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【#02】 料亭の料理のような言葉を食む。―三島由紀夫のおすすめ五選

SNSやWebニュースで目に入る、短く・咀嚼しなくても飲み込みやすく・濃い味付け&刺激の強いテキストはインスタント食品のよう。

毎日めまぐるしく情報がアップデートされまくる。
現状分析、未来予想。景気はどうなる?近未来の事を脳フル回転で感じ考えながら、地に足ついた世の中も見つめなきゃ。という時間に、ちょっと胸焼けしてきてしまいました。

インスタントな文章に疲れちゃった時のおすすめは、三島由紀夫

奥行きがありすぎて底にたどり着けないような語彙、丁寧に練られた世界の重み(私は湿っぽい印象と思う)、恋愛?青春?シンプルな解釈を拒むリズム。解釈を読者に委ねたりしない、「これを食え!」と言わんばかりの自信とストレートさも、没入するには良い。あと、描かれる男性がたいていセクシー。
高校生の頃から愛読しているけど、多作な彼の作品を読破はまだしていないのですが、本屋に行ったら内容ノールックで三島由紀夫の文庫を何か一冊買うルールを運用し続けているので、積読はたくさん保有しています。
今日は私的三島由紀夫のおすすめ五選をご紹介します。

1.夏子の冒険

ラノベかと思うくらいめちゃくちゃ読みやすいです。賢くて闊達な女の子が主人公。
熊退治なんて危ないから女の子のやることじゃない、なんて。
頭をかすめるリアリストの声や世間体がちらちら過ぎりつつも、何故だか何をやっても自分だけは無傷で、そして無茶かと思うけど飛び込んでみたら本当にどうにかなっちゃう。そういうことってあるよね、無敵のティーンエイジャー。その頃の気持ちは今でも思い出せるし、もしかしたら今でも飛び込んで大丈夫なのかも。爽快系エンタメ小説

2.不道徳教育講座

大学2年生の夏休み、イギリスに3週間ホームステイに行った時にずっと読んでいた本。周辺の環境とのギャップに後押しされて、普通より没入した記憶があります。イギリスでホームステイしている私。環境に迎合せず不道徳教育講座を読んでいる私。笑
短いエッセイがたくさん掲載されているエッセイ集。「教師を内心バカにすべし」「人の恩は忘れるべし」「死後に悪口を言うべし」等。見出しはぎょっとしますが、「やっぱみんなも本当は思ってるよね!?てことを言っちゃった、てへぺろ」て感じの、綺麗事を嫌う素直な三島の言葉がたくさんで、愛らしいなぁと思います。

3.奔馬

三島由紀夫の遺作「豊饒の海」シリーズ4部作のうちの第2作。第1作の「春の雪」は2005年に行定勲監督、妻夫木聡&竹内結子で映画化した、めちゃくちゃ美しいあれです。(メインテーマが宇多田ヒカルのBe My Lastでしたね!)

4部作は、春の雪で出てくる清顕(妻夫木)の魂が転生していくことで連なっていきます。2部では青年に、3部でもまた別の肉体に移って、魂は時代の流れに飲まれながらもそれぞれ生を全うしていく。清顕の親友の本多の人生につきまとう、同じホクロを持つ人物=それが清顕の魂の転生した肉体。
設定はさておき、第2作「奔馬」に出てくる勲(いさお)が、私的にだいぶ好み。若い筋肉・身体の描写がエロいし、身体を持て余す若い心と危うさみたいなものが、とてもきれいに描かれていて刹那的な感じがエモ。(語彙力)ちなみに第3部「暁の寺」も良きです。タイまで行って聖地巡礼してしまいましたわ。第4部「天人五衰」はまだ読めてない…

4.肉体の学校

色っぽいやつといえばこちらも。「愛の渇き」もセクシー系なのですが、私はこちらの方が好き。年上の妙子がころころ転がされてしまうイケメン=千吉のキャラクターが良い。無骨で学歴はないが、賢くウィットに富んでいて時に幼い表情を見せる…
これはどこぞのレディースコミックか(もしくはBLにも出てきそう)
そういう意味では夏子の冒険と同じくラノベ寄りのエンタメ小説。年上の女性陣が集まるお茶会を「年増園」と呼んでいるのも一興。現代の皆様も女子会とか言わずにいっそ年増園って言えばいいのに。

5.告白

こちらは三島由紀夫の作ではなく、インタビュー音源の文字起こし。語られていることは、これまでの小説然り不道徳教育講座然りで触れられている思想に近いけど、自決の9ヶ月前ということもあり、だいぶ自分の中で筋が固まっているようです。人生や芸術について、面倒臭がらずに語彙を選んで答える言葉はブレがない

小林秀雄が言ってますけど、人間は死んだとき初めて人間になる。人間の形をとると言うんです。なぜかというと、運命がヘルプしますから。運命がなければ、人間は人間の形をとれないんです。

三島のブレなさを目の当たりにすると「環境や世の中が変わっても、それに迎合したり振り回されるから焦るのかもしれない」と何故か穏やかな気持ちにもなれる本。たぶん三島由紀夫は小説というフォーマットで(自己表現ではなく)エンターテイメントをやりながら、ゆずれない自分の考えを探し続けていたのかなぁと思いました。

政治的には極端だったり派手な行動が目立った三島由紀夫ですが、そういうのさておき、作品自体は圧倒的にエンタメとして面白いです。
そして冒頭に書いたとおり、職人の技術と時間と知識によって下支えされた栄養たっぷりの高級料亭の味の文章
出かけられないGW、家で静かな音楽をかけてじっくりじんわり読んでみてはいかがでしょうか。

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