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【エッセイ】コピー機、一旦俺と二人で飲みに行こう。

駆け出しの脚本家には、「印刷」という重労働がついて回る。
今ではシナリオコンクールの応募も、wordやPDFのデータをそのまま送信するのが主流になったが、舞台の台本は、印刷して配ったものがそのまま稽古で使われる。まして僕が携わるような手弁当の舞台なら、いちいち製本なんて行わない。
「明日の稽古までに人数分、刷ってきてね!」なんて、ザラにあることだ。

ハッキリ言う。
僕は「印刷」がこの世で一番苦手だ。

仮に、
「一生お腹が痛い」

「一生印刷をし続けなければならない」
という選択肢、
どちらか一つ絶対選ばなきゃいけないとしたら、前者を選んでしまいかねない。それぐらい苦手だ。
ここで、ほとんどの人はこう思うだろう。
「ちょっと待て、印刷は一生やってれば自ずと上達してきて、苦じゃなくなるだろう。何言ってやがんだ」と。
黙っとけボケナス。
僕はこれまで、何度も印刷を経験してきた。
期末の前に借りた、友達のノート。
大学時代のレポート。
お笑いサークルのライブで、客に配るアンケート。
挙げればキリがない。
多種多様なタイプの印刷を経験し、数えきれないほどの辛酸を舐めてきた。
いや、舐めさせられてきたのだ。

まず、あれだけイライラする所業のクセに、コピーできる場所の大半は「禁煙」だ。
意味が分からない。あれほどニコチンを必要とする空間はない。何ならコピー機の側では大麻だって解禁していいと思っている。
何にイライラするかといえば、まず「紙の大きさ」。
A4とかB5とか、彼らは隠語を巧みに使って我々を煙に巻こうとしてくる。キンモ、厨二病かよ。
「デッッッカい!」とか「ちぃちゃ〜い」とか、子供でも分かるように表記するべきだ。
そして大体、想像よりもデッッッカくなったり、ちぃちゃ〜くなったりする。
なぜ原本と同じものが複製できない?
何も難しいことは言ってないじゃないか。
もし僕が「なんか面白い印刷して〜」とか、寒いムチャブリをしていたのなら、まだ分かる。
でも、原本を原本のサイズのまま印刷してくれとしか言ってないのに、この有り様。
ハッキリ言ってお前、滑ってるから(笑)。

次に僕を苛立たせるのが「両面印刷」。
本の形になるように印刷しなきゃいけないとなると、横書きの場合、表紙をめくって1ページ、その裏に2ページ、でも見開きの反対側には19ページが来なきゃいけなくて、その裏が20ページ。
その次の紙は3ページの裏に4ページ、見開きの反対には……。
この時点で僕はYOSHIKIのバスドラムぐらい激しい貧乏ゆすりをしている。
どうやらコピー機には本の形に印刷してくれる機能があるらしいが、上手くいった試しがない。
酷い時には、次のページが上下逆さまになってたりする。
いや、コピー機に神童とかいらないから。独創性すごいか知らんけど。
そんでなんか、「長辺とじ」と「短辺とじ」とかいう訳分からんトラップに引っかけられる。
なんでデフォルトの設定が「短辺とじ」なんだよ。短辺とじで下から上にめくる本なんて、ポルノグラフィティのベスト盤の歌詞カードぐらいしか知らねえぞ。
そんな失敗を繰り返している間に、サークルから予算で貰った印刷代を使い果たし、自腹で印刷するハメになる。クソがよ。
最後、やっと終わって、コピー機の端っこにあるメーカー名を見る。
「RICOH」
どこがじゃい!!!!!!!!!!!

これはもう、機械音痴とかそういう次元じゃないと思っている。
僕がコピー機を見くびるから、向こうも警戒心を剥き出しにしてくるのだ。
ここはもう、対ヒトだと思って歩み寄るしかない。
向こうの警戒心を解くには、まず自分の警戒心を解くことだ。
今度、コピー機とサシで飲みに行こうと思う。
お前もいろいろ大変だろ?俺でよかったら、話聞くよ。
会計?そんなのお前が出せよ。
さんざん10円つぎ込んでやっただろうが。

(完)

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