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起業家が語るシード期のリアル|「第2回 5億円超えNight」イベントレポート

こんにちは、千葉道場ファンド・ベンチャーキャピタリストの木村です。2023年1月19日、渋谷の弊社コミュニティスペースにて、『第2回 時価総額5億円超えNight!』を開催しました。

本イベントは、起業準備中の方やシードステージ起業家に資金調達を成功させるためのノウハウを学べる勉強会です。第1回は資金調達のリアルを現役起業家から学べるとして大盛況のうちに終了。好評を受けて第2回の開催となりました。

今回は千葉道場コミュニティに参加する現役起業家2名と、千葉道場ファンド・取締役パートナーの石井が登壇。起業や資金調達で直面した悩みや課題、その乗り越え方を語り合いました。この記事では当日の模様をお届けします。

ゲストスピーカー紹介

1人目のゲストは株式会社ソレクティブ共同創業者兼CEOの岩井エリカさん。新卒で住友電気工業に入社後、アメリカへMBA留学。複数企業で人事戦略に携わった後、フリーランスの人事コンサルタントとして独立しました。

岩井エリカさん(中央)

日本に帰国した際に「日本企業はアメリカ企業と比べてフリーランス人材を採り入れた組織作りがまだまだ進んでない」と感じ、2020年に共同創業者のウォン アレン氏と株式会社ソレクティブを設立。「フリーランスの価値を証明する」をミッションに、フリーランス向け完全審査制プラットフォームやバックオフィス業務をDXするSaaS型サービスを提供しています。フリーランスのキャリアサポートだけでなく、企業に対してフリーランスや副業ワーカーを採り入れたアジャイルな組織作りを提案しています。

2人目のゲストは、株式会社IB代表取締役の井藤健太さん。学生時代に震災のボランティアで宮城・岩手を訪れた際、「有事において保険金の請求は難しい」「潜在的な保険の請求もれは多い」という問題意識を持ったことがきっかけで、加入保険情報の一元管理ツールを構想します。

井藤健太さん(右)

大学卒業後に生命保険・損害保険の営業やシステムエンジニアを経て、2018年10月に株式会社IBを設立。「保険の請求もれをなくす」というミッションのもと、請求できる保険に気づくためのアプリ『保険簿』を開発。お金と人生に関わる社会課題を解決する仕組みの構築を目指しています。

3人目の登壇者は、弊社千葉道場ファンド取締役パートナーの石井貴基。広告営業やファイナンシャルプランナーを経て起業し、オンライン学習塾『アオイゼミ』をリリース。2019年の千葉道場ファンド立ち上げ時から運営として参加しています。石井は元起業家とキャピタリスト、両者の立場から本音を語りました。

創業初期の自己資金

最初の話題は、シードラウンドの資金調達について。

岩井さんは2000年1月の創業時、共同創業者と500万円ずつ出し合い、自己資金1000万円でスタートしました。「日本政策金融公庫で借り入れてもよかったかも」とは振り返りつつ、「創業時に1000万円用意したことで、シードラウンドのVCに本気度を示せた」とも考えています。

そのシードラウンドでの資金調達は2021年5月。過去に在籍した企業の投資部門や知り合いの起業家にVCを紹介してもらい、たどり着いたのが千葉道場ファンドです。その後J-KISS型新株予約権の発行により6100万円の調達に成功。J-KISSを選んだのは、ひな形が固まっているため契約手続きなどがスピーディーにできることが理由でした。

一方、井藤さんは「起業しようと会社を辞めた時には、貯金が20万円くらい。親や知り合いから初期資金を借り入れて2018年10月に起業し、その後は公庫などから1600万円ほど借り入れしました」と創業期の台所事情を明かしました。

井藤さんが、資金調達手段としてのVCの存在を知ったのは創業後。VCのサイトに設置されている「問い合わせフォーム」から手当たり次第に連絡を入れ、50社以上を巡ることに。その過程で資金調達の仕組みを理解していったと言います。

その甲斐あって、とあるVCから提示された出資条件「保険代理店から1件でも契約を取ってくること」をクリア。2019年7月のPreシードラウンドで、「J-KISS型新株予約権」に近いスキームで3000万円の調達に成功しました。なお、リーガルチェックは創業時から入っている顧問弁護士に依頼。「スタートアップは最初の段階から顧問弁護士に入ってもらう方がいい」と振り返りました。

お二人の調達の共通点として、多くのVCや投資家と面談していることが挙げられます。面談の結果、資金調達につながらなかったとしても「あのVCなら受けてもらえるかも」「あの人に会ってみて」などとつながりが生まれます。そのつながりが結果として資金調達の成功に結びついています。まずは多くのVCと話してみることが大切と言えそうです。

シードのピッチ資料に入れるべき情報とは?

話題は、投資家へのプレゼンに必須の「ピッチ資料」のあり方へ。

岩井さんはシード期から現在まで使っているスライド「2030年における日本のフリーランス市場規模」と「2015年から2030年までのフリーランス市場の変化率」という2つのスライドを投影しながら、ピッチ資料づくりのポイントを披露しました。

「私たちがやろうとしているビジネスの市場規模はとても大きいと示すことで、投資家に興味を持ってもらえます。また、市場サイズだけでなく市場の変化率も示すことで、投資家には魅力を感じてもらえます」(岩井さん)。

石井も「伸びている市場に身を置いている企業は、市場の成長に引っ張られておのずと大きくなるとイメージできます。また、市場の変化率が大きいということは、変化のスピードが速いということでもあり『スタートアップにも勝機がありそうな市場』という印象を抱きます」と、投資家としての視点から大きくうなづいていました。

ほかにピッチ資料に入れるべき重要項目として、岩井さんが強調したのはコンプス(競合企業)という考え方でした。「投資家から『競合となる人材系企業やHRテック企業はどこなのか?』『上場企業と比較して、バリュエーションはどうなのか?』とたびたび聞かれたため、ピッチ資料のなかでもコンプスを意識して盛り込むようにしました」と、その背景を説明しました。

井藤さんもシード期に使っていたピッチ資料をスライドに投影。その1枚は、一面に文章だけが書かれたものでした。

「まるで手紙ですよね(笑)。今思えば、もっとブラッシュアップできたはずです。ピッチ資料の基本構成はわかっていたものの、シードの時にはその構成に沿って記載すべきトラクションやKPIを持ち合わせていなかったんです。そこで、自社と似た先行投資型のスタートアップ起業家に話を聞いたりしてピッチ資料を作成しました」。

また、お二人がそろって強調したのは、意外にもデザインの重要性でした。

「シードの際の投資家は、事業内容に賛同してくれたものの投資を即決してくれませんでした。その理由は、『ピッチ資料がダサいから』。そこでデザインが得意な人にお願いして、資料を作り直してもらいました」(井藤さん)

「世の中を変えるビジネスを行ううえで、ビジュアルはすごく重要。デザインってすごく力がありますからね。ちなみにソレクティブは共同創業者がデザイナーなので、初期からブランディングやデザインには力を入れてきました。スタートアップ企業には創業時から良いデザイナーを起用していただきたいと思います」(岩井さん)

石井は参加者に向けて、投資家としての立場から、ピッチ資料について次のようなアドバイスを贈りました。

「ピッチ資料は情報を投資家に伝えるためのものなので、たとえ文字だけで構成されていても、情報が伝われば問題ありません。ただし、わかりやすく伝える努力はすべきです。特にスタートアップは世の中にないビジネスをつくろうとしているわけですから、そのイメージを投資家と共有するために、ビジュアル面での工夫は必要だと思います」。

市況の悪化を過度に恐れる必要はない

後半は市況についての話題に。

岩井さんのソレクティブは2022年12月、KUSABIをリード投資家として、千葉道場ファンドなど複数の投資家からの第三者割当増資によりプレシリーズA総額約3億1000万円の資金調達を実施。この調達を「粘った成果」と振り返ります。

「2022年夏、マクロの環境が悪化するなか、既存の投資家からは『6億円のバリエーションで、1億円の調達が妥当では?』と言われ、一度は目標を1億5000万円に設定しました。そんな時にKUSABIに出会い、『あなたたちのやりたいことを実現するにはもっとお金がいる。どうすればより多く調達できるか考えてみて』と宿題をもらいました。

そこで、ビジネスモデルを1週間くらいで作り直し、目標を3億5000万円に修正。KUSABIからの1億5000万円の出資が決まり、他の投資家も含めて2億1000万円まではスムーズに進みました。しかし、その後がなかなか決まらない。でも、これから市況はどんどん悪化するだろうし、『せめて3億円を超えるまで』と思って粘りました」(岩井さん)

ここ数年の市場環境について、石井も「悪化している」と語ります。2021年は、リード投資家の出資が決まれば、同じ条件でのフォロー投資もすぐに集まっていました。しかし2022年に入ってからは、フォロー投資家がリード投資家に追随しないことも増えています。特に、2022年末にダウンラウンドでのIPOの事例が増えたのは、VCにとって目を覆いたくなる光景だったと言います。

「このような市況になると、強気なバリュエーションでの出資はしにくくなります。この状況は少なくとも2023年中は続くのではないかと考えています」(石井)

とはいえ、市況の影響を最も大きく受けているのは上場企業や上場前の企業で、シードステージにいる企業に対しては、「バリュエーション3億円くらいまでは許容してくれる投資家も多い」とも語ります。市況に振り回されることなく、地道に資金調達活動を進めることが大切です。

シード期の組織づくりはどうすべき?

会場の参加者からも質問が寄せられました。

起業準備中の方からは、「エンジニアやデザイナーなどが必要ですが、まだ会社の実体がないのにどうやって集めればいいのでしょうか」との質問が。

これに対して岩井さんは「ぜひ『Sollective』でハイスキルなフリーランスを見つけてください!(笑) あとは、多くの人に会うこと。いつどこでご縁があり、必要な人を紹介してくれるかわからないので、いろんな人と接点を持つことが大切です」と回答。

井藤さんは、創業時に前職の同僚がエンジニアとして参加。2人目はコワーキングスペースで知り合った人の紹介で見つけ、後にCTOに。3人目のCOOはYOUTRUSTでスカウトしたという経緯を明かしてくれました。

そして「自分がスカウトするときは『保険は国民のほぼ全員が入っている巨大市場であり、プラットフォーマーとして市場を押さえられればうちは一人勝ちになる』というように説得しました。大きな夢を語ることが大事だと思います」と説明しました。

起業家のリアルが渋谷にある!

ご紹介した以外にも、シード期の苦労や反省点、改善策が赤裸々に語られました。「採用活動を後回しにしたため寝られないほど忙しい期間が続いた」「最初はリード投資家だけにアタックにした方がよかった」などなど。

キャピタリストの視点も加わり、起業家がどのようにシード期やプレA期を乗り越えていったのか、理解が深まるイベントになったのではないでしょうか。

千葉道場ファンドでは、今後もイベントを定期的に開催していく予定ですので、以下のPeatixページをフォローしていただけると幸いです!


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