あおい あかり

いつもきちんとふざけて生きています。京都でちいさな猫と恋人と3人暮らし。

あおい あかり

いつもきちんとふざけて生きています。京都でちいさな猫と恋人と3人暮らし。

マガジン

  • 雨に濡れた楽園

    短かったり長かったりする小説たち。オムニバスのような。これはフィクションでもノンフィクションでもありません。

  • 生涯でたったひとつの愛だった

    内省にまみれた散文集。

最近の記事

  • 固定された記事

特別を信じ追い求めた僕らへ

 12歳頃から18歳の頃まで、私はただ無力で、それから無敵だった。  いや、もっと前、物心つく頃からだったような気もするし、今もそうなのかもしれない。  私は小学校に上がった頃から、学校には余り寄り付かない子供だった。  担任の先生が家まで車で迎えに来てくれたり、昼休みの時間に母が学校まで送ってくれたり。先生の、車高の低い紺の車をよく覚えている。  みんなが当たり前に通う学校という場所に、クラスメイトという集団に触れた時間が短かった所為で、自分は他のみんなとは違うという意識

    • 沈没遊覧船

       大きくとられた窓からは燦々と午後三時の陽射しが差し込んでいて、真っ白でつるつるした手触りのテーブルの上の物たちを照らしている。柄の違うアンティークのティーカップ、その紅茶に添えられた小さな焼き菓子、お守りみたいに置かれた私の文庫本は水色のブックカバー。美優の白魚みたいな手が沈黙を泳いでテーブルの端のペーパーナプキンを一枚抜き取った。 「じゃあどうだったって言うの?」  鶴を折り始める淡いピンクのフレンチネイルが施された指先。かわいいの型に嵌った古臭い指先。私が愛したその

      • ジュリエット、マイ ハート

         念願の、ジュリエットとのデートを果たす事が出来た。  私のジュリエットは相変わらず美しくてかわいくて愛らしくて、再会してすぐに泣いてしまうのが彼女らしくて。  相変わらずふにゃりと緩んだ声で私を呼んでくれる幸福が、堪らなく愛おしかった。  1年半振りに会った彼女は伸びた背筋でまたロミオを見据えていて、嗚呼眩しいなぁと私の目をちかちかさせる。  彼女がしていた蝶のピアスのように、きらきら、ひらひら。  長いスカートを揺らして歩く姿が凛としてうつくしくて、私をうっとりさせ

        • うつ病という名前の幼馴染み

           センチメンタルなポエムを常日頃から語ってはいるが、『私』という人間を語る上で、奴はどうしたって避けることが出来ない存在だ。  正式にうつ病という診断を下されたのは確か中学生の中頃だった、と思う。  中学に上がるぐらいの頃からなんとなく、私自身はそんな気がしていたので、別に驚きはしなかった。けれど、隣で一緒に診断を聞いた母が酷く狼狽えていたのを覚えている。  症状というか片鱗というか、そういうものは小学生になった頃からあって、数多の病院に通い、色んな種類の薬を飲んだ。小学

        • 固定された記事

        特別を信じ追い求めた僕らへ

        マガジン

        • 雨に濡れた楽園
          3本
        • 生涯でたったひとつの愛だった
          11本

        記事

          愛によって生むもの

             透矢は驚くほど細い癖に大食らいで、その上すぐお腹を減らす。だからおれが用意した晩ご飯を食べて一度は満足しても、夜中眠る前、零時を過ぎた頃に言ってくるのだ。 「ハル、大事な話があるんやけど」  深刻そうな難しい顔。身構えたおれに透矢はこう言った。 「どうしよう、俺お腹減った」 「やだ何も作らないよ」  すぐさまそう言ったおれに縋り付く透矢。 「お願い、何でもいいから」  夜中お腹を空かせた透矢におれが何か作るのはいつものことだ。いつものことだけど、いつものことにしてしまっ

          愛によって生むもの

          無防備な恐怖、不安とひとつ

           私はひとつになりたがる。  どこででもぴったりくっついて、身も心もひとつの存在でありたい、あろうとする。  でも彼はそうではなくて、ふたつであろうとする。  ふたつで、ふたつだから愛せるようにいようとする。  それは日常生活のなかでも顕著で、外にいる時いつも手を繋いだり彼のどこかしらに触れていたい私と、あまりそうしたがらない彼と。  べたべたに甘えたい気持ちでそうしているというより、私は彼と離れているのが怖いのだ。ほんの少しでも離れていると、もう彼の元に戻れない気がして

          無防備な恐怖、不安とひとつ

          愛しさと愛と嫌い

           夜の散歩に無理やり引きずり出した時点で、結末は決まっていたような気がする。  散歩行こう、と言った私に、えー嫌や、歩きたくない、と駄々をこねた(ように私には思えた)彼を強引に夜の中に連れ出した。  始めは二人で散歩に行けることに浮き足立って、うきうきで飛び跳ねるように歩いていた。  けど、目的地のコンビニまで三分のニほど歩いた交番の前で、彼の言葉に私がかっとなってしまった。苛立った私の「だから」、諦めたような彼の沈黙。  結局コンビニに着いて、アイスを選んでいる辺りで

          愛しさと愛と嫌い

          夏の朝はアオ色

          「なにしてるの?」  しまった見つかった。  自室で仕事のやりとりをしていた筈のハルが戻ってきていた。時刻は深夜三時半、夏の夜は朝に変わろうとしている。 「透矢、なにしてるの?」  ぺたぺたと裸足でフローリングを歩く音。繰り返された言葉にようやく俺は振り向いた。 「月見酒、してる」  俺とハルの寝室はダブルベッドひとつで窮屈に感じるほど狭い。窓際のほうに腰かけて、こっそりキッチンで作った酒のグラスを月明かりにかざして見せた。ハルとの同棲初日に勢い込んで買ったバカラのロックグ

          夏の朝はアオ色

          ジュリエットへのラブレター

           彼女と人生で初めて会った日、なんばの路上でたこ焼きを食べて、美味しい〜!って少し上を向いて笑った横顔を鮮明に覚えている。  これはごく個人的な、ある人への手紙である。彼女が見るか見ないかは問題ではなくて、ただ彼女に会いたすぎるのでここに私の気持ちをラブレターに認めることにする。(会う約束がコロナに潰された)  彼女と初めて知り合ったのは、私が二つ目の高校を退学するかしないか決めかねている頃だった。もう暑さも思い出せない、夏のこと。  出逢い方の詳細は省くが、彼女は最初

          ジュリエットへのラブレター

          孤独とさみしさとデリバリー

           ここ数日、彼は所用でよく家を開けていて、泊まりがけで出ている日も多くて。  それはどうしようもない理由でまして浮気だとか、そういった類ではない事を私もきちんと知っているのだけれど、もちろん私はさみしくて孤独に溺れかけている。  所用の方が私より優先すべき事柄なのは理解しているけれど、理解しているからと言ってすべて納得ずくで待っていられる訳ではないのだ。  こういう時いつも思うけれど、言葉を連ねるのは孤独な時の方が捗るものだ。  孤独が言葉を後押しするというか。  孤

          孤独とさみしさとデリバリー

          もし明日死んでしまったとしても

           朝起きた時はなんとか無事でいられるのに、昼になり陽が傾いて夕方になってやがて太陽はおやすみして夜になって、その頃にはもう自分とさよならしたくなってくる。  私にとっての一日は死へ向かう一日だ。毎日毎日、飽きずに変わらずに。  夜を越えてやがて陽が昇ると、ようやくもう少しここにいてもいいかなと思える。  死ぬ、ということは怖いけれど、ここではないどこかに確実にいけるという面では、とても魅力的だ。  それでも私が二十一年間もこんなばかげたチープな世界に鼓動を刻めるのは、

          もし明日死んでしまったとしても

          私と彼と、日々の欠片はおいしいごはん

           私には付き合って二年になる彼がいる。  特徴といえば真っ黒の癖毛と信じられないくらい細い身体、ついきゅんとしてしまうような笑顔で、職業は料理人。  今は料理とは違うお仕事をしているけど、でも彼は本質的に料理人という生き物なのだろうと思うことが、日常で多々ある。  私はいつも怠惰な女で、好きなものは美味しいものと猫と眠ること、の典型的な文学者気どりの女だ。お菓子を作るのはちょっとばかり得意だけれど、日々のご飯は適当に作るのでたまに失敗する。  私と彼と、この間一歳になった

          私と彼と、日々の欠片はおいしいごはん

          ひとりでいること、ふたりだけどひとりを選ぶこと

           孤独でいることと、一人でいること  ふたりでいるけど、ひとりでいること  ふたりだけど、ひとりを選ぶこと  全部違うな、と思う。  自分の為にお洒落をして出掛ける瞬間の幸福と、帰ってくるあの人の為においしいごはんを作って待っていることの幸福は、似ているようでまったく違う。  私は一人でいた頃の私も好きだった。  自分の為にアルバイトをして、自分の為に着飾って、自分の為に誰かを繋ぎ止めていた。  でも今、私の為と、彼の為に己を"ここ"に繋ぎ止めている。  恋人が私の

          ひとりでいること、ふたりだけどひとりを選ぶこと

          飛び方はあなたが教えてくれた

           「あなたじゃなきゃいけないの」  ほんとうの意味で、この人ではいけないなんて事はあるのだろうか。  どれだけ激しく愛していたとしても、もうこれ以上人を愛するなんてできないと思っていたとしても、さよならを告げて泣き暮れたとしても、でも代わりは現れるものだ、大体の場合。  身をもってそれを知っていたとしても、なんとなく知っているつもりになっていたとしても、それは静かな事実としてひっそり横たわっている。意識の根底に、息を潜めて。  燃え上がる恋の間はその存在に気づかない。で

          飛び方はあなたが教えてくれた

          呼び声、未来の私と

           今こうして心臓が動き、肺が酸素を取り込もうと動いているこの瞬間、時間は刻一刻と前へ進んでいく。  いや、前へは進んでいないのかもしれない。  何かの作品で、「その場に留まる為には前へ進み続けなければいけない」といっていた。  それはそうだ、己がいくらじっとしていても、周りは容赦なくそれぞれの時間を進めていくのだから。  それに、人間には老いがある。芽吹き苗が伸び蕾をつけ花が咲き、実がなってやがて枯れてゆく。例えうつくしい花が咲かなくとも、育ち朽ちる。  私は今まで生きて

          呼び声、未来の私と