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間違いを犯した女の話 #1

女は間違いを犯した。
結婚したのだ。

親は人間というのは結婚する生き物だと思っていた。世間は結婚したものを勝者だと囃し立てた。その親と世間に育てられて女は結婚したくなった。

そこで間違いを犯してしまったというわけだ。

それがどうしてそんなに間違いなのかは話せば長くなる。つまり、これから長い話をする。

まず、女は結婚生活に向いていなかった。いつ食事をして、いつ眠り、いつ目覚め、いつ家を出て、いつ家に帰るのか、そんなくだらないことを話の題材にするなんておかしなことに思えたし、そんな基本的な生活の動作のタイミングを他人に左右されるのは嫌だった。よくよく考えてみれば、だ(もう遅い)。

だが、それくらいはまだ目をつむった。人と暮らすということはそういうことだ。

やがて女は子供を産んだ。女にとって子供は命より大事なものになった。たいていの人間がそうであるように。

ここに一つの問題がある。(子供が?)そう、子供が。
人間は大事なものを大事にする。基本的には。何か一つを大事にして、他の全ても同じように大事することができるだろうか? 例えば、夫だとか、親だとか、友人だとか、仕事だとか、女の生活に登場する、女にとって大切なものだ。どこかの国のお姫様は飼っているカエルを全部平等に愛したそうだ(銅像にもなっている)。だが、女はおとぎ話のお姫様ではない。カエルも飼っていない。何かを犠牲にするしかない。そう、自分自身だ。

母親なら当たり前? そんなに性急に答えを出すものではない。答えは一つでもない。そう、一つではないのだ。人生は、人間は、数学ではない。

そう、話は長くなる。

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