ミュージカル「この世界の片隅に」~歌唱指導の視点から~(6)
アンジーのもう一つの新しい試み
今回のミュージカルを作るにあたって、アンジーの新しい試みは他にもありました。それはミュージカルのために制作した楽曲をリアレンジし、自らが歌唱するNEW ALBUMを作ることです。これは「アーティスト」アンジェラ・アキにとって12年ぶりのオリジナルアルバムですが、同時に「ミュージカル作家」としての1stアルバムになります。
(ちなみに、こういったスタイルの音源が制作されるのは日本ではまだ珍しいですが、欧米ではポピュラーだそうです)
今回の楽曲達をレコーディングするのに欠かせないもの。
それは「コーラス」でした。
「いわゆる"スタジオミュージシャン"の方達に頼んでも良いのだけれど、作品の内容を良くわかっていて、存在感のある役者のみなさんにお願いしたい」
ということで、2023年1月のワークショップに参加してくれた俳優の飯野めぐみさん、平川めぐみちゃん、小林遼介さん、中村翼くんにコーラスをやってもらうことになったのです。(飯野めぐみさん、小林遼介さんは本公演にも出演)
4人の手練たち。
コーラスのレコーディングは2023年9月と10月の2回に分けて行われ、歌唱指導の私とジュンコはコーラスディレクションを担当することになり…
ワークショップの譜面からレコーディング用の資料を作り直したり、
「どういう手順でレコーディングを進めるか、何をエンジニアにオーダーするか」
「4人+アンジーの声をどうやったら大編成クワイアのように聴こえさせることができるか」を2人で必死で考えました。しかも前半9月のレコーディングはスケジュールの関係でアンジーはアメリカにいて不在です。
その結果、いいめぐさん、めぐちゃん、ロイさん、翼くんの4人にはかなり無理をさせてしまいました(苦笑) それぞれ自分の音域を超えたパートまで歌ってもらったり、人数感を増やすために色んな声で何度も歌ってもらったり。のちにジュンコとインスタライブをやった時に発覚したんですが、いいめぐさんには超高音から男声パートまでやってもらってみたいで…(汗)。
しかしこの4人の手練たちは嫌な顔ひとつせず、我々の無茶振りにも素晴らしいクオリティで応えてくれました!本当にすごい!!
(3)で書いたような譜面に書かれてない音も全部デモを聴き込んでとってきてくれて、現場では「もう3歳若い感じで」「ちょっとオペラ調で」「ハーレムのゴスペルクワイアになったつもりで」「20kg太ったイメージで」「もっと細く切なく」などの漠然としたオーダーにも、scoopやglottal (今後説明します)などのテクニカルなオーダーにも即座に応えてくれて、、、
楽曲自体はワークショップでも歌った曲達ですが、「芝居込みの舞台」で披露するものではなくポップスとしても聴かれるアルバムのレコーディング作品として歌う。それは彼らのような柔軟な姿勢と「ミュージカル」「ポップス」両方のスタイルを歌いこなせるスキルがあればこそできるもの!
彼らのプロフェッショナルぶりもさることながら、何より楽曲を愛してくれて大切に思って歌ってくれている。それがひしひしと伝わってくるレコーディングでした。いいめぐさん、めぐちゃん、ロイさん、翼くん、ありがとう!!
THE FIRST TAKE。
そんな彼らの歌声はアルバム『アンジェラ・アキsings「この世界の片隅に』だけでなく、YoutubeのTHE FIRST TAKEでも聴くことが出来ます!
レコーディングではダビングといって、何本も音を重ねて録ることができるのですが、THE FIRST TAKEは全員せーのの一発勝負。多重録音作戦が使えないため、ここでもまたアレンジに工夫が必要でしたが、いいめぐさん、めぐちゃんの"ダブルめぐみ"女性陣がアイデアを出してくれてうまくいったんですよ🎵
こうして2022年の後半から手探りで始まった私たち歌唱指導の仕事も1年を超え、2024年の3月。
いよいよ本舞台の稽古をむかえようとしていました。
(続く!)