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東京にいる意味

私は高校を卒業してから、地元を出て東京の大学へ進学し、10年間、東京に住んだ。

そして3年前、地元に戻ってきて今に至る。

東京に住んでいた頃の最後の2年間くらいは、地元に帰ろうか東京に居続けるか悩みに悩んで、ようやく決断して、帰ってきた。

そもそも東京の大学に進学した理由は、とにかく家を出たくて知らない土地に行ってみたい、という好奇心からで、その後東京に居続けるか、地元に帰るかは特に決めていなかった。

そして就職活動の時期になり、目標ができた。
有名アパレルブランドの本社勤務をすること。

どうしてもこの夢を叶えたかった。
そのためには、東京に居続ける必要があると判断した。

何年かしてその夢が叶い、アパレルブランドの本社勤務で働き続けて、なんだかこれが本当にやりたいことなのか、だんだんわからなくなってきた。

別に仕事は楽しくないし、かと言って他のアパレルブランドでやってみたいとか、他の仕事をしてみたいとか、そういう意欲があるわけでもない。

毎日楽しくない仕事をして、休日を心待ちにするんだけど、いざ休日がやってきたら泥みたいになって。気づいたらまた、月曜日の朝がやってくる。
その繰り返し。

それでも生活するにはお金が必要で、東京で息してるだけで、毎月10万円以上かかっていた。
お金を稼いでも、半分近くを生活するためだけに消費する日々。

だんだん、東京にいる意味がわからなくなってきた。
その頃にはすでに目標も、楽しみも無くなっていた。


私の地元は一応、日本のまぁまぁな都市に位置してて、都会の中心部まで、私の実家から1時間もかからずいけるので、地元に帰っても仕事に困ることはないことは分かっていた。

幸い親とも仲が良く、幾度となく「こっちへ帰っておいで」なんて言われるものだから、私はだんだん地元に帰る方向へ気持ちが傾き、悩んだ末に決断したのだった。

そしていざ、地元に帰る時が近づいてきた。
だんだん、自分の気持ちが複雑になってきたことに気がついた。

やっぱり東京にいたいとか、早く地元に帰りたいとか、そういうことじゃなくて…
いいようのないこの気持ちはなんだろう?

なにか、自分の気持ちが整理できてないようなひっかかりがずっとあって、それがなんなのかが分からなかった。

そして地元へ帰る日。
空っぽになった部屋で、新幹線に乗る為の出発時間になるまで過ごす。

ああ、本当に東京を離れるんだな。
そんなことを実感した時、急に涙が出てきた。
涙が止まらなくなって、がらんとした部屋でわんわん泣いた。

その時にようやく私は、自分の気持ちに気がついた。

20代のほぼ全てを過ごした東京。
キラキラした思い出も、辛かった思い出も、私の青春時代のすべてがつくられた場所。

でも、私は10年間も過ごしてきて、最終的に東京にいる意味を、見つけることは出来なかった。


仕事でも恋愛でも友達でも趣味でも。
なんでもいいけど、「これがあるから私は東京にいる」っていうそのなにかを、私は本当はきっと、ずっと欲しくて、探し続けていたのだ。
でも、見つからなかった。


別に地元に帰ったところで、そのなにかが地元でなら見つかるだろう、という期待もなかった。
でも逆に、そういう「ここにいる意味」がなにもなくても、無条件で居れるのが地元だと思った。

本当は、東京にいる意味を見つけたかった。
きっとずっと、探していた。
「見つかってたら」
ずっと東京に居たかった。

自分の中のひっかかりの原因がわかった頃には、自分は新幹線に揺られていた。



今まで何度も地元に帰るために新幹線へ乗ってきたけれど、私はもう、東京にもどることはないんだなあ。

そんなことを考えてセンチメンタルな気持ちになりながら、何度も新幹線で往復して見慣れていた田園風景なんかをぼうっと眺めていた。

ふと寂しくなって、また涙が流れてきた。

そりゃそうだ、寂しくなって当然なのだ。
10年も住んでいた場所を離れるんだから。

隣に座ってる人に気づかれないように、そっと涙を拭った。


地元に着いた頃には涙も乾いて、気持ちはようやく落ち着いて、最寄り駅まで迎えにきてくれていた母の姿を見つけたらすっと肩の荷が降りて、ほっとした気持ちになったのを覚えている。
やっと、「東京にいる意味を探す日々」は終わったのだ。

東京が嫌いになって、地元に帰ったわけではないし、今でも自分にとっては大切な場所であることは事実だ。

東京はなんでもあって、色んな人もいて、仕事もある。
ここでしか体験できないことがたくさんある、魅力的で特別な場所だ。

でも私は地元へ帰ったこの決断を、今でも後悔していないし、これで良かったと思っている。


東京という場所は、「東京にいる意味」を自分の中で見つけることが出来なければ、住み続けるには難しい場所だということも、10年かかって分かったことだった。

少なくとも、私にとっては。

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