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もったいぶったのが成功した(しかし行成は割を食った)話

 お久しぶりの公任さんです。前回はなんと2月でした。
 その頃から小説の更新を頑張っていたので、なかなか古典を読む余裕がございませんでした。今回久しぶりにお勉強しました。
 前回の記事はこちら↓

 前回は公任さんの「もったいぶる癖」が失敗したパターンを ご紹介しましたが、今回は一応成功したパターンのお話になります。
 原典テキストは『今昔物語集』巻24「公任大納言読屏風和歌語」です。たまーにテストや問題集で出題されることもあるので、学生さんは知っているとお得かもしれません。

 では、まずは漫画から。今回は気合を入れて2ページ描きました!!

 というわけで、公任さんの遅れてくる作戦は(多分)成功しましたが、早くに来てたのに「公任待ち」をさせられた行成でした。公任さんとつるんでると度々こういうことありそうですね。

 簡単にあらすじを確認しますと、道長が娘の彰子が参内するのをお祝いしてオリジナル屏風を作ることにしたところから始まります。
 漫画には描けませんでしたが、屏風には先に絵だけ描いてありました。「四月に藤の花が咲いている家の絵」だったそうです。そこに優れた歌人の秀歌も書き入れようって話でした。フォント、もとい書き入れ文字担当はもちろん能書で有名な藤原行成。歌人の方は他の候補も道長の家に招待されていたのですが、やっぱり目玉は公任さんだったわけです。

 しかし、その大本命の公任さんが時間を過ぎても全然来てくれません。道長はソワソワして立ったり座ったりしながら、何度も何度も使いを出させます。

「しょーがねーから今いる人たちの作った歌の中から決めるかー」

ってならないのがすごい。(じゃあ最初から公任さんだけに頼めば……? って思うんですが、そこは道長の気遣い的なアレなのかもしれません。形だけはみんなにチャンスを与える的な)
 行成は「疾く参て」と書かれてあり、時間通りどころか時間より前に来てたっぽいので、道長としてはそれもあって焦っていたのかもしれません。

 そしてようやく来た公任さんに道長が「なんでこんな遅かったの」と聞くと、公任さんはなんと「良い歌が詠めませんー」と言います。

 遅れて来た上にまだ出来てないんかい!!

 これは怒られてもおかしくないと思うのですが、道長は「困る」という感情の方が強かったのか終始「そこをなんとか」って感じなんですよね。かの道長とはいえ、お願いしている立場だからでしょうか……。
 本文では公任さんの言い訳タイムがなかなか長く、しかも言い訳の中でさりげなく他の歌人(永任)をdisっています。息を吸うように失言する。公任さんそういうとこだぞ!

 ちなみに本文を引用しますと、
「(永任の歌は)心悪く思給へ候つるに、此く「きしのめやなへ」と読て候へば、糸異様に候ふ」
 とありまして、「心悪し」「いと異様なり」と本当に普通にdisってる。異様なり、は辞書で引くと「風変わりな」と出てくるので、そちらの訳でも嫌味ったらしくて良いのですが、参考に読んでいた講談社学術文庫訳で「なんともどうしようもないことでございます」とあるのが面白かったので、そちらの解釈を採用させていただきました。辛辣ぅ!
 
ただ、興味深いのがその本の注に「当時永任という歌人は存在しない。同時代の歌人としては、藤原長能のが考えられる」とあることです。
 長能じゃありませんように!!
※長能と公任さんの悲しい話はこちら

 話を戻しましょう。
 結局そこから道長と公任さんの間でしばらく問答が続きます。本文でも「様々に遁れ申し給へども、殿、強に切りに切て責させ給へば(=公任さんは色々と言い逃れしていたけれども、道長がしきりに「詠んでくれ」と必死で責めたので)」と、もはやダイジェスト版みたいに書かれています。

 結局公任さんが折れるわけですが、この時の描写がまた面白いので紹介します。

大に歎打して、「此れは長き名かな」と打云て、懐より陸奥紙に書たる歌を取出て、殿に奉り給へば、(中略)殿、音を高くして読上給ふを聞けば……

→公任さんは大いに嘆いて、「これは末代までの恥だなあ」と言って、懐から陸奥紙に書いた歌を取り出して、道長に提出なさると(中略)道長が音高く読み上げなさるのを聞くと……

 公任さん、提出前に「あーあ、末代までの恥! 末代までの恥だなあ!!」って言ってるのが面白いですね。しかも詠めませんでしたって散々言っていたのに、渾身の一首を懐に準備していたという……。
 詠んだ後で絶賛されて、「今ぞ胸は落居る(=今ようやく安心しました)」とか言ってるんですが、確信犯ですよ。前回と同じく「俺テスト勉強とか1ミリもやってないから!!」って言って満点とるやつです。それに「ヒーローは遅れてやってくる」という要素も追加されている。
 公任さん、平安時代にテンプレを理解している。

 もちろん、これは公任さんのこれまでの行動から勝手に予測していることなので、本当に、心から、純粋に、こう思っていた可能性も否定できません。
 ただ、今昔物語集の最後に、

「此の大納言は、(中略)和歌読む事を自も常に自歎し給けりとなむ語り伝へたるとや(=この大納言は、和歌を詠むことを常に自画自賛しなさっていたと語り伝えられているとのことだ)」

と書いてあるので、今昔物語集の編者も「公任さんこれわざとだろ」と思ってそうですね。

 ちなみに行成がなんて言っていたかとかは、本文に全く書かれていません。というか最後の方も全然名前が出ないので、読んでるこっちの方が気になってしまう。
 公任さんの企みが成功している裏で、行成が静かに割を食っていたわけですね。
 長いやりとりの間もスタンバイしていた行成(多忙)は、この後の業務のことでも考えていたのでしょうか……。不憫……。

 というわけで、今回はここまでです。
 お読みいただきありがとうございました!

 次回更新も早めにできるように頑張ります!

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