見出し画像

なぜ対象をしっかりと観察していないのか?観光人材育成論②現代の課題①「知覚の鍛錬~序章~」

 今回は、観光人材育成についての「商品価値を高めるために、対象そのものをしっかり観察するための「知覚」を鍛錬する」必要性についての第二回です。
 現在私が危惧している3つのうちの二番目「対象をしっかりと観察していない」についてとなります。
 「観察」という行為は「深く知る」という結果をもたらします。つまり今回のテーマである、「対象をしっかりと観察していない」ということは、言い換えれば「対象を深く知らない。理解していない」ということです。その結果、仕事の場合、そのような本人からは、提供される価値が乏しいということにつながります。

「対象をしっかり観察していない」=「対象について理解するところが少ない」=「仕事においては、提供価値が乏しい」のです。

ものを「知る」ためには人間の5つのセンス(五感)を活用することができます。
その中で、「観察」のとっかかりである「目で見る」について記します。
「目で見る」ことと「観察」は違います。
「観察」とは、「観て察する」こと。細かく言うと、「眼が知覚した形象」を「脳」がキャッチして、自分自身の既存知識などと照合して、ひとつの解釈のもと、本人が自分自身で納得するように、「意味」を作りだす一連の連鎖行為と言えます。そして、これは「深く知る」「理解する」と言えます。
特に、将来を担う若い方と接していて、彼らがこの大切な行為ができなくなってしまっている傾向があることを危惧している中で、思い当たる原因が二つあります。

①IT社会が生み出した「情報」の氾濫

今、IT社会を迎えた私たちは夥しい情報を「目で見て」います。
総務省の発表する「情報流通センサス」の調べによると、情報量は10年間(2002年~2012年)で530倍にもなっています。ウエッブサイトの登場に加えて、スマホの普及とその中のコンテンツの増加による所が大きいです。
するとどうなるか?
前回でも触れたように、私たちは、この莫大な情報量に望む望まぬの別なく、「検索する」「ぱっと見る」ことが増えますから、「じっくり見届ける」機会はそれに反して減ってきていると考えています。ですから「見落とし」も多い。「知覚」できる幅も少なくなります。「検索」しただけで求めていた答えを行き付いて、「理解した」気になってしまう。私たちは、より簡易で素早く目に飛び込んでくる刺激的な情報の伝えられ方にまんまと翻弄され、そこから掘り下げて「観察」に到る時間的機会を後回しにしてしまっているのです。

②スピード社会


そこに追い打ちをかけているのが企画などモノ作りをするプロセスにあたっての「スピード化」です。ビジネス社会でスピードが求められていることです。従来はじっくり観察することを経て60分かけて行っていた生産活動がIT技術を使うことで、6分で「とりあえず形ができる」ようになると、企業としてはその効率面にのみ目が行ってしまい、そこにあてがう人的パワーを、10分の1に削減したくなるのは当然です。スケジュールでもなんでも、事前計画においては「かかる時間は10分」と規定してしまうでしょう。本来の「観察を通して生み出す時間」は「作業時間」の扱いを受け、「この作業は10分」と決められてしまうことで、大切な「じっくり見て、しっかり考える」時間が抹消されてしまっていることは意外に気づかれていないように思います。

観光人材育成への影響

観光人材育成へ与える弊害は深刻です。
観光とは、もともと「光を観る」の語義からもわかるように、「価値を見出す」ことです。ですから、観光振興企画者が本来行うべき基本中の基本は、現場をじっくり見て、しっかり考え、価値を創出し、商品企画に落とし込むこと。現場に立って五感を研ぎ澄まして対象を知覚することが必須にもかかわらず、インターネット上で、誰か別の人が書いたり、撮影したりして表現した情報(二次情報)を見てしまっている。ここからは、対象物の生の迫力を全身に浴びるような体験はできません。二次情報ですから、誰かの知覚をもとに作られているわけで、見落としがあるかもしれないし、逆に画像加工で「盛る」なんてことが普通にされている。良かれ悪しかれ何らかのバイアスがかかっているのです。そういう企画プロセスで作られた観光企画が浅薄な価値しか提供できないことは明らかでしょう。
「観察」を経ずに、「検索」により得た情報だけで手っ取り早く商品が作れてしまう現実と、それができてしまうことで、さらに求められる「スピード化」。観光の楽しみを生み出す力を復活させるためにも、今私たちは「しっかり観察する」価値に気づき、そのために「知覚を鍛錬する」ことを含めた教育指針で観光人材を育み、業界全体で提供価値を上げる時だと考えます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回は、「商品価値を高めるために、対象そのものをしっかり観察するための「知覚」を鍛錬する」必要性の第三回目「自分の考えを仕事に活かしてはいけないと思い込んでいる」です。
観光業を指向している方が、「自分の考え」を大切にしながら、地域の魅力を創出して、集客を成功させるための一連のナレッジを現場体験をもとに紐解いた『まちの魅力を引き出す編集力』を2021年6月に上梓いたしました。

いずれもその企画者・実践者でしか伝えられない内容ばかりを集めていますので、どうぞご覧ください。(㈱同友館発行 1760円)
amazonのPageです↓
www.amazon.co.jp/dp/4496055414
地域の観光行政、観光振興団体(観光協会、DMOなど)向け
地域の観光振興の「担い手作り」と「体験型観光プラン作り」を同時に行なう令和4年度版『コンサルティング型プログラム商品』をリリースしました。
〇詳細はこちら↓(A4で16枚)
https://note.com/cherrybravo/n/n5c9d1cbaee97
〇プログラム商品価格表ございます。
メールにてお問い合わせください。お送りいたします。
cherrybravo2001@yahoo.co.jp
素敵な写真は飯田豊一さんのご提供でクロツラネラサギの飛翔です。(佐賀市与賀海岸 2022年5月13日)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?