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【マゴソスクール・2025年度からの展開】

キベラスラムの孤児や生活困窮児童に対して、いつも皆様からの多大なご支援をたまわり、誠にありがとうございます。今日は、私たちの今後の新展開について、書きたいと思います。

ケニアが国を挙げてここ数年、大きな教育改革に取り組んできていることは以前からお知らせしてきましたが、その教育改革に対してマゴソスクールとしてどう対応していくのか、様々な経験と何度もの話し合いを経て、その方針が決まったのでここで詳しくお知らせしたいと思います。

ケニアの教育現場では現在、旧教育課程と新教育課程が同時に混在しているトランジションの時期真っただ中にあります。現在、旧教育課程はセカンダリースクールのForm1~4の最後の4年間だけが残っていて、それ以降の学年、8年生から下はすべて、新教育課程(CBC)の生徒たちです。

旧システムでは、8年生までが小学校で、その後に4年間のセカンダリースクール(Form1~4)があり、その後は大学。というシステムでした。これが、新システムでは、小学校が1~6年生、中学校が7~9年生、その後に高校が3年間、という、日本とまったく同じ小中高のシステムに変更になっています。(2024年度現在では、9年生は不在の状態です。)

この「中学校」というのがケニアでは今回の教育改革で新しくできるものであり、その方針が政府のほうでもなかなかはっきりと決まらず、これまですでに2年間を試行錯誤でやってきました。なのでマゴソスクールでも、現在7年生と8年生の2学年の中学生が学んでいます。

しかし、この2年間の試行錯誤を経て、だんだんと政府のほうの方針もはっきりしてきて、マゴソスクールもケニア教育省から様々な指示を受けることとなりました。まず、中学校は小学校と同じ学校ではなく、別の学校として組織せねばならないということ。要するに、校長や教頭は小学校と兼任できず、新システムの中学教諭としての訓練を受けた専門の先生を多数雇用せねばならず、これまでなかった様々な設備を設置せねばならず(例えば理科の実験室、家庭科室、農業指導のための器具など)、そのために必要な費用は想像以上に大きく、そのことでこれまでずっと、どうしたらいいかと非常に頭を悩ませてきました。

マゴソスクールの生徒たち、特に年齢が上になればなるほど、非常に困難な家庭事情から来ている生徒たちがほとんどで、マゴソスクールが無ければ教育を受ける機会が得られなかっただけでなく、そもそもが衣食住の手助けすら必要であった孤児や生活困窮児童がほとんどです。また、マゴソスクール在学中にも、父親や母親が病気で亡くなったり、事故などで身体障がいを負ったり、病人を抱えて子どもたちが助けなければならないケースも数多く出ています。

小学6年生以降を彼らがどのように生き抜いていくか、マゴソスクールで中学校をやらなければ彼らにはどこにも行く場所がなくなると思うと、まさに夜も眠れぬほど非常に悩ましく思ってきました。政府が推進する教育改革だけれども、そのための設備投資にかかる費用はマゴソスクールのような民間のレスキューセンターには政府からは一切の資金的な支援はなく、すべてを自ら生み出さなければ成立しません。

これまでも、新システムの小学校教育のための設備投資にここのところ何年も、最大の努力をしながらあの手この手で捻出し、なんとかここまで対応してきたけれども、中学校となるとあまりにも大掛かりな設備投資をしなくてはなりません。

そもそもが、キベラスラムの人口過密度合いは非常に激しく、数多くの貧困者がひしめきあうスラムで、十分なスペースがない中で何とか数多くの児童たちを受け入れて助けてきたけれども、この数年の間に度重なる強制撤去が政府機関によって推し進められ、マゴソスクールも大きな被害を受けました。スラムの生活をアップグレードするためという名目の道路建設や、ナイロビの渋滞緩和のためのハイウェイの建設などもその理由としてありましたが、強制撤去にあって押収されたマゴソスクールの敷地に関しては何ら補償はありませんでした。

その度重なる強制撤去のせいで敷地は狭くなり、しかし支援を必要とする児童数は以前よりも増え、その上さらに中学校建設のためにマゴソ小学校の敷地の中にさらなる建設を行うことは、狭すぎてとても無理があります。
周辺の長屋を買い取ろうとも試みましたが、そもそもがそこに生活している貧困者たちは、そこを追い出されてもどこにも行く場所はなく、深刻な住宅不足のキベラスラムにおいては、敷地を拡大することは至難の業です。

だけれども、助けを必要とする生徒の顔が次々と浮かんで、どうしたらいいのかととても苦しみました。これまではっきりと決断することができず、何とか中学校をマゴソスクールに新規で建設して設置するための道を作り出すことを夢見て、ありとあらゆる可能性を探って様々な努力を積み重ねてきました。

しかし、今回私が2024年春初夏の日本ツアーを終えてケニアに帰ってきてからすぐ、リリアンとの話し合いを重ねてきて、その中で、まったく違う発想での違う方針が見えてきました。それについてこれから説明を書きたいと思います。

結論から言うと、マゴソスクールには中学校は設立せず、6年生までの小学校としての運営を充実させていきます。6年生を卒業した生徒たちに関しては、マゴソスクールではなく、すでに中学校を設置できた学校へと進学をしていくように促し、その費用をどうにも捻出できないような最底辺の困窮家庭の生徒たちをこれまでのマゴソOBOG支援と同じように支援していく方法を取りたいと思います。

2025年1月からのマゴソスクールは、以下の形で運営し、キベラスラムのコミュニティをこれまで通り支援していきたいと思います。

①マゴソ幼稚園(PP1, PP2)
②マゴソ小学校(1年~6年)
③特別支援学級
④洋裁訓練所と作業所
⑤マゴソ美容専門学校
⑥マゴソMYC TECH ACADEMY
⑦マゴソファミリー(キベラスラムの子どもの家)
⑧ジュンバ・ラ・ワトト(ミリティーニ村の子どもの家)
⑨マゴソコミュニティ給食
⑩マゴソOBOGクラブ(中学・高校・大学・専門学校の奨学金支援)
⑪コミュニティ支援(食糧、医療)

中学校に関して、マゴソスクールではその建設や運営は断念するが、今後もケニア政府の方針でこの教育改革が中学校教育においてどのように適用されていくか、そしてそれは子どもたちや社会にどのような影響を与えるていくか、私たちも寄り添って深く見ていきたいと思います。マゴソスクールを6年生で卒業した生徒たちは、基本的にはキベラスラムの近隣にある公立中学校に入学していく形だが、そもそもはキベラスラム周辺の公立校はどこもオーバーキャパシティで、各教室には100人以上の生徒たちがひしめき合っているのが普通で、そこに十分な数の教員がいません。非常に困難なコンディションの中で生徒たちは学んでいますが、そもそもは政府が推進する教育改革であり、公立校がその先頭に立って改革が進められていき、政府からの予算も公立校には提供されていくはずなのだから、それを信頼して、そこに寄り添っていくのがいいだろうという判断になりました。

キベラスラムには、マゴソスクールのような自助努力の学校は200校以上ありますが、そのうち、実際に必要な条件を満たして中学校を設立できたのは現状では4校しかありません。この4校はそれぞれ、生徒1人あたり年間18000シリング~35000シリング(約22000円~42000円)の学費を徴収して、中学校を成立させています。マゴソスクールに来る子どもたちの場合は、このような高額な学費を払うことは不可能な家庭ばかりで、マゴソスクールで無料の教育や給食を受けられることができることは、そんな子どもたちにとって人生のチャンスを開く機会になっていただけではなく、その子どもたちの家庭そのものも助けてきていました。

しかし、現在の教育改革が、ケニアが国として必要としているものであり、その改革が私たちのような慈善支援団体にとって資金的に手が届かないほどの高額なレベルのものを求められているのならば、私たちはこの子どもたちの中学校教育を政府の手にゆだねるしかないのではないだろうか。
ただ、公立校のあまりにも厳しい状況を見るにつけ、ただ政府にゆだねるだけでは子どもたちの未来は厳しいものにしかならないでしょう。だから、少しでも親身に寄り添っていくために、今後の他校の中学校がどのように運営がされていくか、その現場に寄り添って学んでいきたいと思います。そして、マゴソの他に何の希望も展望もない子どもたちに対しては、最大限の努力をして、たとえわずかな数の子どもたちであっても、他校で学ぶための学費を提供する形での支援を続けていきたいと思います。

このような公立中学校に関しては、政府からは、どれほどオーバーキャパシティになろうとも、入学を求める生徒を却下してはならない、という指示が出ているそうで、公立中学校であっても完全無料ではなく、保護者負担の費用もありながらも、前述の私立学校ほど高いものでないため、困窮家庭の子どもたちにとっても保護者が奔走してなんとか入学させていくための努力をしていきます。

私たちが2005年からモンバサ近郊の村で運営している子どもの家ジュンバ・ラ・ワトトでは、もともとが村の公立校で子どもたちが学んできていました。そして、その公立小学校に対して、校舎の建設などの支援を行い、充実をはかってきました。そのため、ジュンバの子どもたちに関してはそのままジュンバで生活を続けながら、公立中学校を卒業するまでの支援を継続したいと思います。

また、来年からはマゴソスクールでは小学6年生が最高学年となりますが、学年が2学年分、少なくなる代わりに、小学校教育と、幼い子どもたちもレスキューを、今まで以上に充実させていきたいと思います。これまでオーバーキャパシティで受け入れることができないでいた低学年の子どもたちも、もっと受け入れることができるように、スペースを作りたいと思います。また、マゴソOBOGクラブを通じて、大学までの奨学金の支援はできる限り続けていきますが、そこに中学生も加わり、ジェネレーションを繋ぎ、キベラスラムのコミュニティの底上げと若者たちの指導にさらに情熱を注いでいきたいと思います。

いま、ケニアは1963年の独立から61年を経て、とても大きな転換期を迎えていることを実感しています。植民地時代の搾取と蹂躙の呪縛から、60年以上たってやっと次のステージへと移行していこうとしているのではないかとすら、長年この国に関わってきた私は感じています。現在、ケニア全土に吹き荒れる若者たちの政府に対する抗議行動の嵐と、噴出する怒りからの叫びを間近で見ながら、この国は今後、どこに向かっていくのだろうかと先が見えない想いになることもあります。しかし、国民みずからが国中の様々な分野での変革を求め、構造そのものに対しても異議を唱え、変わりたいと叫ぶ若者たちの姿を見ながら、この国はケニアの人々の国であり、彼ら自身が生み出す未来であり、彼らが望む変化に対して、私はそれを出来る限り理解し寄り添っていきたいと思っています。

そんな激動の中で、私が最も懸念していることは、時代の変遷の中で人々のモラルが急激に低下し、昔ながらの良き精神性が失われ、精神のよりどころを失っていく若者たちや子どもたちが社会の中に多数生まれていっていることであり、それはすでにこの社会全体で加速度を増しているように思います。そんな中で、マゴソスクールはこの社会にとって必要とされる存在だと実感しています。マゴソスクールはこれからもより一層、子どもたちに良き精神性と道徳的な教育をほどこし、社会のために役に立つことのできるより良い人材を生み出していくための教育の促進に尽力していきたいと願います。
子どもたちが、貧困苦や飢餓から解放され、幼い頃から人間としての良きものにたくさん触れ、学び、夢を持ち、世界に視野を広げていくことができる教育の場を、キベラスラムの仲間たちと共にこれからも大切に育てていきたいと思います。

これまで皆様から多大なご支援をたまわり、ここまで歩むことができました。心から感謝申し上げます。本当にありがとうございます。
そして、マゴソスクールが1999年に設立してから26年目となる2025年には、マゴソスクールもまた新しいステージへと進んでいきます。キベラスラムの粗末な長屋の一室で、20名の子どもたちが集まって始まった寺子屋だったマゴソスクールが、25年間でここまで成長することができたのは、多くの皆様がその真心を寄せてくださったおかげです。
幼い頃に飢餓や極度の貧困状態、そして命の危険からマゴソスクールが救い出した子どもたちが、生きる希望と教育のチャンスを得て、成長し、今後はこの国を、そしてこの世界を、より良い場所にしていくための影響力を持てる人間に成長していっています。
今起きている社会変革の中で、この子どもたちが生きていく未来が、どのように変わっていくか、その変革に対して良き影響力を持てる大人でありたいと願います。それは、私にとってはケニアの子どもたちに対してだけでの想いではなく、自分の母国である日本の子どもたち、そして世界中のすべての子どもたちに対して願うことです。子どもたちにより良い社会に向かうためのアドバイスをし、導きを与え、成長のチャンスを与えてあげたい。そして、人間として真の豊かさとは何か、より良い人間としての生き方とはどのような生き方なのか。それを子どもたちと一緒に学んでいきたいです。
キベラスラムでは、国の混乱状況の中で、さらに貧困度が増し、生活の困窮が増している家庭が多々あります。困窮している人々には、助けの手を差し伸べたいと心から思います。そのために、今後もまた引き続き、お力添えをいただけるようだと大変ありがたいです。
今後共どうかよろしくお願い申し上げます。

早川千晶(2024年7月28日)

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