡がつかず気を揉む妻が、怒りを募らせるのも当然だろうと。
ただ、「君は死なない、死なせない」と繰り返すハロルドの必死さ、彼が時折蘇らせる記憶の質感に、ただならぬ事情の気配もする。

旅の中で、ハロルドにはたくさんの出会いが訪れます。助けられることも多く、打ち明けられる話に耳を傾けることも。
彼のことが報道されると、“巡礼者”として注目を集め、同行する人まで現れるように。ハロルドがホスピスで闘う同僚の力になるように、同行者もハロルドの力になると思った、けれど。

過剰な英雄視も、ホスピスの彼女を知らない人々の参加も、ハロルドは戸惑いを覚える。その上、膨らみ過ぎた一行の進みは遅く、トラブルもあって、彼は再びひとりで歩き出すんです。

旅の当初は物品を買い、ホテルを利用したハロルド。やがて不必要なものを家に送り、野宿しながら歩を進めます。
荷を削ぎ身軽になった一方で、むしろ彼の心に重く引っかかるものが――いわば心の荷が浮かび上がってくる。

この旅はハロルドの過去と内面を巡るものでもあり、向き合うものでもあり、進むためのものでもあるんです。
だから実際に足を踏み出すことが、それだけ時間を掛ける必要があるのだと思った。

ホスピスで闘う同僚のためだけでなく、ハロルド自身にも大きな意味を持つこの旅は、出会った人々にも何かをもたらしていく。
物語の序盤では、まるで天啓のように光が眩く差し込むんです。それが旅を終えたあと、木漏れ日のように幾重にも煌めくやわらかな光が、人々を包んでいたのが忘れられない。


『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』予告

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