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自由詩

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リーディングや投稿・寄稿で発表済の作品を掲載します。
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2017年6月の記事一覧

瞳 ――ミュシャ「スラヴ叙事詩」展覧会から――

あまりにおほきく 見ひらくから
ふたつのくろめが
ごろんと こぼれおちさうだ
おまへが さうして おびえてゐるのは
おまへを見つめる わたしではなく
とどろきちかづく ひづめの音
松明の はじける音
草原をこがす 煙のにほひだ

わたしは ほかでも
おまへと目があつたやうな気がしたのだ
雪もよひの 灰色の空の下
おほきな教会が けぶる広場で
ききなれぬ あたらしい
みことのりを聞かされながら
着ぶ

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たたんたたん、たたんたたん、と
窓枠を指のはらで優しくたたく音が
規則を外れてやがて消える
対向列車の通過を待つあいだ
黄色く濁った菜の花が泡立ちながら殖えて
土手から頭の中まで覆いつくす

かつて恋人にしたかった人の
首すじをつつむ想像上の鱗を
くちびるでいちまいいちまいはがす
時折、喉の奥で声がくるしく詰まるのは
うっかり身体の中に溜めてきた水に
自らおぼれているからだと思いつく

モーターの

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