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起業家が語るシード期のリアル|「第3回 5億円超えNight」イベントレポート

こんにちは、千葉道場ファンドです。2023年3月28日、渋谷の弊社コミュニティスペースにて、『第3回 時価総額5億円超えNight!』を開催しました。

本イベントは、起業準備中の方やシードラウンドの起業家を対象とした、資金調達成功のためのノウハウを学ぶことができる勉強会です。「起業/資金調達したとき、どういうことを考えていた?」をケーススタディとして学んでいただける内容となっています。
第1回、第2回と、現役起業家から起業・資金調達のリアルを学べると好評を受け、イベントもシリーズ化。今回は3回目の開催となり、約20名の起業準備中・シード期の起業家の方々に参加していただきました。

今回は、千葉道場コミュニティに参加し、最近調達を終えられた現役起業家2名と、千葉道場ファンド・プリンシパルの廣田が登壇しました。起業や資金調達で直面した悩みや課題、その乗り越え方を語り合いました。この記事では当日の模様をお届けします。

今後も同様のイベントを開催していく予定ですので、本イベントレポートを読んでご興味をお持ちになった起業家の方・起業準備中の方がいらっしゃいましたら、ぜひ参加をご検討ください!

1. ゲストスピーカー紹介

1人目のゲストは株式会社ukka 代表取締役の谷川佳さん(Twitter@kei_tanigawa)。大学卒業後、PR・マーケティング会社にて食品企業や地方自治体案件に従事。その後独立し、農産・水産物のオーナー制度プラットフォーム「OWNERS」を立ち上げました。2017年9月に株式会社ukkaを共同創業し、ピボットを経て食品製造サービス「FOOVEST」を開始し現在に至ります。

中央:株式会社ukka・谷川佳さん

PR会社に勤めていた際、全国各地の自治体や生産者と関わる機会がある中で、「こだわりを持って良い生産物を作っている方がたくさんいるのに、その情報が消費者へ伝わっていない」と一次産業の課題を感じ、ukkaの初期事業「OWNERS」を設立。サービスのクローズを経て、今の事業である食品製造プラットフォーム「FOOVEST」をリリースしました。「食産業の希望となり、未来を導く」をミッションに、食品小売企業の独自性強化につながるオリジナル商品の企画・開発・製造を一気通貫でサポートしています。昨年末にはプレシリーズAで総額2.9億円の資金調達を完了し、さらなる事業拡大を目指しています。

2人目のゲストは、株式会社Domuz 代表取締役の髙木弘貴さん(Twitter @hiroki_tkg)。大学卒業後、タイのバンコクにて旅行系スタートアップを創業。その後、ベトナムのホーチミンでSPARK X LAB( 現: REAPRA Technology)の現地法人の代表を務め、2018年に帰国し、株式会社Domuzを創業しました。

右:株式会社Domuz・髙木弘貴さん

もともと熱狂的な観葉植物好きだったという髙木さん。2020年の夏頃からコロナ禍で「おうち時間」が増え、観葉植物を買ってみたいという人から相談を受けるように。そこで「植物が欲しいと思う人の購入ハードルを下げてあげられるようなサービスってできないだろうか」と考え、Domuzの創業に至りました。「部屋に、眺めを。」をコンセプトに観葉植物・花のD2C/ECサイト「AND PLANTS」を運営を行い、植物・花との素敵な暮らし、魅力を広める提案を行なっています。2023年3月に1億円の資金調達を終えています。

3人目の登壇者は、千葉道場ファンド・プリンシパルの廣田航輝。新卒でSBIインベストメント株式会社に入社し、ミドル、レイターステージでリードインベスターとして新規投資、投資先支援、EXIT業務に従事。2020年11月千葉道場ファンドに参画しており、生粋のキャピタリストとしての視点から、本音を語りました。

左:千葉道場・廣田 航輝

そして司会は千葉道場ファンド・ベンチャーキャピタリストの木村が務めました。新卒で入社した証券会社を経て、2016年にシリコンバレー発のスタートアップメディア「TechCrunch Japan」へ編集記者として参画。約5年間でスタートアップへの取材、副編集長、「TechCrunch Tokyo」の企画運営を経験し、2022年7月より千葉道場ファンドに参画しています。

2.「受託事業をするか、しないか」

イベントの中で、ゲストのお二人の過去の活動の共通点として「受託期間」があり、「スタートアップは受託をやるべきか?」といった話題になりました。ゲストのお二人も、受託について慎重に考えていらっしゃったのが印象的でした。

髙木さんは創業してすぐに、受託をしながら新規事業の立ち上げに取り組んでいました。谷川さんはピボット後、2020年4月から受託の事業期間がありつつ、新規事業を立ち上げています。

高木さんは「戻れるんだったら受託はしない」と言います。

「受託もして自分の会社を続けていくのは資金におけるリスクヘッジとしては一般的とも言われる。ただ、稼げてしまう。そうなると、『それでいいや』と危機感を無くしてしまうのが危険だ」と髙木さんは話します。実際に周りにもそういったケースが多いようです。

「受託を始めるとお客さんと真剣に向き合うため、マインドシェア、心のメモリみたいなものをかなり取られてしまう」という髙木さんの言葉に、谷川さんも強くうなずいていました。谷川さんは「VCさんに報告しながら、利益は出ている、でも何の進捗もない。『いつ事業作るの?』という感じになる」という過去の経験を振り返り、受託をやりながら自身の事業を進めることの難しさを語りました。

受託をすることによって10、20年後に大きくなる新しい事業に力を使えなくなるというリスクがあり、リスクヘッジとしての受託が、自身の新事業の立ち上げ準備への障害になりかねない、というジレンマの存在が、議論を通して伝わってきました。

3.「目的によって意味が変わってくる受託」

谷川さんも、受託期間がありました。そこで意識していたのは、ご自身の事業である「FOOVESTに繋がるような受託をやる」ということ。谷川さんは、起業してすぐでななく、一度資金調達を終えてから、ピボットして、次の事業を作るまでに受託を行なっていたようです。

振り返るとピボットの時、「ある程度の目標があった」と言います。それは「必ず一年以内に、新規事業を作る」こと。その中で、そのままの状態で事業創り出していくというより、前のサービスがうまくいかなかったからこそ、まずは当時の三人のチームとしてとにかく自信を持てるようにしよう、と当時のリードVCと議論。その意味で、受託して一回会社を黒字化し、そこから自分の新事業に移ることにしていました。

谷川さんの事業はBtoB。そのためにも受託を通して、実際の具体的な案件を通しながら、キャッシュボジションも確保すると同時に、事業仮説を構築していくことで一年以内に新事業の立ち上げに向けて活動されていたそうです。

この議論を通して、司会の木村さんは、「髙木さんと谷川さんは受託の期間も違う、フェーズも違う。谷川さんの場合、フィールド内での受託で業界の信頼や解像度が上がったのはメリット?」と投げかけました。

谷川さんは、「開発というよりは事業開発らしい受託」をすることで、自身の事業のフィールド内の業界の解像度に繋げていくようにしていたようです。

また、起業したてでの受託については、「髙木さんもおっしゃっていたように、起業したてでの受託はしないほうがいいかも。起業すると決めたら、背水の陣みたいな感じで事業をとにかく作るのがおすすめかもしれない」と話します。

髙木さんも続けて、「明確なロジックではないかもしれないけど、絶体絶命の時に降りてくる何かや出会いがあったりする。解像度を上げることなどにつなげないと。受託も、目的が何かによって、違ってくる」。

過去の受託業務の経験を振り返って、議論を通して大事なメッセージを伝えてくださいました。

4. とはいえ資金が必要になってくる。最初の資金調達について。

続いてのトピックは、これまでの資金調達について。シード、プレシリーズAでの調達について過去の経験を振り返ってもらい、バリュエーション(キャップ)の決め方、どのように投資家にアプローチしていったのか、資金調達の心得について、をお話ししていただきました。

谷川さんは、創業約1年後の2018年に4,000万円をシードで調達しています。当時VCは入っておらず、錚々たるエンジェル投資家からの資金調達。そこには、当時の共同創業者のパートナーのコネクションが活かされていたようです。

髙木さんが事業を開始したのが2021年5月。約半年後の2022年の1月に4,000万円を調達しました。髙木さんも同様、シードラウンドではVCは入れず、エンジェル投資家からの調達です。起業家の友人への相談や、イベントに参加していくことで、コネクションを築いていきました。

お二人とも、バリュエーションについては調達額から逆算して、投資家と話しながら、決定していったそうです。「エンジェル投資家とお話しするときに、こういう人に入ってもらいというのはあったか」という質問に対しては、それぞれの事業領域での経験や、上場の経験、組織作りの経験という点も踏まえながら、投資家の方を探したようです。

5. もし当時に戻れるなら?

サービスリリースから半年後の初めての資金調達について、「動き出しが遅かった」と髙木さんは振り返ります。「融資(デット)でいけるかな、と思っていた。最初に日本政策金融公庫さんから3,000万円の融資をいただいていて、売り上げも伸びていたこともあり、油断していた」と過去を振り返って話します。「12月半ばになって、デットが引けないということがわかり、やばい、となった」。そこから焦って資金調達を始めた経験があることから、「早く動き出すこと」の大切さを身をもって体験したようです。

コロナ禍により、Zoomでのアプローチが多くなったことで、以前よりは調達に要する期間が短くなった感覚もあると言います。実際に髙木さんは、シードでの調達は全ての投資家さんとZoomのみでの話し合いだったようです。

それでもなお、「シードでは3ヶ月前くらいから動き出す」のがいいのでは、という議題になりました。

投資家の立場である千葉道場の廣田は、「Zoomだけでも決めたことがあるが、1回は直接お会いしたいと思っている。人柄や、雰囲気などがZoomではやはり伝わりづらいことがある」と言います。「千葉道場はコミュニティなので、一緒に活動していくことになる。起業家さんの雰囲気とか、会話のテンポなどを知るためにも、直接お会いしたい」。

「3ヶ月前からの動き出し」という点については、「起業する側の方々とやはり目線は違うかも。シードの場合は、1、2回の話し合いで決めてしまう」と言います。

しかしその一方で、「起業家の方はピッチに慣れなければいけない点がある。ピッチデックがないまますぐに決まるとは言えない。起業家の方から見ると、ピッチの準備をしたり、慣れていったり、本当に投資をして欲しい人に出会うためには、確かに3ヶ月はギリギリなのかもしれない(廣田)」ということを語りました。

一方で谷川さん。「3ヶ月は一つの目安かも。投資家とのコミュニケーションとしては数ヶ月に一回でもいいので、調達の時声かけたい相手がいれば、進捗など共有しておくと、調達本番でうまく決まるかも」と話します。当時良かったと思うことについて、「『最初はこのVCさんで決めたい!』という想いで、ピッチを研ぎ澄ました。結果はダメだったけど、その後スムーズに行くことにつながった」と振り返って話します。

また、谷川さんは、2022年10月に約2億円をエクイティで調達しています。当時を振り返ってみて、資金調達本番の前にも、投資家の方とコネクションを持つことの大切さを語ります。「当時、事業をリリース見て連絡してくれたVCさんが1社いた。そのVCさんとは、月次でMTGとか報告とかもしていた。定期的にお話しし、いざファイナンスという時にガッツリ話し合い。その結果、そのVCさんからの調達には至らなかったが、切り替えて20社くらいVCさんに当たった時、理解してもらいやすくなっていた」。

当時の資金調達での動き方について振り返り、谷川さんは「最初の1社もリードだった。そこがダメだった後はかなり広くアプローチしました。結局いくつかのVCさんからは、リードはできません、というふうに伝えられていたことも。リードが決まると、難色を示していたVCさんにも理解していただきやすい。そういったところではまずはリードだけに絞るっていうのはありだと思っている」。

6. どうやって投資家と出会う?

谷川さんと千葉道場の廣田はどう出会ったのか、という話になりました。当時、ラウンドが始まった1ヶ月くらい前に、既存株主からの紹介で出会ったようです。

ukkaへの投資の決め手について、廣田はこう語ります。「投資家にとっても起業家にとっても、難しいラウンドだったと思う。ピボット後であり、元々あった事業のバリュエーションがリセットされての資金調達だったので。バリュエーションを決定するにあたっての根拠など、難しいところもあったけど、シンプルに事業進捗、事業のトラクションなど、基礎的な指標について議論しました。事業の方向性については、特に密に議論しました」。

実際に、ピボットを経てから、厳しさのあるラウンドだったと谷川さんは言います。

「既存株主から『至難の業です』と言われました(笑)。しんどかった。ピボットした会社が立ち上げる事業でいくらトラクション出ていても、かなり良いトラクション、マーケットの可能性、チームがないと、なかなか期待する評価はいただけないと思っていた。特に食品産業に向けたビジネスで、テックドリブンと言っても、市場エントリーとしては難しい。エンジニアではなかったので、ビジネスモデルで勝負していこうと。そもそも『テック要素弱いよね』という評価がある中で、VCさんにいかに理解してもらうか」そういった部分に難しさを感じていたようです。その中で、どうしても前の事業のバリュエーションがあり、「ダウンラウンドにはさせない」という思いの中、投資家と話し合って行きました。

髙木さんは、2022年の10月にプレシリーズAで、1億円を調達しています。千葉道場が当ラウンドから投資家メンバーに入りました。5ヶ月前くらいから動き出し、シードと比べてはスムーズであったと語ります。「先に半年前ぐらいからVCと会っておく。信頼感にも繋がる。シードの時に廣田さんと石井さんにお話ししたことがあり、実際にオフィスにもきていただいた。それが結構大きかったかもしれません」。

「信頼感」というキーワードが出てきて、それについて投資家目線として廣田も大切な要素だと言います。

「特に千葉道場は投資を採用だと思っているような点がある。採用というのは、コミュニティへの採用ということです。やはり、早くから知っていた方が安心。すでに信頼関係のある誰かから紹介された場合なども、信頼の根拠になります。事業内容、今後の展望ももちろん大事。でも、それ以上に人が大切な世界だと思っている」と、投資家目線からの意見を語りました。

準備期間、シード期の起業家よ、渋谷に集まれ!


本イベントでは、ukkaの谷川さんと、Domuzの髙木さんに、シード、シリーズAの各ラウンドでの資金調達について振り返っていただき、新事業を目指す中でぶつかった課題、投資家とのコネクションの持ち方やバリュエーションの決め方など、ここでは書ききれないリアルなエピソードを、包み隠さず話していただきました。

今後も、同様のイベントを渋谷・千葉道場で開催していく予定です。もし今回の記事を読んで、興味を持っていただけた方がいましたら、ぜひ次回ご参加ください!


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