田辺・弁慶映画祭2日目 2019年11月23日の日記
・朝8時に起きてシャワーを浴び、朝食。 港町だからか、昨晩のパーティーに引き続きしらすと練り物があった。丁寧な食事は素晴らしいね。
・10時からコンペ。今日は6本連続。体力勝負…
・4本目 やわらかくなる
・退屈。山戸結希の影響を若手女性監督はほぼ必ず受けているという説が私にはあるけど、"それ"だった。ただ大学4年生で160作のうち9選になったのはすごい。監督の思想はかなり強く、ティーチインでも切に語る姿が印象的だった。その切なる思いを具現化してほしい。思想をいかに映像へ落とし込めるかで数多のポスト山戸結希から抜きん出るんだろうな。これがとんでもなく難しいことは承知だけど。
・5本目 バカヤロウの背中
・江戸長屋人情物語現代版。って言えば聞こえはいいかしら。『やわらかくなる』と一緒に今作はあらゆる賞の印象に残らないだろうなと思った。ありそう、普通、ザ・インディーズ。そういう言葉で括ってしまうような。まあこっちは編集・カット・カメラワークでなかなかユーモラスなものになってた。テンポも良い。でも映画そのものを面白いと言えるかと言われると、少し言葉に困る。技術を選ぶセンスと面白さはあるので、もっと育ったら面白いもの作るんじゃないかな。
・お昼休憩。先生と和食屋へ。銀ちろに行く。
・変なフィルターのせいでマグロの色が毒になっちゃってるな。天ぷら・寿司・赤だしのつゆ・デザートと盛りだくさんでお腹いっぱいになった。お金のない大学生はこういうのが有難いんだ。いつもありがとうございます、先生。
・6本目 おろかもの
・傑作。ダントツで良い。短編中編が続きここに来て昼食後に長編なので、正直鑑賞前はかったるかったけどそんなことを忘れて魅入った。最初はモノローグが入ったりして少し説明的かなと思ったけど、この主人公一人称語りが後々効いてくる。もはや「神の視点」のモノローグなんてダサいし流行らないし、やってるだけで疎まれるよね。映画ではちょくちょく説明のモノローグが入るけど、多くは小説の形式と同じく、主人公の一人称視点だ。よって語りのバイアスが自然とテクストに織り込まれることになるのだが、映画は「カメラ」という現象を映す目線があるため、そのバイアスを隠しやすい。そのためバイアスと神の視点をごっちゃにしてる映画もかなりあるのだが、この映画はその辺をしっかり作っていた。主人公がモノローグで兄が嘘をつく際の手癖を指摘するのだが、この指摘があるおかげで主人公が無意識でやる手癖へ視線誘導させる、といった効果をやったりしていた。モノローグを装置として十分に機能させており、「説明過多」という思考へと持っていかせない。すごい上手いんだよな。あとこの映画、男性は置いておいて女性の描き方がなかなか良かった。主人公の女子高生、女子高生の兄と婚約中の美人とは言い難いが、いわゆる"家庭的"な女性、兄の愛人のややくたびれた色気のある女性が主軸となっているんだけども、それぞれの心情や信念にかなり丁寧に寄り添って描いていた。これからテアトルで公開されたり、もしかしたら大規模に広がるかもしれないのでネタバレは避けるが、ラストのエモーショナルな演出は観ているこっちもかなり胸が熱くなった。
・ただ一方でかなり慎重にやってほしかったこともあり、その点だけ。女と男の描き方、これはどうなんだ。第一に男の「目の前の女性には優しくする」気性を「クズ」という言葉で形容して許してしまうのは、どうかと思う。(ここの文面において炎上を危惧しています)目の前の人にだけ誠実であることは、言い換えれば自分の視界からいなくなった途端、その他大勢の群像に女性を隠してしまうのである。こういう気性を「クズ」で笑って許してしまうこと、大変に度し難い。むかーしむかしから、「いろんな女に手を出し、その女性たちを傷つけても愛嬌があって憎めないクズ」は物語の中でたくさん許されてきたし、この存在を許容する女性が物語でも現実でも「良い女」だった。諦めずに更生を願う女や、激情に翻弄される女は「愚かな女」になってきた。恋する女は愚かになりたくないから、いつでも良い女のフリをする。させられる。この「女が自身を律して愚かな女である側面を自制する」役割を婚約者に背負わせて、男性は下をペロッと出せば許されてしまうなら、私は男性に生まれたかった。私に心を寄せる人間を手のひらでコロコロ転がして、その様を優越感と共に眺め、結婚に相応しい年齢に差し迫ったところで尻に敷かれるフリをして、愛妻家であることをアピールして「憎めない男」になりたかった。話がずれた。この許す役割を婚約者に背負わせていることもどうかと思うが、加えて愛人と婚約者の容姿に大きく差を加えたのも、「肝っ玉母ちゃん」の要素を上乗せするようで痛ましかった。容姿から連想される固定観念をそのままなぞるのは、ただキャラクターを記号として描くことになりうる。これは女性だとより強調されて描かれることが多く、いわゆる愛人顔だの、主婦顔だのがそれだ。「遊んでそう〜!」とか「結婚早そうだよね」などと言われることがままある人もいるだろうが、このイメージは性格から想起されるものだとしても、容姿と全く無関係なわけではない。だからこういう本来ならセンシティブに扱うべき婚約者と愛人の関係を、容姿イメージに頼ってはいけない。そうじゃないと「肝っ玉母ちゃん」風の容姿である婚約者は、許す・またはギャグ的な激怒で男を尻に敷く以外の選択を許されない。婚約者と愛人の容姿をなるべく近いところにした方が、切実にこの物語を紡げただろう。度し難い男とその婚約者、愛人、男の妹、それぞれが諦念や赦しに甘える事で物語が帰結する「おきまり」を覆す映画、いつか観たい。
・7本目 グラフィティ・グラフィティ!
・SHIROというグラフィティーアーティストを起用した短編。話はザ・オーソドックスで可もなく不可もなくといった感じだったが、整音や編集、グラフィティそのもののクオリティなどがとても良かった。大きな感情の揺らぎがなく、とても観やすい。むしろ大きい商業映画を撮ったほうが跳ねるかもしれないな。
・8本目 彼女はひとり
・何というか、世間知らずの脚本に倫理ノイズが発生してしまいだいぶ笑いながら観てしまった。感想:ヤッバ(笑)主演の女性はチャーミングながらこの物語の中で大きく揺らぎ苦しみ奔走しており、かなり良かった。松本花奈的な苦しみがあるな。
・9本目 羊と蜜柑と日曜日
・主演が主演なのでもう素直に泣いた。演技で泣かせるってこういうことだな。短編で良くまとまっていたし、こういうハッピーな物語は観客のウケもいいと思う。人の優しさとか、固くなっていた心が少しずつ柔らかくなっていく感じを丁寧に描いており、素直に良かった。ただ、神様いるかな…?
・6本鑑賞後は夜ご飯へ。おそらくダルマという店。会話がうまくできなくて苦しかった。たくさん名刺をいただき映画や会社の話をし、初めてスナックに行って初めて焼酎の水割りを飲んだ。特に苦くもなく不味くもなく、こんなもんかと拍子抜けした。
・夜中の3時に食べたうどん。クリープハイプになって仕事休もうかな
・昼食の店にいた寄り集まるウツボ。