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【file1.授乳婦さんのお薬】

研修中での失敗と学び


 薬剤師として調剤薬局で働き始めて間もない頃の冬、新人の自分は「投薬中聞かれたけれど分からないことがあったらいつでも聞いてね」という先輩の心強い後ろ盾の元、患者様にお薬をお渡ししていた。
 そんな最中投薬を任せられたお薬【般】セルトラリン塩酸塩錠25mg、投薬台に立ち、いつものように患者様をお呼びする。目の前に立ったのは30代前半の女性、継続して使用しているお薬なので飲み方は軽く流し、何か副作用がないか聞き取りして、体調の波がないかお伺いすればお薬のお渡しは終わりのはずだった。
 締めの一言「何か気になることはございませんか」続く相手の言葉は「授乳中なのですが、こちらのお薬を内服しても良いものですか」
 これは想定外であった。
 いくら大学で勉強をしてきたといえど、そんな質問にはすぐには答えられない。目の前にある優秀な頭脳から先発品の添付文書を開き、授乳婦の欄を参考にすると
「治療上の有益性及び母乳栄養の有効性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。(以下略)」目の前のパソコンの大先生が出した結論は、新人がサッとお悩み解決するには無慈悲な、放り出されてしまったような内容であった。
 新人の私の放つ第2の矢は、心強い後ろ盾こと頼れる先輩にご相談だ。当時帰ってきた返答は有無を言わさずこれをいえば納得してくれるだろうと思える回答だった。
「授乳とタイミングをずらして使っていただければ問題ないと思います。気になるようでしたら人工のミルクを使うことも考えてもいいと思います。」
これだ。きっとこれが満点回答なのだと思い患者さんにそっくりそのまま伝言ゲームをしたところ、怒って帰られてしまったのだ。
 この方の質問の意図は正確には汲み取れない、だがしかし薬剤師としてこのまま授乳の安全性を曖昧にするわけにはいかない、そう思った。



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