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キャラクタライズってなに?(前編)

 キャラクタライズとは、最近はあまり聞かなくなってしまいましたが、前職のリクルートで主に求人広告を作っていた際は、皆が普通に伝っていた用語です。クリエイティブの打ち合わせ現場で「まずはキャラクタライズしないとはじまらないな」なんて風に普通に使っていました。今から四半世紀前のことですが。
 そして、その後に業界では「ペルソナ作り」という言い方で制作・マーケティング双方でしばしば聞くようになりました。キャラクタライズはこのペルソナ作りに本質的には似ていると思います。
 では、なぜ、「ペルソナ」ではなく「キャラクタライズ」を重視しているのか?それはこの2つの間に、わずかな違いがあるからなのです。そして、「キャラクタライズ」のほうが仕事で「使える」割合が高く、効果を出しやすいように感じるからなのです(後述します)。
この章ではそんな「キャラクタライズ」についてご紹介します。


 

1ターゲットをたった一人にすること


キャラクタライズの意味を説明します。
キャラクタライズとは、「商品やサービスの企画制作段階において、それが求められる人を具体的にイメージし、その方の固有名詞まで決めて、いきいきと実像が浮かぶようにすることで、関係者全員に共有され、リリースから実際の販促活動まで一連のプロダクト活動の効果を最大化する方法」です。
いわば「ターゲット設定」の一種なのですが、キャラクタライズの特徴はターゲットを「たった一人にすること」「妄想して作り出すこと」の二点だと考えています。

通常のターゲット設定上のペルソナ作りは以下3つのカテゴリー観点から、その人物のイメージを作り出します。
①    【デモグラフィック】年齢・ライフステージ・性別・職業・可処分所得・家族構成など。
②    【ジオグラフィック】国、地域、住んでいる場所、日常の中でよく行く場所、経路など
③    【サイコグラフィック】性格・趣味・価値観・ライフスタイル(志向性)など
上記3つの観点は必ず必要となっていて、マーケティングの教科書では、このためにしっかりデータを集めるところからはじめよう、と書かれています。
しかし、データからは「傾向」しか見えないはずです。

2データからは見つからない訴求点が見つかる


そして、「傾向」だけを把握した商品・サービスは「芯を食ってない」。つまり訴求力が弱いのです。野球に例えれば、時速140kmでストライクの球は投げられるけど155㎞の剛速球をそのバッターが苦手のインサイド高めにズバっと投げこめることはできない。そして、商品・サービスの紹介とは、いわば、相手チーム全員に140kmを投げるのではなくて、バッターボックスに入っているたった一人の打者に、彼が苦手とするコースに全力で155㎞の剛速球を投げるようなものなのです。キャラクタライズやペルソナ作りとは、そのバッターボックスに入っているたった一人の選手とのガチンコ対決なのです。
ですからペルソナ作りとは、この3つのグラフィックの利用から一段深めて、その人が実在の人物のように活き活きとイメージできるようにしようと、という目的のもと、はじまります。

3ペルソナ作りでは得られない「関係性」


ペルソナ作りにも、まだ問題があります。
ペルソナ作りは、あくまでデータを基本としているので、そこに制作者がリアリティを持てないことも多い。完璧なペルソナができたと言っても、なんとなくよそよそしい、そんな感じに陥りやすいのです。
この理由は何なのでしょう?
それは、作ったペルソナと、その制作者との間の「関係性」が見えないからだと考えています。ペルソナは生まれたのに、生み出した本人はそのペルソナをどう考えて、どう関係を構築できるのか?が見えないまんま、ペルソナ作り終了になっているのです。
これを解消するために必要なことが、「妄想」です。
そしてその「妄想」とは、ほかならぬ自分が生み出したもの、自分が感じ、考え、予測し、作りあげたものですから、自分との関係性が前提となっている。この妄想をいかに深くできるか、こそが、その後推進力をもって実際の商品・サービス作りに向かえるエンジンとなるのです。 

4知り合い10人をイメージする


キャラクタライズはこの妄想をよりスムーズにできるために、まったく違う手法をとります。データを集める前に、やっておくことがあります。
知り合い10人のことをイメージして、それぞれに対して上記の①②③を記しておくのです。ここでのポイントはいきなり聞いてしまうのではなく、まず、自分が考え予想することです。
そして、その後、ご本人に聞いて、自分の予想との差異を確認しておくことです。当たってる点、予想がはずれた点など、その一つひとつが勉強になるでしょう。

5データは消えるが、鍛えた主観は蓄えられる


これは、数字だけのデータからはけして生まれない、小さな成功と失敗を繰り返し、より妄想力を高めることに他なりません。妄想という言葉はこのあたりで捨てて、「想像」としましょう。この想像力をもって、その後のデータ収集・情報収集などを活かすのです。つまり、客観的事実を集める前に、それに向き合う自分の主観を鍛え、その対象との距離感が近いメリットをもって、仕事の質、提供価値と自らの介在価値を高めていくのです。
データはなくなったら終わりですが、鍛えた主観はその人に蓄積されていきます。その繰り返しは「経験」となって、生成型AIでは紐解けないご自分ならではの発想につながり、さらに、事業を進める推進力にさえ大きな好影響を及ぼします(この影響についてはまた別途記したいと思います)
私は「10人マーケティング」としてワークショップでレクチャーして皆さんに実践してもらっています。そして、商品サービスを新たに考える時に最初から「データをとろう」ではなくて、すでに自分がストックしていた「10人マーケティング」のサンプルの中から「この商品、サービスは10人の中で誰に最も提供したいか」と考える癖をつけてもらっています。そして、選ばれた人は、そのあとの進行プロセスに沿って、よいモニターとなり、リリース後は最初のユーザーとなり、さらに最初のファンになるように関係を持続していきます。
一人ひとりにあってお茶代をごちそうしたらできることですから、ほぼ予算はかかりません。数百万円するデータ収集などよりはるかに効率的で芯を食っていてその後の使い勝手がよいのです。キャラクタライズの神髄は、まさにこうして「身近な人に当てはめて妄想するところから新たな像を作り出す」ところにあるのです。

5キャラクタライズはいわば「彫刻」ではなく「粘土細工」


つまり、ペルソナ作りもキャラクタライズも」「ターゲット群という集団から一人のターゲットに絞り込む」のは同じですが、絞り込み方が違います。
ペルソナ作りは、度重なるモニタリングなどを通して、だんだんと姿を明らかにしていく、いわば「削り込み」のイメージで、一本の大木を削り、鑿を入れて、目や鼻を刻んでいくイメージ。これに対し、キャラクタライズは、まず身近なところにあるリアルなサンプルをとりあげ、そのサンプルに様々な観点から要素を「盛り込んでいき」、形がおかしい部分は矯正し、別の要素も付加するなどして、結果的に生き生きとした人物を作り上げるのです。針金でできた骨格に粘土など原料を塗りたくり、目や鼻などもとりつけて、リアルな人物像にしていく感じです。
ペルソナ作りは「彫刻」、キャラクタライズは「粘土細工」といったところでしょう。
そして、ペルソナ作りになく、キャラクタライズにある強味は、そのサンプルが現存している人間で制作者と懇ろ(ねんごろ)だということです。作業を続ける際に、サンプルが「それでいい」とか、「そうは思わないな」など生な意見をくださりナビゲーター役を担ってくれることです。
そろそろ紙面がなくなってきました。

次回は、キャラクタライズ後編として、実際のキャラクタライズを活用した観光商品作りの事例 について記しましょう。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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