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棟梁の流儀とヘンテコリン住宅

年始の挨拶と家づくりの報告を兼ねて、某工務店の棟梁のお宅へお邪魔した。さすが日本の伝統建築の様式。腕の良い大工さんが良い木を使って緻密な仕事をし、手入れも欠かさず生活すれば、築30年でもこんなに美しいものかと複雑な気持ちになった。ウチ築30年のボロ借家。

書院造りの和室に通され、床の間の掛け軸に圧倒され、帰りたくなった。(というのはウソ)『天照大御神』の書に背筋がピンとなる。視線を頭上に移すと、規則正しく造られた碁盤の目の碁天井(ごてんじょう)とその周りを囲むように、節がバランス良く配置された竹細工、鴨居の上には立派な花鳥の彫刻欄間。
これでもか!と言わんばかりの圧倒的和室。

そんな由緒正しき和室にて、緊張せずに済んだのは、テーブルがフツーのコタツだったことと、お孫さんのおもちゃが棚の中にごっちゃごちゃに詰め込んであり、それらで「遊んでいいよ~」と奥さんから言ってもらえたからだ。

ここは、夫が10代~15年間勤めた工務店の棟梁(親方)の家。ほぼ親。ほんとの親より親。夫が10代の見習いの頃に初めて携わった建築でもある。朝6時~18時まで、ひと月25日ひたすら掃除と雑用の日々、月給はわずか8万円の頃だ。(労基もビックリの真っ黒具合。)

日本の伝統的な木造建築技術を一から習ったお師匠さんにウチらのヘンテコリンな家の件をどう説明する。

親方が腰抜かさないよう、あらかじめ電話でセルフビルドの話をざっくり説明すると「お~おめでとう!それなら柱の1本2本やるから。」と有難いお祝いの言葉を頂いた。しかし、柱の1本2本というのは、建築業界では床の間の床柱や大黒柱のことである。

夫「和室無いんですよ。」

親方「はぁ?」

まずは電話にて一発目のボディーブロー。

夫は親方に直接スマホでイメージ画像を見せ、図面を広げ「カフェみたいな店舗に風呂がくっついたような家。あー家じゃない。店、店に住みます。」と説明した。あまりにも説明が雑過ぎやしないか。

この道ウン十年の素晴らしい技術を持っていらっしゃる師匠に理解してもらおうだなんて1ミリも思ってない夫は、あえて「店舗に住みます」と一瞬でトドメを刺すような説明になった。残酷だな。

親方は図面を見ながらしばらく黙り込んだ。

奥さんが「いいじゃないの今風で。和室なんてもう要らないのよ~。ほらぁ、あなたもぅダメなのよ頑固にしてたら。若い人のやり方も受け入れないと。」と。
75歳から見て私達はまだまだ若い。

夫へ仕事の電話が入り部屋を出ていくと、親方は30年前の話を聞かせてくれた。

「建材屋が高品質の部材が新登場したのでこれ是非使って下さい!30年は確実に持ちますから!って商品売り込んできたから、その部材使ったんだよ、そしたら20年経つ前に劣化して使えなくなっちまって、お客さんに怒られてよぉ。だから新しいもんは信用できねぇんだよなぁ。最近の軒の無ぇ家なんて10年後どーなっちまうか分かんねぇよ。まぁオレは死んでくだけだけどよぉ。」と、今時のシャレた狭小住宅や建築部材、工法を「おっかねぇもんだ」ととっくに心を閉ざした模様。

建築ド素人のなんでもない私だけど、なんとなく分かる。

手土産に老舗和菓子屋とか高級洋菓子店のものじゃなく、あえて自家製のこだわりの詰まった伝統製法梅干しを瓶に詰めラッピングして渡したのは、親方の昔と夫の今を繋げたかったからだ。

伝統的な軸組の木造建築とツーバイ高断熱高気密、軒無し、ガルバの家。
自然素材、合成化学素材、何を選択しどんな家が良いのか。
正解探してたらキリが無い。
土地、気候、建てる職人、住む人間、目的。

ありとあらゆる情報に惑わされずに、いくつになっても自分なりに楽しんで生きたい。

絶賛ヘンテコリンな家つくってます。

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