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【選挙ウォッチャー】 大阪維新の会ファクトチェックチェック(#02)。

 先日、大阪維新の会が「ファクトチェッカー」という新プロジェクトを始め、ネット上に蔓延る「維新憎しのデマ」をファクトチェックすると宣言しました。なぜか第三者ではなく、当事者である大阪維新の会がチェックする仕組みになっているため、記念すべき第1弾はまったくデマではなく、ただ新型コロナウイルス対策がうまくいっていない理由を言い訳しただけ。あまりに雑すぎるファクトチェックに対するファクトチェックの記事は大反響。おかげさまでPV数もスゴかったのですが、聞けば大阪維新の会の某市議が「なんだ、あの記事は!」と怒っていたらしいので、もしかしたら1回で終わるかなと思ったのですが、待望のファクトチェック第2弾がリリースされましたので、おかげさまで「ファクトチェックチェック」も第2弾をリリースすることができました。
 今回、テーマとして取り上げられたのは、大阪市立工芸高等学校の本館校舎に関するツイート。この建物は大阪市指定有形文化財に指定されているのですが、これが大阪市から大阪府に譲渡されることになったという話です。またしても、大阪維新の会によって晒されているツイートはちっともデマではなかったので、皆様にお知らせしたいと思います。


■ ファクトチェックチェック(#02)

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 今回、第2弾として取り上げられたツイートは、大阪市立工芸高等学校の校舎の写真を添付し、「綺麗に撮れた。大阪市指定有形文化財。維新と公明党によって放棄されることになりました」というシンプルな一文です。あまりにシンプルなツイートなので、ファクトチェックする要素なんて、ほとんどないと思うのですが、ポイントは2つです。

【POINT①】
・Tweetの写真は大阪市立工芸高等学校の本館校舎である。
・本館校舎は2000年12月12日より大阪市指定有形文化財となっている。

 なぜポイントとして挙げられているのか分かりませんが、大阪市指定有形文化財になっていることはファクトでした。つまり、大阪維新の会がアンダーラインを引いているところに、何も嘘がなかったということです。ということは、今回、大阪維新の会が「デマ」として扱いたかったところは、たった1行ということになります。

【POINT②】
・大阪市教育委員会では、これまで大阪府教育長とともに、大阪市立の高等学校21校を府へ移管する方向で協議を進め、関連条例が令和2年12月9日の大阪市議会においては、大阪維新の会、公明党の賛成によって、同月21日の大阪府議会においては、大阪維新の会、公明党に加え、自民党会派等の賛成によって可決され、本校は令和4年4月に大阪市から大阪府へ移管される予定となっている。
・大阪市文化財保護条例では17条において、文化財への現状変更を制限しているが、同22条において所有者が変更された場合であっても、文化財に対する権利義務を承継することを定めている。

 このツイートをしている人は「維新と公明党によって放棄されることになりました」と書いており、本来は大阪市が大阪市の財産として管理するべきものなのに、大阪府に移管されてしまったので、大阪市が管理を放棄したという点においては、何も間違えていません。また、管理するべき大阪市の大阪市議会で「大阪維新の会と公明党の賛成」によって可決しているのですから、「維新と公明党が放棄した」と書いていることも、間違いではありません。つまり、ファクトチェックの結果、これは「ファクト」だと言っているに等しいのです。
 では、大阪維新の会は、このツイートの何を問題にしたいのでしょうか。それが「解説」の部分に書かれています。

【解説】
 市の文化財保護条例には、文化財の所有権が移転した場合であっても、旧所有者の権利及び義務が新たな所有者に承継される旨が明記されており、たとえ所有権が移転したとしても、文化財が破壊されることのないよう保護している。
 今回、市の指定有形文化財である大阪工芸高等学校が府に移管されることによって、放棄されるという発信に対して、コメント欄には「美しい建物なのに勿体ない」、「壊すのではなく修繕すべき」等、この建物が解体されると誤認した書き込みが多く見られた。
 一方、発信者自身が破壊されるという表現は使用しておらず、所有者が大阪市から府に変更されることによって「大阪市が(所有権を)放棄した」という趣旨で発信した可能性もある。
 いずれにしても、市の指定有形文化財であるこの建物が府への移管によって破壊されることはない。

 要するに、このツイートを読んだ人の中に「有形文化財の建物が破壊されてしまうのではないか」と勘違い人がいたので、それが問題だと言いたいようです。しかし、それは読み手のリテラシーの問題であって、ツイート主に落ち度はありません。こんなシンプルなツイートで、読み手の受け取り方の責任まで取らされるなんて、どうかしています。解説でも「発信者自身が破壊されるという表現は使用しておらず、所有者が大阪市から府に変更されることによって「大阪市が(所有権を)放棄した」という趣旨で発信した可能性もある」と書かれていますが、だいたいの人はそう読み取っているはずです。
 では、どうして「放棄した」と書かれているのに、一部の人々が「壊される」と感じてしまったのでしょうか。それは大阪維新の会がこれまでたくさんのものを壊してきたからに他なりません。
 例えば、「市が運営する病院と府が運営する病院は1つでいい」と言い出して廃止することにした「住吉市民病院」は、地域に根差し、大阪市南部で出産や子供の入院ができる数少ない病院だったにもかかわらず、住民の都合とは関係なく、大阪維新の会の『思想』が優先される形で、病院がなくなってしまいました。その後、住吉市民病院の機能を大阪府立病院で引き継ぐことになったのですが、子供の入院を断られてしまうケースが続出。結局、住吉市民病院の機能が十分に引き継がれることがなくなり、子供の命や健康が脅かされることになってしまったのです。
 あるいは、民間企業が管理するようになった大阪城公園では、自然よりも収益が優先されるようになったため、有料の遊び場を設置するために1200本の樹木が伐採されて、これでは「身を切る改革」ではなく「木を切る改革」だと批判を浴びたこともありました。無料の遊び場は滑り台が故障したままで放置されているのに、有料の遊び場を作るためなら1200本も公園の木を切ってしまう。これは大阪市から民間企業に管理者が移行したために起こっていることですが、こうした大阪維新の会の実績が、大阪維新の会がやってきたプラスの政策だけでなく、マイナスの政策にも目を向けてきた市民にとっては「破壊」というイメージにつながり、「このままでは建物が破壊されてしまうのではないか」という錯覚を生み出したのではないでしょうか。
 大阪維新の会が政権を担うようになってから、「コストカット」ばかりが優先されるようになって、人々にとって必要なものまで削られるようになってしまった結果、子供が入院できなくなり、エアロゾル感染を防ぐために青空の下で遊ばせようと思ったらお金がかかるようになった大阪市。このコロナ禍では、病院だけでなく、保健所の数も減らしてしまったため、前回のファクトチェックにあったような「濃厚接触者の放置」が起こり、他の自治体に比べて死亡率が高く、おまけに知事が「コロナにイソジンが効く」と言い出す始末です。さらには、知事がほぼ毎日テレビに出演し、お隣の和歌山県のような徹底した検査体制を目指すわけでもないので、こうしている間に大阪ではワクチンや治療薬の効きにくい変異株が増えつつあり、一般市民にワクチンが行き渡る頃には、すっかりワクチンが効かなくなっている可能性すらあるのです。チェックするべきところは、本当に『市民のツイート』なのでしょうか。


■ 市から府に移管されることのデメリット

 大阪市民の「心の風景」として刻まれている大阪府立工芸高校の校舎。この所有権が大阪市から大阪府に移管されることは、ただ管理者が大阪市から大阪府に変わるというだけでは終わりません。
 建物を保存するためには、当然、お金がかかります。そのお金は誰が負担するのかと言ったら、これまでの大阪市ではなく、「大阪府」が負担することになります。大阪維新の会の人たちは「大阪市が管理しようが、大阪府が管理しようが、同じ大阪が管理するのだから、この建物が壊されるようなことはない」と言うのかもしれませんが、それは必ずしも約束されているものではないのです。
 新型コロナウイルス対策で失敗している日本は、これからますます経済が衰退し、十分な税収が見込めなくなる可能性があります。特に、コロナ対策が「イソジン」だった大阪府のダメージは計り知れず、税金が確保できなければ、これまでのようなお金のかけ方ができなくなるかもしれません。そうなった時、校舎の保存を泣く泣く諦めなければならないかもしれません。しかし、その議論は「大阪市」ではなく「大阪府」で行われます。
 先程も申しましたが、この校舎は「大阪市民」の心の風景であり、熊取町や泉佐野市に住んでいる人たちにとっては、べつに愛着があるわけでもありません。大阪市で話し合われるのであれば、この建物の価値がわかる人たちの間で話し合われることになるかもしれませんが、大阪府全体で話し合われることになれば、建物の価値をあまり知らない人たちによって話し合われることになりかねません。そうなれば、最終的な判断が変わってしまうかもしれないのです。
 つまり、遠い将来(と言っても、このコロナ禍で経済に壊滅的なダメージがあれば、数年後かもしれない)に、壊されてしまうかもしれないリスクが今までよりも高くなってしまったことは間違いありません。だから、「壊される」と感じた人たちの気持ちが「デマ」であるとも言いきれないのです。


■ それよりファクトチェックするべきもの

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 まるで市民の口を封じるかのごとく、「ファクトチェック」と題し、まったくデマではないものをデマ扱いしている大阪維新の会。税金を無駄に使っているわけでもなく、むしろ税金を納めていただいている側の市民に対して文句を言っているわけですが、それよりやるべきは「身内の不正に対するファクトチェック」ではないでしょうか。
 こんな時ばかり「大阪維新の会」と「日本維新の会」は別団体だと言われたくありませんが、大阪府選出の参議院議員・高木かおりさんには、先日から政党交付金で借金を返済していた疑惑が報じられており、「借金は集められた寄付金から捻出された」とか「文書通信交通滞在費を合わせて返済している」とかゴタゴタと言い訳をしています。しかし、皆さんからの寄付金が借金返済に流用されているのはいかがかと思うし、文書通信交通滞在費が借金返済に使われるのも目的外使用になるので、いずれにしても疑惑から抜け出すことができていません。
 大阪維新の会は、これまで2回にわたって市民のツイートをチェックしていますが、いずれも市民の書いている内容に嘘はありませんでした。だったら、そんな市民のツイートをチェックするのではなく、自分たちのお金の流れをチェックし、政党交付金や文書通信交通滞在費の返金を検討した方がいいのではないでしょうか。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

 記念すべき1回目のファクトチェックには、さまざまなメディアが食いついて、市民のツイートを勝手に悪者扱いで晒している大阪維新の会の酷い姿を多くの人が知ることになりました。しかし、2回目のファクトチェックでは、早くも誰も相手にしなくなり、私の独壇場となってしまいました。
 あまりにマヌケなファクトチェックなので、「取り上げる価値もない」と判断されてしまったのかもしれませんが、ファクトチェックをチェックしてみると、大阪維新の会の知られざる「マイナスの側面」が浮き彫りになってきます。私は今、3月21日投開票の千葉県知事選を取材していますが、候補者は常に「プラスの実績」しか語りません。選挙に当選したいのに、自分からマイナスの実績を語る人間なんているはずがないので当たり前なんですが、政治や選挙で判断する時には、しっかり「マイナスの部分」にも目を向けていかなければなりません。メディアは批判してばかりだと言うかもしれませんが、本来は、けっしてアピールされることのない「マイナス」の部分を報じるのがメディアの仕事なのです。だから、私はこれからもファクトチェックチェックを続けてまいります。

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