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MOMAT「民藝の100年展」でスーパーマンと出会った。

知らなかったジャンルへ挑戦


こんにちは、ちあきんぎょです。

東京・竹橋にある東京国立近代美術館で開催されている「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」へ行ってきました。

美術館へ行くときはあまり事前勉強をしないわたしですが、本展も丸腰で参加してきました。

そもそも展覧会のタイトルから、あまり関心が沸かなかったのが正直なところ。

行くきっかけになった理由は2つありまして、
1つめは取引先の古美術商の社長に勧められたこと。

2つめは、古裂會という古美術のオークションカタログをよく見るのですが、民藝の良さがわからず、どうしても西洋骨董にばかり目が行ってしまってしまうので、勉強のため。

古裂會オークションカタログ https://www.kogire-kai.co.jp/

数万円~数十万円という金額で器を買うなら、エミール・ガレやドーム兄弟などの観賞性の高いものが良いと思っていたので、価値観を変える何かがあれば良いなと思い、足を運びました。

展覧会へ行く前と後で認識が大きく変わったので、特に印象的だった点について書かせていただこうと思います。

そもそも民藝とは?


さて、質問です。「民藝」という言葉を聞いたことがありますか?

もちろん!地方のおみやげさんにある木彫りの熊とか、お皿とかだよね。

じゃあ、「工芸」って何?

だから、熊とかお皿とか。…あれ?

民芸と工芸って、何が違うの?

…え?

 

お恥ずかしながら、展覧会へ行く前のわたしはこんな感じでした。
関心が沸かなかったのも当然。それ自体が何なのかわかっていないからです。笑

「民藝」とは、「民衆的工芸」の略語で、本展のタイトルにもある、柳 宗悦(やなぎ むねよし)が、陶芸家の浜田 庄司河井 寛次郎らによってつくられた言葉です。

一般の民衆が日々の生活に用いる品・道具のことを指します。

わたしにとって分かりやすかったのは、囲炉裏の上にお鍋などを掛ける自在掛や、展覧会のメインビジュアルにもある「羽広鉄瓶(はびろてつびん)」が民藝品にあたるということでした。(メインビジュアルなのだから当然ですね。笑)

〈自在掛 大黒〉北陸地方 江戸時代 19世紀 日本民藝館 (ポストカードの写真です)
民藝展パンフレットの写真です。お尻が広がって可愛い!

この羽広鉄瓶ですが、一目見るとアート色があるように見えますよね。
ですが、この造形になったのは、使用されている地域が寒い東北地方であるという背景があります。

羽のように広がったお尻部分は、薪をくべた台の穴にぴったりとハマり、効率よくお湯を沸かすことができます。
生活の中で便利に使える形に作られたものが、どこかユニークに見える。
そこに美を見出したのが柳 宗悦だったのでしょう。

少々小難しくなりますが、
柳曰く、民藝品は以下の9つの特性があるとされています。

民藝品の特性
1.実用性。鑑賞するためにつくられたものではなく、なんらかの実用性を備えた者である。
2.無銘性。特別な作家ではなく、無名の職人によってつくられたものである。
3.複数性。民衆の要求に応えるために、数多くつくられたものである。
4.廉価性。誰もが買い求められる程に値段が安いものである。
5.労働性。くり返しの激しい労働によって得られる熟練した技術をともなうものである。
6.地方性。それぞれの地域の暮らしに根ざした独自の色や形など、地方色が豊かである。
7.分業性。数を多くつくるため、複数の人間による共同作業が必要である。
8.伝統性。伝統という先人たちの技や知識の積み重ねによって守られている。
9.他力性。個人の力というより、風土や自然の恵み、そして伝統の力など、目に見えない大きな力によって守られている。
日本民藝協会
https://www.nihon-mingeikyoukai.jp/

こういった民藝品の特性をもとに工芸品と比べてみると、

・民藝品…民衆みんなの普段使いのもの。無名の職人によりたくさん作られ、廉価である。また地域によって様相が異なる(寒い地域や暖かい地域によって違う)。

・工芸品…美術品など観賞性の高いもの。品名と作者名がセットで提示されていたり、伝統的な技法や原料を用いて作られている。

といった感じでしょうか。

民藝運動家のスーパーマン


伝統を守るとか、美術を伝えるとか、今あるものを後世に残す活動には、
必ずお金が必要です。
なぜなら、そこには作り手がいて、作り手にも生活があるからです。自分や自分の家族がお腹を空かせていたら、ものづくりどころではありません。

わたしが「民藝って面白いかも」と感じたのは、この点におけるスーパーマンのような存在がいたからです。

柳らの活動を表すイメージ図があります。
「民藝の樹」といわれるもので、三方に分かれた樹の先には「美術館」「出版」「流通」とあり、それぞれ役割があります。

民藝展パンフレットの写真です。 上:美術館 右:出版 左:流通

・美術館・・・国内外の民藝品を蒐集、展示する。日本民藝館。

・出 版・・・民藝品を扱った雑誌を発行し、広める。広報的な役割。
       雑誌「工藝」、月刊「民藝」など。

・流 通・・・民藝品をつくって、売るお店。たくみ工藝店。

この3本の柱のうち、「流通」部分を扱った吉田 璋也(よしだ しょうや)は、まさにスーパーマンです。

鳥取県内の牛ノ戸窯でこれまでの伝統を生かしながら、吉田自らがデザインした品を作らせたり、作り方の指導をしました。
デザインから生産、流通、販売、消費までの組織を作り上げたのです。

〈緑黒釉掛分皿〉 牛ノ戸(鳥取県)1930年代 日本民藝館(ポストカードの写真です)
吉田璋也がデザイン指導したお皿。モダンな雰囲気!

製作した品々は、出来るだけすべてを窯元から買い取り、生活を支えていたようです。

本業の耳鼻科医の傍ら、この活動をしていたというのですから驚きです。
民藝運動への熱量はもちろん、本業が順調でなければ精力的な活動は難しかったのではと思います。

民藝を守り広めるために、技術と、お金と、熱意をもって携わる。
これほど格好いい人はいないなぁと思いました。


まとめ


はじめは民藝にまったく関心が沸かなかったわたしですが、本展を見たあとは虜になりかけています。

これまで「美術品」ばかり見てきたわたしにとって、美術館に並ぶ品々は「特別で」「高価なもの」であり、「鑑賞するもの」でした。

しかし、柳らによって日常の中にある美しさや文化にスポットライトが当てられ、民藝という言葉が生まれました。
まさに民藝とは、人々の暮らしの知恵を具現化したものだと思います。

古裂會のオークションカタログを見直して、心惹かれる民藝品を見つけて、所有してみたいなとも思いました。

行ってみてよかったと思えた展覧会でした。
視野が広がった気がしています。

2022年2月13日(日)までの開催です。
もう間もなく終わってしまうので、ぜひぜひお急ぎくださいませ。

面白かったのでご参考に。


おまけ〈芹沢銈介〉


あ、あと最後に。

わが家にある染色家の芹沢 銈介(せりざわ けいすけ)のカレンダーをご紹介させてください。
民藝運動家であるとは知らなかったのですが、活動家の中でも出版物の表紙や大きな地図を描いたりと大きな役割を果たされていたようでした。

2005年のカレンダーなのですが、今年2022年と暦がぴったりなんです。
梅の木とともに。

最後までご覧くださりありがとうございます。

まだまだ寒い日が続きますので、皆さまお体にはお気をつけください。
次はどこに行こうかな。


最後までご覧いだたきありがとうございます! 今後の記事のため、美術館の入館費にしたいと思います。