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珈琲にありつけない男とマニュアル解読に頭を抱える男の話

宿直当番を終えるとアイスコーヒーを購入して、川沿いで景色を眺めながら一服をする。これが私にとって私服の日課なのである。

今日も今日とて、お決まりの日課を決行するべく行きつけのコンビニでアイスコーヒーを購入した。

ここまではいつも通り。

しかし、コーヒーマシンがうんともすんとも言わない。まぁその類のトラブルは店員さんに頼れば良いのだ。

会計を担当してくれたハンサムなグォンさんを申し訳なさそうに呼びつけて事情を説明する。分かり易くシンプルに丁寧に。

異国の彼には荷が重過ぎたのか「えっと」を乱打している。まぁその類のトラブルは日本国籍の店員さんに頼れば良いのだ。

グォンさんに他の店員さんを呼ぶように申し付ける。

私の後方から女性店員の声がした為ほっと胸を撫で下ろすとチンさんが怪訝そうな顔でこちらを眺めている。

分かり易くシンプルに丁寧に事情を伝えるとチンさんは「ワカラナイカラチョットマッテテ」と私に告げて姿を消した。

私は言いつけを守りちょっと待つ事にした。

ちょっと15分待ったのだが、彼女は品出しの手を緩めない。感心する程に働き者なのだ。

私を見かねたグォンさんが聞き間違えでなければ「ドウシマスカ?」と投げかけてきた。

逆に問いたい。
私はどうすれば良いのですか?と。

「彼女の他に店員さんは?」

「アー、イマイナイ」

状況をある程度把握した。

「これのマニュアルある?」とアドバイスを送り返すと彼は事務所へと姿を消した。

マニュアルを片手に戻ってきた彼は懸命に解読作業に取りかかる。

彼には負担ばかりかけて申し訳ないが、恐らく読解できていないのが目に見えて分かる。何故なら「えっと」が増し増し濃いめで乱打されているのだ。

彼の成長の為に私は口を出さずに待機する事にした。

しかし彼は成長のチャンスを即座に手放した。

「ワカラナイカラヨンデ」とマニュアルを私に押し付けてきた。

チンさんは品出しの手を緩めない。

私服の日課と行きつけのお店の為にとマニュアル解読に取り掛かりマシンの設定を弄るが、これまたうんともすんとも言わないのだ。

ここまでに30分を要した。

解読できずに肩を落とす男
マシンを飼い慣らせず肩を落とす男
品出しを極める女

「店長さんが来たら直して貰おう」と告げて私服の日課を諦める選択をした。

手持ち無沙汰で川沿いを歩きながら私はふと思い出した。

アイスコーヒーに支払った120円はどこに消えたのだろう。


そんな日もあるだろうと言い聞かせ今日も帰路に着く。

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