短編小説『酩酊』
『あなたの過去も全て独占したい』
今の年下の彼は可愛くて仕方がない。
過去が私で全て埋められたらいいのに。
他の女の手に触れたり、
2人で思い出作ったり、
彼なりにも思い出があるだろう。
お酒が入っているからか、いつもより独占欲がどくどくと湧いてくる。
アルコール度数5%の缶チューハイ一缶で、酔いが回ってくる。
誰かが恋とアルコールは似ているって言ってたっけ。
飲み過ぎると二日酔いになって体がしんどいのに、また欲しくなるのと同じ原理で。
散々な恋愛をして「もう恋なんてしない」って思っていても、気がついたら誰かを好きになっている。
『あなたの笑顔は私だけが知っていたらいい』だなんて、年上の彼女が思うのは少し陳腐でしょう?
あなたが聞いたらきっと笑い飛ばすだろう。
「ねぇ、司、こっち向いて?」
『どうしたの?麻里」とこっちを向いてくれる。
「今日は貴方の全部を私で染み込ませたい。」
『何言ってるの?酔い過ぎでしょ〜』と笑って流してくれる。
「ううん、何でもないの」と、私は司の頬に顔を近づけて、耳を齧る。
『麻里、痛いよ』
そんなの知らない、と、聞こえないふりをして、
齧る力を強くする。
『耳に触れる度にこの痛みを思い出して。そして、私を思い出して』と願いを込めて齧った。
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