遠い光にすがりつく夜
はじめての子育て。
実家とも10分以内の距離だったため、一度も実家へ帰ることなくこなしていた。
成長途中のベンチャー企業に勤めていた夫は、子どもが生まれようがお構いなしで、日づけを越えての帰宅が当たり前だった。
いわゆるワンオペ育児を否応なく突き付けられていたが、なんなくこなしていたわけではない。よく世間で言われるように「子育ては孤独」だ。私も孤独感を感じていた。平日の日中、友人も少なかった私の話し相手は、まだ笑うことしか出来ない、立つこともままならない息子だけだった。
授乳間隔もまだ2~3時間ほど。夜は5時間ほどまとめて寝てくれる息子だったが、疲労も眠気も毎日ピークを更新していく。息子が寝てくれているうちに、少しでも睡眠時間を確保した方が、身のため。それでも、私は毎晩夫の帰りが待ち遠しく、起きて待っていたかった。
寝かしつけた息子の寝息だけが聞こえるがらんどうとした部屋の中、じわじわと寂しさが込み上げる。「今日ひと言も会話していないや」と思い、なんとなく今日を終えることに抵抗を感じた。ひと言だけでいい。大人と対等な会話がしたかった。
夫が帰宅する際は、窓から車のライトが見える。私は暗闇の中、吸い寄せられるように、光を求めた。そわそわと、息子と窓との間を行き来し、ちらっと光が見えたと思うと、すぐさま確認しに行った。それが違う部屋の住人の車だった、なんて時の落胆はすごかった。
いま、息子は1歳8か月。会話はままならないもの、意思疎通はできるようになった。夫の帰りは相変わらずなものの、夫の帰宅まではよく笑う明るい息子が部屋の中を照らしてくれる。
数か月前、息子が生まれたばかりの頃住んでいたアパートからは引っ越し、別の建物に住みはじめた。ふと窓の外を見たとき、その頃の気持ちを思い出した。そして、最近は遠くに光を探すことをしなくなったなぁ、と気が付いた。実家の家族が多かったこともあり、拠り所のない寂しさをはじめて経験した。寂しさは、終わってしまえば一瞬だが、その内にいる間は、とてつもなく大きな何かに飲み込まれてしまいそうな、不安感を与えられるんだなと、知ることができた。
今日もどこかで、寂しさを抱えて今日を終えられずにいるお母さんがいるのかもしれない、と思った。そんな誰かの拠り所が、今夜ははやく帰ってきますように、と心から願う。
そして、そんな誰かがこれを読んで、私だけじゃないと仲間をえたような安心感を得てくれたらな、と思った。
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