長編小説『君の血は甘い。』①
『ファーストキスってどんな味だった?』
放課後、行く場所がないのかずっと教室でたむろしている3人の女子達の会話が聞こえた。
私は週に一度回ってくる掃除当番の日だった。
6人の男女が一つのグループになって、教室やトイレ、廊下を掃除するだけだからそんなに苦ではない。
今日は教室内を箒で掃除していた。
話をしているグループ内の1人が
「味なんて何にもなかったよ」と話した。
「ファーストキスが檸檬の味って嘘なんだね」
「レモン飴舐めた後にキスしたんじゃない?」
「でももし相手の口臭が臭かったらどうしよう〜」
それ最悪でしょと3人の笑い声が大きくなる。
3人の中で最近彼氏が出来たという荒川さんはいつも以上に可愛くなったと思う。
相手がクラス内でもイケメンに属する男子と付き合ったから尚更幸せだろう。
高校3年生にもなれば周りは自然と恋愛を進んでいく。
私は今もこれからも学校内の男子と付き合うことは絶対にない。そもそも付き合えない。
私は、あの日から他の男のものになってはいけないと、どこかで支配されている気がする。
実際に「他に近づくな」とも言われたことはないのに。
ファーストキスが檸檬の味だなんて嘘。
そんな甘酸っぱくないことも知っている。
私のファーストキスは生温くて、唾液とは違う滑りがあった。
檸檬の味じゃなく、血の味だった。
私があの3人の輪に入っていたとして、ファーストキスが血の味だったと言って誰が信じるだろう。
あの人は私に何も言わずキスをした。
一度離したと思えばまた重ねてきた。
重ねるうちに舌が入ってきて、吸ったり吸われたり、血液と共に貪りあった。
キスが終わると口内一面に真っ赤な血液の味が広がっていた。
☆エブリスタ掲載作品です
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