44:メンタル不調の休職者をゼロにする! 一次予防×ラインケア「長時間労働対策は丁寧なマネジメントと交渉力」
長時間労働はもう非常識になってきている⁈
昨年、ある企業の若手研修に登壇した時のことです。
大手企業の社会人2年目社員の研修だったのですが、研修の休憩中に社員同士の話が聞こえてきました。
「最近残業どう?多い?」
「うーん、そうだね。最近増えてきたよー。先月なんて月に10時間超えてさー」
「えーそうなんだ。結構多いね」
私:「え、月に10時間超えて、が多い?それって・・・」
と衝撃を受けました。もちろん大手企業であることやこの企業が特別に長時間勤務や残業管理に力を入れている可能性や1,2年目のうちは残業を少なくするようにしている、などの可能性はあります。
なので、このことがすべてであるとは思いません。
しかしながら「10時間超える」ことが残業が多いこと、と認識している若手社員がいる、ということが大事な点ではないかと思います。
10時間は大げさだとしても、40時間を多く感じる方は増えてくるでしょうし、80時間を超えるなどということはその前後の文脈など意味がなくなり、「ブラック企業だ!」と思われてしまう可能性も高いのではないでしょうか。
残業や長時間勤務を肯定するつもりは一切ないものの、若手時代の「やりきる経験」や「まずは行動量を増やす」ということの重要性や効果を実感してきた世代としては本当に残業などをなくし、働く時間(=経験の時間)を少なくしていって良いのか?といった感覚もないと言えば嘘になります。
しかしながら私は「もう量で成長するというやり方は無理ではないか」と思っています。
これからの世代への「働かせ方」としては「限られた時間で経験の質を高めてもらう」ことを前提にしていくのが大事ではないかと思います。
イメージして欲しいのは「長時間勤務をさせているマネジメントは兵糧のない軍隊を率いているのと同じ!」ということ
想像してみてください。
あなたは軍隊を率いています。敵は自分の軍よりも人数が多く精強です。
部下の状態を見ると皆、肩で息をしています。数日前から兵糧もなくなり、疲労も限界に見えます。
でもあなたは「相手を破らなければ!」と思っています。
そしてあなたは声を部下にかけます!
「さあ、ここが正念場だ!突撃ー‼️」
・・・どうにかこうにか目の前の敵を倒すことができました。
するとあなたはまた声を張り上げます。
「さあ、目の前の敵は倒した!今度はもっと強大な敵にぶつかっていくぞ!ついて来い!」
さて、どうでしょう。
もし皆さんがこの軍隊のリーダーではなく、この戦争のドラマを見ている視聴者であれば、このリーダーにどのような感想を持つでしょうか。
またもし皆さんがこの軍隊のリーダーではなく、この軍隊の部下の立場であれば、このリーダーをどう思うでしょうか。
このリーダーはとてもリーダーシップが優れているようにも見えます。
この極限下において、それでも部下が目の前の敵に突撃させることができるわけです。部下を引っ張る力があるからです。
一方で私はこのリーダーを評価したいとは思いません。
なぜなら戦略的な能力があまりにも低いからです。
戦いにおいて、まず自分の味方を敵よりも有利な状態に置くことが大事なのは言うまでもないと思います。
敵に勝てるように部下を訓練すること、また部下が自分の能力を十分発揮できるようにすること。これが大事ではないでしょうか。
さて、ちょっと過激に戦争、軍隊になぞらえて話を進めましたが、仕事でも同じような場面はないでしょうか。
敵=求められている成果と見ていくと理解しやすいかと思います。
私がここで強調したいのは、社員が長時間勤務をしている状態を放置しているということは、このようにギリギリの状態で戦うことを放置していることになるのではないか、ということです。
長時間勤務を行なっている状態、ということをこういった生々しいイメージで見直していくことが大事なのではないかと思うのです。
「長時間勤務対策」は丁寧なマネジメントと管理職の交渉力がカギ!
私が提唱したいのはマネジメントにおける
「定義」「把握」「判断・介入」です。
といっても当たり前のことばかりですので、マネジメントを行なっている方は「そりゃそうだ」と思うことも多いのではないでしょうか。
ただ長時間勤務が常態化している企業や組織は、この当たり前が抜けていることも多いのではないかと思い、記載してみます。
定義とは「仕事の量」と「仕事の難易度」の二つから「工数」を決めることです
なぜこの定義が重要かというと、管理職として部下に、ある仕事を依頼したときに、その仕事がどれくらいの時間で終わるのかがわからなければ、部下の仕事の見積もりを立てることができないからです。
具体的に単純化した例を出しますと、
私がAという研修のコンテンツを作成するとします。
ゼロから設計するので、難易度は高いです。
また研修のコンテンツとしてスライドを100枚くらい作成するとします。
例えば100枚のスライドを作る作業を1枚30分として合計50時間
難易度として設計でゼロから作るので情報収集や設計検討を含めて50時間
合わせて100時間として工数を見積もります。
※もちろんこんな単純には考えることができないので、実際に定義を作るときはもっと詳細に検証する必要があります。
これで5月中に作成するという期限を当てはめれば、この部下には100時間の仕事が与えられたことになります。
上司から仕事を与える形の業務であれば、このように定義づけることが重要です。
また自由度が高い仕事、例えば営業などで自分で開拓するようなケースであれば、こういった工数では定義づけられませんので、残業を規制して、その中で工夫するようにといった管理が必要になります。
あとこの「定義」は更新する必要があります。
仕組みを変えたり、システムで簡略化したりすることでA業務100時間を70時間で実行可能にしていきます。
「把握」とは部下の「総業務量」と「時間の使い方」を把握し、管理することです
「把握」するからこそ、管理職として部下への介入ができるようになるからです。
「定義」に関しては、管理職からの依頼する業務と本人の選択権の高い業務でやり方が変わりましたが、「把握」においては全ての業務で適用できます。
具体的に「把握」するのは部下の総業務量と時間の使い方です。
例えばXさんの5月1日の現状として総業務量が188時間
5月1日から5月31日までで稼働日数は21日
1日8時間として合計168時間が勤務時間とした場合は現時点で20時間の残業が必要になります。
この時点でXさんは普通に働くと残業があることになります。
ただこれだけでは把握したとは言えません。
1日の時間の使い方の把握です。
それをみてみるとXさんは今年から後輩の面倒を見るようになっていて、その時間として1日1時間、また他部署からの問い合わせ対応に、後輩からの質問対応に時間を使っています。
結局Xさんは1日のうち、65%しか本来の業務に時間が使えていません。
そうすると当然残業はもっと膨らみますので、40時間とか60時間などとなってしまうのです。こうやって管理職がアサインした仕事以外に仕事がある場合などもあり、結果そんなに無理な仕事を与えているわけではないはずなのに、部下が残業している、ということも起こります。
「判断・介入」とは把握した部下の状況から「介入する・しない」を判断し、実行することです
介入の仕方や部下への接し方などはシチュエーショナル・リーダーシップ理論などを参考にしてくださればと思いますが、
この記事では「与えている仕事」の問題か、「部下の能力と状態」の問題か、「部下の仕事のバランス」の問題かをみていくことをお勧めします。
・「与えている仕事」が多すぎるかどうかをみる。
「与えている仕事」が過剰であれば減らす介入を検討する
・「部下の能力と状態」
部下の能力が高ければ与えている仕事がある程度であれば短縮可能であるかどうか
部下の能力が低ければ与えている仕事がどれくらい超過しそうか(10時間の仕事を与えたが、13時間はかかりそうなど)
どちらにせよ部下の能力を超えていれば介入が必要になります。
また能力が高くても「状態が悪い」ということは発生します。
元々の能力は高いが、最近その能力を発揮できていない、ということです。
能力だけではなく能力の発揮状態も重要です。
・「部下の仕事のバランス」
能力ではなく、仕事のバランスが悪い、ということがあります。
1日の仕事のうち、他の人の手伝いをしている時間が多く自分の仕事には50%以下しか手をつけることができていない、という状態では問題です。
私はOJTトレーナー研修やメンター研修の登壇を多く行なっておりますが、受講生の話を聞いていると、自分の業務以外にメンターという役割を担っていて、でも自分の業務は減るわけではないから、残業して自分の業務を行うしかない、という話を聞くことがあります。
これは本人がどうにかしていく場面と上司が介入してく場面があります。
管理職の「顧客」「会社」「上司」「他部署」「部下」への交渉力が重要!
ここまで管理職がどのように部署運営をしていくと良いかを「定義」「把握」「判断・介入」という観点で見ていきました。
このような部署運営をしていくには管理職が各方面に対して交渉をする力が大事だと思います。
管理職が現在の部署の戦力を考えた時にできることを各方面と交渉をしていく、ということです。
「部長が今年は3000時間分のリソースのうちの部署に5000時間(目標の比喩として!)分の仕事をするように言ってきたから、みんなどうにかして頑張ろう!」というのは無茶です。
5000時間分を4000時間分に減らすのか、自部署のリソースを増やすのか、他部署のリソースを借りるのか、などなど。
こういった交渉を行なっていくことが「管理職にとっての交渉力の発揮」になるのではないかと思います。
ちなみに私は部下、メンバー一人一人のレジリエンスとしてもこの「交渉力」が大事だと思っています。
それはまたどこかで書きたいです。
まとめ
今回の記事では「休職する人をゼロにしたい」と書いた記事い連動した内容となっています。
一次予防×ラインケアとしてマネジメントの部署運営について書きました。
もっと部下との関わり方などもありますが、今回はここまでとしたいと思います。
また、実際には「とはいえ・・・」という各種状況があることを承知の上で書いています。まずは基本中の基本を書いてみました。
この記事を読んで「メンタル不調による休職をゼロにするために何かしたい!」と思った方がいましたらお声がけください。
一緒に考えていきましょう。
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