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職場で、会議室で、デスクで~若者の主観と思考を引き出す!リクルート編集部上司の三変化(後編)~

さて、後編です。
後編では、実際に私が前職において㈱リクルートの制作・編集職としてまだ20代の駆け出しの頃に遭遇した上司の態度をご紹介します。
いずれも私が後に自分がメンバーをもつことになった時に、その背骨になったものです。

前編はこちら
生成型AI時代の観光企画人材マネジメント~若者の主観と思考を引き出す!リクルート編集部上司の三変化(前編)~|桜井篤 (note.com)

1 職場にて)意味なくやってくる上司のIさん

求人週刊誌の広告を制作していた時は、営業が受注してくる広告を次々に作る日々でしたが、毎週締切があり、制作本数も少なくなかったため、私を含めた7-8人の制作チームメンバーはほぼ毎日誰かが徹夜をするくらい多忙でした。属していた「SJ」課は営業が好調で私が属していた1年半もの間、一度も月間目標を外したことがないほど見事な営業部でした。営業担当などは自分の営業の仕事が終わると近くの新橋に飲みに繰り出していたのでしょうが、制作はその後工程ですから、そこから明け方近くまでがんばらないといけない時も多々ありました(締め切りがすぐでしたから)。
このSJ課の課長のIさんが、自分の直属のメンバーである営業たちが売って来る広告を私たち制作が引き継いで青息吐息で作っている島に時々やってくるのでした。Iさんは、昼となく夜となく、突然やってきては、ニコニコしながら私たちのまわりをまわります。制作の仕事の手元をのぞき込んでは、「おお、やっとるね~」などと意味のないことをいったり、制作のおやつをひとつつまんでみたり。最初は、営業の責任者であるIさんが来ると、緊張と当惑がないまぜになっていた私たちでしたが、そのうち、Iさん来訪の目的は「特別な理由がない」ということに気づきました。時には鼻っ柱の強い私の向かいのTさんから「Iさん、何しに来たんですか?今、忙しいんで邪魔しないでください」などと言われると、「何を~?ちぇ、この~T坊主め」などと満面の笑みを浮かべ、頭をコツンと叩いて去って行ったり(笑)。あとでTさんと話した結論は、「Iさんは、ほんとは制作に「がんばってくれてありがとう」という気持ちで来るんだけど、私らがやってることが専門外でわからないので、話しの糸口がつかめずそれで帰っていくんだろう」ということでした。たしかに、それはあるかなと。そして、そんな心優しいIさんの「口にはできない思い」をメンバー全員が感じながら、そしらぬふりで、時にはIさんに歯向かってみたり(笑)しながらも、ひたむきに制作に集中するのでした。私たち制作チームはそんなIさんの態度に和み、この人のためだったら「まぁがんばるか」などと思っていたと思います。そんなIさんのような存在、職場のぶらぶらおじさん、これは私が後にメンバーをもつようになっても、心がけていたひとつです。

2 会議室で)コンパニオンと化するY編集長

月刊の海外旅行情報誌の編集をしていた時。一番緊張するも楽しかったのは、週に一度の編集会議です。なかでも、企画を作って、皆に見てもらい意見をいただく月に1度の「企画会議」はとても楽しく有意義なものでした。それは、編集長であるYさんが、最初こそ、企画の目的や特集意図などを語りますが、具体的な方向性など次々に面白いアイディアを出してくれたからです。普通、担当編集者が奇抜で面白いアイディアを出すと、編集長や副編集長はその実現可能性や手厳しい読者の反応などを想定してもともととんがった企画をまるく抑えようとしそうですが、私が属した編集部のY編集長はその正反対。もっとも過激で、しかも笑える内容を語るのが編集長その人だったから、いやがおうにも皆爆笑して、企画会議はもりあがります。本人は「コンパニオンだ」と言っていたから、いつのまにか、「ブレストコンパニオン」というポジションまでできて、企画会議では編集部以外の一般の方をゲストで招くというスタイルも取り入れることとなりました。このY編集長の企画が走りに走り、それを切れ者の副編集長が「実現するための方法」を考えて、担当に丁寧に伝えるという最高のコンビだったかと思いますし、なにぶん、会議が楽しく「自分が思ったことを自由に話していいんだ」という認識が経験の浅い編集者にも伝わり、様々な企画が生まれた土壌になっていたと思います。その後、私が編集長になった時もこの「その場の一番上の者が率先してコンパニオンになったつもりで、他の人たちがアイディアを出しやすくする」という手は常に使っており、そんな中から多くのヒット企画が生まれたと思います。(拙書『まちの魅力を引き出す編集力』のp190-194ではこんなある日の編集会議からある企画が生まれた様子も記しています)

3 デスクで)必ず笑ってくれた制作チーフのNさん

自分が作ったものを上司に見せる時はいつも緊張しますよね。私も入社の最初の頃はそうでしたが、入社してまもなく異動してきたNさんが自分の上司になってからは、そんな気分が180度変わったことを覚えています。その理由はとてもシンプルなことで、出来上がった原稿を手に私がチーフデスクに近づいてくるのを察知したNさんは「お、来たな」と手を止めて、ニマニマしながら、私を迎えます。そしておそるおそる提出した広告原稿を見ると必ず「笑って」くれたからです。イラストやコピーやら、必ず「笑えるポイント」が見つかるらしく、ダメだしでさえ「チェリー(私のニックネーム)、これだめだよ~(爆笑)」と爆笑しながら言うのです。そのうち、先輩クリエイターたちも、「またあの新人が変な広告を作ったか」と興味津々でNさんの机のまわりに集まってきて、あーでもないこーでもないと和やかに批評をしてくれるようになりました。やはり、自分が作ったものを皆が見て笑ったり喜んだりしていると、自分もうれしくなって、そのうち、お調子者の私は「今度はどうやってNさんを笑わせようか?」と考えるようになっていました。今思えば、文章やデザインで人にものを伝える基本として、「笑い」がそこにあることがとても大切であることに気づかせてくれたのがこのNさんだったかと思います。そして、「ものを作る」ということは、そのすべてが昨日まではなかったものが新たに生まれるという「お慶び事」なのだという意識です。もちろん、後に私が制作チーフになった時もこの姿勢を忘れずに、ここぞというときこそ、笑ってみせました。

以上3つのエピソードでした。
営業課長のIさんから学んだ「ぶらぶら歩き」
編集長のYさん「ブレストコンパニオン」
制作チーフのNさん「笑って迎える」
いずれもそんな遠い昔を今思い出しても思わず心が温かくなるほどで、言葉では言い表せない財産を彼らからはいただいたように思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。
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