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2020.04.05 淡々東京ぐらし#6 煮込め、さらば透き通らん

草色の座椅子が届いたのでさっそく使っているが、これが本当に良い。固くも柔らかくもなくちょうどいい。自分の背中や腰をあずけられる背もたれの、なんと偉大なことか。ありがとう背もたれ。背もたれイズライフハック。

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今日も今日とて大学時代の友人とビデオ通話をした。普段、SNSのタイムラインで互いになんとなく「いるなー」と思っていても、自分の身に起こったことのこまごましたディテールはやはり話して初めてわかるものだ。直接会って話してから数年単位で時間が過ぎていればなおさら。

私はオンライン飲み会の良さを滔々と説き、全面的な同意を得た。

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一方、なんとなく「いるなー」という感覚でつながっているSNSも、今このときだからこそ大切なように思う。東京都のCOVID-19の感染者は今日も増え続けているから、生存に必要最低限の外出しかできない。

特段誰に話しかけるでもなく、ただ、「わたし、ここにいるよ」と言うための、文章や写真は、自分以外の人間の生活の気配を推し量るための、数少ない手がかりだ。なにげない投稿に返事が来て、短い雑談が始まることもあり、それがとてもうれしい。

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雑談ができないと精神が死ぬ。リモートワークを始めてまだ三日だが、切にそう思う。

決められた時間にビデオ会議システムに入室し、終わったら退出する。ボタン一つの切り替えで次々と他のタスクに移動できるのは効率がいいが、立ち上がって席を移動するとか、休憩時間にお湯を淹れに行くとか、そういう動作は完全に「ないもの」として扱われる。

そして、ないものとされたそれらの動作には、普段のオフィスや学校であれば、多くの場合、雑談がついてくる。

わたしは、雑談のときに話したことや、話した相手の表情や立ち居振る舞いを通じて、「わたしも仲間としてここにいていいんだな」と安心する。わたしだけでなく、多くの人がそうだと信じたい。

入社したはいいけど、わたし、ここにいていいですか? 今この感じで、本当に大丈夫ですか? 

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午後、スーパーで買い出しをしに行くとき、「今日、絶対に、甘いものを作る」と決めていた。気が滅入ると甘味が欲しくなる。時間がある休日に向いているのは、コトコト煮込む料理。そうとなればコンポートはうってつけだ。果物の中ではまだ価格が手頃なりんごで、コンポートを作ろうと決めた。

りんごと砂糖とレモン汁に水を加え、弱火でコトコト和むだけ。りんごが透き通ってきたら火を止める。

IHクッキングヒーターの火力は、ガス火より弱く、間欠的だ。弱火と中弱火と中火の間を行ったり来たりしながら、りんごが透き通るのを待つ。熱を加えれば透き通るという仕組みを、わたしはよくわかっていない。

仕組みはわからないけど因果関係は知っている、みたいなことが、料理にはよくある。知ればおもしろいんだと思う。

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