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さようならは笑顔で


『あと、1ヶ月以内にあなたの目は見えなくなるかもしれません……』



そう、宣告された。
私の頭の中は真っ白……

"え?なんで……"

"おかしい"

"理不尽……"

そんな言葉。

なんでよ……前まであんなに、普通の生活をしてたのに……
『可笑しいです…きっと、診断ミスとかでしょ…』
と、か細い声で出たその言葉はきっと、私自身に言い聞かせていた言葉。
『何度も検査しました。何度も確認しましたが……』
と、医師が言葉を詰まらせる。
きっと、次に出る言葉は私が絶望する言葉なのだろう。
私が待ち望んでいる言葉では無いのだろうと、その場の雰囲気でわかった。
『……ですよね。そうですよね』
視界が涙で曇る。
あー、凛になんて言えばいいんだろう。
と、ふと頭をよぎった。
そこからは、考えが止まらなかった。
私の大切な人を悲しませたくない。
泣かせたくない。

最後くらい、私が見えるあなたの顔は笑顔でいて欲しいから。
言わない。
言わないでおこう。
だって、きっと貴方にいったら、あなたは、悲しむから。
だから、死ぬ間際の猫ちゃんも飼い主のことを思って、居なくなるって言うし、私もそれ同様に、彼氏の凛くんの為に、目が見えなくなる前に居なくなります。
そう、心に決めた。

病院を出てからは、足取りが重く、家に帰ることを何度も々々も、躊躇った。
だけど、きっと帰らなかったらその分、凛くんが悲しむから。
そう、思い、家の鍵を開ける
『ただいまー』
そう言うと、
『あ!おかえり!!』
そう、玄関に響く彼の声。
ひょっこりと頭を出しているのだろうか…よく、見えない。
『大丈夫?』
そう、近くに来て、その瞬間彼の顔がはっきりと見えた。
うん!!!と、元気な声で言うと凛は微笑んだ。
嗚呼、この顔を見られるのはもう、1ヶ月もないんだ。
あなたが、笑う度に細まる目も、ぷっくりと浮き出てくる涙袋の感じも、きっと全て忘れてしまうんだ。
忘れたくないよ。あなたの顔を見ていたい。
あなたの服のセンス好きだったのに。見れなくなるのは悲しい。
『今度デートしよ?』
『今度??』
『うん!出来れば今週中とか』
『いいよ!!!』
そう、可愛く微笑む彼の姿が愛おしい
あと、数週間で貴方の姿が分からなくなる、
あなたの声は認識できても、あなたの存在というものに触れるのが手探りになる。

約1週間後  8/14


最近、時々視界が暗くなる。
それは、もう、真っ暗になってしまう。
段々と目が衰えていくのを感じる。
今では、1m先のものが見えないの。
私は、紙を開いて文字を書く。
凛へ
これを見てる頃、きっと私は……
そうペンを走らせていた時。
がたんッ……と音がする。
それからは、一向に音がならなかった。
近所の人か……そう思い筆を走らせる。

すると、視界がばちんッと糸が解れるかのように真っ暗になった。
あー……やっちゃった…
目をぱちぱちさせて、安静にさせる。
すると、視界がぼやけているが、見えてくる。
すると、ただいまー!と声がした。
あ!おかえり!!といい、書いていた紙を直ぐさま自分の部屋に持っていく。

あと、2日でばいばいかもな……
そう、心の中で決める。


『2日後さ、一緒にお家デートしない?私たち休みだし』
いいよと、答える凛。
あぁ…そろそろ凛の顔も見えなくなってきたな……
心の中でそうぼやき、彼に抱きつく。
なぁに?くすぐったいと、そう笑いながら言う彼。
『大好き。愛してるよ?』
そういうと、俺も愛してる。そう言われる。
嗚呼、この人と一緒に幸せになりたいな。
目が見えなくなっても、あなたの手で私を包み込んで欲しい。
死ぬまで、あなたの隣にいたいなぁ……
あなたの愛はどうにも、盲目になる病気だけでは完結出来ないほど、きらきらした思い出ばかり…


2日後
今日がさようならの日。
上手く、笑えるかな…
もう、目はほとんど見えない。
『今日は、凛くんに渡したいものがあるの。』
え?!なになに??と、興味津々な声で言う彼。
はい、どうぞ。そういい渡した手紙。
『あ!まだ開かないでね。』
そういうと、彼は鼻声でもちろん…開いてないよ
『え?泣いてる?』
そう聞くと、彼は泣いてないよ〜と、笑いながら答える。
あれ……手紙を書いてたあの日の物音って……
『もしかして……知ってるの??』
私が恐る恐る尋ねる。
『え?なんの事?』
知らないふりをしてくれてる……
『そっか…じゃぁ、私ケーキを取りに行ってくるね』
貴方の嘘なんて、分かりやすいよ。
何年居たとおもってるの、馬鹿…
『そっか!!またね!!!』
そう、微笑む。
嗚呼、私のおねがいも聞いてくれるの…優しいねほんとに。
『うん…さようなら。』
そう、言い扉を開く。
嗚呼、好きだな。大好き。
『あ……』と、凛が言い残したかのように言う
『行ってきますのキスは?』
いつもの会話。
その何気ない会話が、私の涙腺を刺激する。
私の手を引いてキスをする。
深い、深いキス。
嗚呼、私の手を引いたのもきっと、私の目がもう見えないのを知ってるから?
『はい、行ってらっしゃい。ケーキ楽しみにしてるね。』
『うん……ばいばい』
きっと、最後の声は涙が溢れて小さくなってたな……ごめんね。
『さようなら…』
目は見えなくても、耳は聞こえるからね……ばーか。
扉越しに聞こえる、凛の泣いてる声。
幸せになってね。
私の大切な人。
まぁ、運命の人はこの世界に2人いるって言うし、その運命の人と結ばれてくださいよ。
ぶつんッと視界が真っ暗になる。


嗚呼、ついに来ちゃったか……
もう、あなたの顔も忘れちゃうんだな。



色鮮やかだった世界に私はもう、居ない。



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