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牛から考える、これからの地球――私たちは100年後の地球のために何ができるのか(前編)

みなさん、こんにちは。牛ラボマガジンです。先月よりはじまった牛ラボマガジンですが、牛ラボマガジンでは「牛」を中心としながらも、食や社会、それに環境など、様々な領域を横断して、たくさんのことを考えていきたいと思っています。今回は大きな視点をいただくために、「環境」の視点で専門家の方へのインタビューを実施しました。

ご協力いただいたのは、東京大学大学院農学生命科学研究科動物細胞制御学研究室の高橋伸一郎先生です。高橋先生は、地球を守る科学者「地球医」の輩出をめざすOne Earth Guardians(※以降「OEGs」と表記)育成プログラムという教育・研究プロジェクトの立ち上げ、運営に関わられています。
高橋先生には、「牛から考える、これからの地球」をテーマにお話をお伺いしました。前後編にわけて、インタビューの様子をお届けします。今回はその前編です (後編はこちら)。

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──高橋先生は応用動物科学の研究をされていますが、そこからOEGs育成プログラムのような活動へ広がった経緯をお伺いしてもよろしいでしょうか。
5年ほど前から、東京大学の理科系1年生の前期必修授業「初年次ゼミナール理科」を受け持っています。「私達の身近にあるわんぱくなタンパク質を科学する」(「わんぱくタンパク」と呼ばれています)と題したこの授業では、専門知識のない方々にも「タンパクすごいぜ!」ということを理解してもらえるツールをつくることがゴールになっています。
この授業は、active learningという教育手法を取りいれており、一クラス20人の学生たちがチームに分かれ、それぞれが選んだテーマで企画・調査・発表を行います。学生たちが興味をもつ生物は、魚、植物、哺乳類など、そして選ぶタンパク質も多岐に渡ります。そのため、現在、全く異なる専門分野の教員8人、teaching assistant(TA)3人がサポートしています。それぞれの専門分野からいろいろな意見が出るため、私も専門外の知見を得ることができ、毎回、たくさんの発見があります。
その授業を一緒に進めている仲間を中心に、普段から分野を超えた知識の共有ができないか、その組み合わせを活かし全く新しいことに挑戦できないか、という話になり、そこで行き着いたテーマが、地球のためになにができるか考える「One Earthlolgy(地球医学と名付けました)」でした。

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──OEGs育成プログラムは100年先の地球を考える活動ですが、日本人は欧米諸国に比べても環境問題への感度が低いなど、将来への危機感が薄い民族なのではないかと感じることがあります。
そもそも、なぜ日本人が将来を想像できないのか。それは、江戸時代に原因があるのかもしれません。江戸幕府は環境への配慮も含め(江戸時代の知恵をエコモデルとして現代に活かそう提案もされているくらいです)、村ごとに厳しい統制を効かせ、秩序を維持していました。ある意味、お上のいうことに従っていれば良いという世界観だったと思います。ところが近年になって、日本は、人口が増え、急速に経済成長し、個々の価値観を大事にする教育・行政へと大きく舵を切ったため、カオスな状態になりました。一方で私たち自身には、未だに中央集権的な精神性が強く残っている、言い換えれば、特に俯瞰的な決断が必要なことには、上の指示にしたがって他の方と同じようにしていれば良いと考える思考形態が残っている気がします。島国という地理的な特性上、国民に日本人率が高いということもこの傾向を助長しているかもしれません。国が「100年後」に対して真剣になっていない現状では、個人レベルで何かを考えて始めるという気持ちになるところまで成熟していないと言えるのではないでしょうか。
そんななかで、国民の「科学リテラシー(適切に理解・解釈・分析し、活用すること)」を上げることは、OEGs育成プログラムの大きなミッションです。当たり前の話ですが、全体を見なければ正しいことはわかりませんし、その評価は科学的である必要があります。具体的にいえば、自分が参考にしているデータは完全な情報なのか、感情的な結論ではないのか、などを自分で考えて評価し判断を下して、実践できるようになること重要であると思っています。

──100年後の地球のために、どういった活動を展開されるのでしょうか。
食物連鎖という考え方だと、人類はピラミッドのてっぺんにいるように感じますが、見かたによっては、一番下の一番弱い生物だと言うこともできます。食糧としての植物や動物がいなくなったら、人類は最初に地球からキックアウトされる生物なのです。そういう意味では、人間が思っているほど、地球はやわではありません。人間が消えたとしても、地球は何も困りません。いわば地球は人間に場を貸している「地主」です。しかし、「人間が地球をコントロールしている」と思い込んでいるような行動はいろいろなところで見られます。
OEGs育成プログラムでは、過去の反省は必要ですが、過去を批判せず未来に何ができるかを考えることを大事にしています。私を含め誰もが、地球に負荷をかけてきたことは、皆さんが認めるところで、その上に現代の人間生活が成り立っています。今、原始の生活に戻れるかと訊かれても、誰もその選択は取れないと思います。だからこそ、ただ過去を批判するのではなく、なにか科学的に地球にペイバック(払い戻し)をする方法を考える必要があります。そのためには、これまでの知見や情報、考えをシェアし、そこから、自分たちができることはなにかを皆で一緒に考えていくことが最も重要と考え、これを実践する活動を推進しています。自然科学だけでなく、経済学や社会学、それに人文科学などの専門家、学生や教員だけでなく、官僚、企業の方々、そして一般の方々を巻き込んだ活動をめざしているところです。

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後半に続く)

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インタビューに答えてくれた方
高橋 伸一郎(たかはし しんいちろう)
東京大学農学系研究科博士課程を修了後、東京農工大学農学部助手、ノースキャロライナ大学医学部研究員、東京大学農学系研究科助教授を経て、東京大学大学院農学生命科学研究科教授。専門は、分子内分泌学。動物が環境に応答してどのように生命を維持しているかを、生体内の情報伝達機構の観点から研究・教育しています。その過程で、この仕組みを使って高品質食資源動物が作れることを見つけ、その利用にも関わっています。研究室のURL http://endo.ar.a.u-tokyo.ac.jp

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(執筆:稲葉志奈、編集:山本文弥)