フー・ファイターズ

Netflixの配信スケジュールの中で、僕がすっごくすごく楽しみにしていた映画があった。それは、『STUDIO 666』というアメリカのホラー映画である。アルバム制作のために曰く付きの一軒家を借り切ってレコーディングを始めたバンドマン達がギャー!…という、別段、意外性の無〜い感じがするホラー。しかし、この『STUDIO 666』の他の追随を許さぬ意外ポイント、それは主演が本物のフー・ファイターズの面々なのだ!
2年くらい前から、バンドのSNSで制作中の映像が出てて、はじめは、得意のおふざけMVだと思っていた。だけど、どうもその質感やボリューム感が違うな、と気付いた。そして徐々に長編の劇映画を作ってるぽいぞとわかってきたのだ。
こんなの絶対日本では観れないだろうな〜、観れても字幕とか無しで英語で観れるかどうかだろうな〜、なんて思っていたけれど、存外早い!しかもちゃんとNetflix配信(もちろん字幕もあり)で観れるように整うとは思わなかった。

で、11/27、配信開始の日に鑑賞。いやあ良かった。笑ったし、ちょっと泣けた。何にって、バンドでこんな本気のバカに取り組めるって素敵だなあってしみじみ。あと生きているテイラー・ホーキンスの姿が見られるのもね。
ホラーコメディではあるけれど、安っぽくないし、みんな演技がうめえのだ。そして、想像してた以上にゴア表現がゴアッゴアのゴアだった。冒頭からギョッとさせられた。僕はホラー好きだけど、ゴア好きというわけではないので、普通にビビる。でも不必要な気持ち悪さではなかったし、しつこくは見せないので助かった。

この人たちは、きっと仲良しなんだろうなと思う。でも、そのための努力も絶対あるはずで、メンバー間の不和、ソングライターの王様化、アイディアの行き詰まり…そういう色んなことは起こるのだろう。外側からどんなふうに見えてても、問題がゼロの家庭なんてそう無いよね、ってのと同じく。
だから、この映画もそんな“努力”のひとつのような気もする。ラストのソロオチも含め、バンドがリアルに直面したことのある(かもしれない)悩みや不安や問題を、自分たち自らが思いっ切りフィクションにぶつけて、相殺しているように感じた。本人が演じてるのに、カッコつけるどころか、それぞれに変人だったりイヤな奴なのが味わい深い。あと音楽業界いじり。普通の映画でなら普通だけど、世界的なロックバンドで音楽ビジネスど真ん中のこの人たちがこれをやるんだ…という可笑しさと皮肉。ただのホラー作品でも、ただの金をかけた気まぐれなおふざけでもない、のっぴきならない真剣さが宿っているぜ、と、勝手に受け取ったのだった。

僕はフー・ファイターズが好きだ。
最近の作品はあまり聴かなくなってしまったけれど。なんだか全部がゴリゴリして、ギターの音が飽和しているように聞こえるのだ。だってギター3本は多いよ。だけど仕方がない。そこも含めてそれでもやっぱり好きだなと思っている。

初めてフー・ファイターズを聴いたのは、『A320』という曲だった。
それはまだ岩手県の田舎に住む中学生の頃、ローランド・エメリッヒ監督版『ゴジラ』のオリジナルサウンドトラックに収録されていた。そのときは、「アメリカの映画のサントラにラルクの曲使われてんだすげえ〜」という興味で買ったのだが、この「Foo Fighters」という人たちの曲に不思議と心を掴まれたのだった。(実は他にも、Ben Folds Fiveとか、Jamiroquaiとかも入ってて面白かった)映画の内容は忘れた。その後、『X-ファイル ザ・ムービー』のサントラにも1曲入っていて、ついにバンドの2ndアルバム『Colour & The Shape』を買い求め、しっかり好きになったのだった。(このときの僕はニルヴァーナの“ニ“の字も知らなかった!)
ライナーノーツを読んだりしながら、ギタリストのパット・スメアという人が、「ツアーで飛行機に乗るのが怖い」という理由で脱退したことを知る。ここで「あれ?」と思った。『A320』は、歌詞対訳を読むと、明らかに飛行機への恐怖を歌っているのだ。そうか、これはこのメンバーが主人公の歌なんだ。そう思って聴くと、より美しい歌だと感じた。

高校生の頃は、いくつかの曲をコピーしたりした。あまり周りにファンがいなくて、ひとりでCDを聴いて、海賊版のライヴVHSを買ってみたりしていた。ニカッと笑って周りを元気づけてくれるデイヴ・グロールの存在感はやっぱり素敵で、あぁいつか生身で会ってみたいもんだな、なんて思いながら、バンドの変遷をチラ見し続けていた。
VHSが、DVDになり、my spaceになったり、YouTubeになったりして…ある日、気づくとライヴ映像にギターを弾くおじさんがひとり増えていた。昔々のMVの中で見たパット・スメアの面影がそこにあった。正式メンバーとしてカムバックしたのだ!どんな経緯か知らないが、誰か辞めるからとかじゃなくただ増えるって…なにはともあれ、素敵じゃないか。飛行機はもう乗れるようになったんだねえ!

僕としては、正直、フー・ファイターズにギターは3本は機能してない感じがする。だけど、もう良い。それで良いの。「もっと他に大事なものがあるんだ」って言われてる気がするから。

自分自身を演じながら、いがみ合ったり、血みどろで殺し合ったりする彼らの姿はめちゃくちゃ楽しそうで、反面、結束力の強さと音楽愛を垣間見たような気持ちになる、不思議な映画だった。
映画作品として何年も評価はされ続けないかもしれないけれど、フー・ファイターズというバンドの表現した作品の一部として、アルバムや曲と一緒に残っていくといいね、と思う。

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